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【本編完結】ドールと呼ばれた公爵令嬢の乱逆  作者: いか人参
第二章 王国編

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終わらない鬼ごっこ


翌日、アレシアは早速行動に移した。

店へ向かい、いつものようにクロエだけが店内に入った。

下女に茹でたジャガイモを袋に詰めるよう依頼をし、それをクロエが受け取り、アレシアの待つ馬車へと運んだ。



「アレシア様、本当に現地に伺うのですか?」


クロエは、出来ればやめて欲しいという想いを全面に出しながら問いかけた。



「来ないんだから、行くしかないじゃない。きっとお店に入りにくいのよ。手渡しすれば受け取ってくれるはずだわ。」


以前のクロエなら、どうしてそこまでするのかと問い返したところだが、アレシアの強い想いを知った今、ここで止めることは出来ない。



「畏まりました。これから向かうエリアは安全とは言えませんので、私の側からは決して離れないで下さいませ。」


「ありがとう、クロエ。」




アレシアはクロエと共に馬車を降りて路地裏の道を進み、人気のない場所までやってきた。

そこは、以前イオンに連れ行ってもらった場所と酷似していた。建物に挟まれた暗くて細い道が続いている。


アレシアはすっと目を細めて、その先を見る。物陰に隠れるようにして座っている人影が見えた。


「誰かいるわね。」



アレシアが見えた人影に近付くと、その背格好から相手は子どもであることが分かった。

建物に寄りかかった状態で、膝を抱えて頭を下げ、座り込んでいる。



「ねぇ、君。お腹空いてない?これ食べる?」


アレシアは、少し離れたところから、にっこりと微笑んで持ってきたジャガイモを見せた。



「…」


相手は一瞬だけアレシアのことを見たが、返事はなかった。また先ほどの姿勢に戻った。



「これあげるわ。」

「…」

「ここに置いておくわね。」

「…」


何も反応がないので、諦めたアレシアはその子の足元にそっと紙袋を置いた。


反応の有無はともかく、目的を達成できたアレシアは次の対象を探そうと踵を返した時、何かが壁にぶつかる音が聞こえた。



「え…」


振り返ると、先ほどの子どもの手によって、彼の足元に置いた紙袋が向かいの壁に叩き付けられていた。



「な、何するのよ!!」


少年はアレシアの言葉を無視して、走って逃げて行ってしまった。



「せっかく、作ったのに…」


アレシアは壁に叩き付けられた袋を拾い上げ、両手で抱きしめた。自分で育てた食べ物を粗末にされた悔しさに、目が滲む。アレシアは涙を堪えるために、唇をきつく噛み締めた。



「お嬢様、一度馬車へ戻りましょう。」


アレシアの名を呼ばないように気遣ったクロエに促され、アレシアは馬車へと戻った。




「クロエ、今日のことは国王に言わないでおいてもらえる?言ったらきっと反対されるわ。私はこんなことでやめたりしない。せめて、拒絶される理由くらいは知りたいの。」


帰りの馬車の中、アレシアの声に悲しさや怒りは感じられず、そこには強い意志だけが宿っていた。



「畏まりました。しかし、アレシア様の身に危険が迫る場合は、力づくでも連れ帰りますので、ご承知おき下さいませ。」


「そうならないように貴女がいるんでしょ?頼むわね。」


アレシアはにっこりと微笑んだ。

対して、クロエは思いっきり苦笑していた。





翌日から、市井での壮絶な鬼ごっこが始まった。


昨日と似たような場所で子どもを探し、見つけて声を掛けたり、こちらの存在を認知されたりすると、すぐに逃げられる、そしてそれを追いかける、その繰り返しだ。


毎回彼らの居場所は変わるので、行く度に彼らがいそうな場所を探すところから鬼ごっこは始まる。

それは、体力のないアレシアにとって苦行でしかなかった。


身体的な疲労と、成したいことを成せないことによる心労は、日に日に募り、アレシアの心身に悪影響を及ぼしていた。




「アレシア、大丈夫かい?」


傍観に徹していたイオンだったが、見るからに調子の悪そうなアレシアに、我慢の限界を迎え、朝食の時に声を掛けた。



「ええ、問題ないわ。鬼ごっこに負け続けて悔しいだけよ…」


悲壮な面持ちでアレシアは答えた。

食欲がないのか、彼女の前にあるのはヨーグルトとフレッシュジュースだけだった。一週間以上この状況が続いている。



「無理はしないで。君の想いも努力も僕が一番理解している。アレシア、君は十分に頑張っているんだ。必要以上に自分自身を追い込んではいけないよ。」


イオンは痛みを堪えるような顔で微笑み掛けた。



「まだ大丈夫、まだ私に出来ることがあると思うの。お願いだから、あともう少しだけこのまま私にやらせて欲しい。私は大丈夫だから。」


アレシアにしては珍しく、必死で泣きそうな声だった。



「分かったよ。その代わり、明日少し僕に付き合って欲しい。気分転換をしよう。」


「ありがとう、分かったわ。」


アレシアの必死の想いに、イオンはそれをやめさせることは出来なかった。





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