開店準備
アレシアの目の前には、こんがりと焼いたバケット、ホワイトソースの掛かったふわふわ卵のオムレツ、燻製ハムのソテー、サラダ、スープ、絞り立てのオレンジジュースが並んでいた。
「今日も美味しそうだわ!」
イオンのエスコートで席についたアレシアは目を輝かせた。
隣に座ったイオンも、笑顔のアレシアを見て嬉しそうに微笑んでいる。
毎日一緒に朝食をとる宣言の後、イオンは本当に毎朝アレシアを部屋まで迎えに来ていた。
朝方まで仕事をしていた日も、笑顔で彼女の部屋を訪れていたのだ。
最初は渋っていたアレシアだが、毎日繰り返されると人は慣れるようで、今ではイオンのお迎えで一緒にダイニングルームに行き、互いに近況報告をしながら朝食を取ることが日課となっていた。
「アレシアの畑は順調かい?」
「ええ、このままいけば、早いものなら来月には収穫出来るかも。だからそろそろ実際に食事を提供することについても考えないと…」
アレシアは難しい顔でジャムを塗ったパンに齧り付いている。
「たしか、メルクーリの方で協力店をいくつか見つけていたと思うけど。何か困り事かい?」
「肝心の作り手がね…軌道に乗ったら食事を報酬にして募った人達に任せられるけど、最初はこちらでやらないと難しそうだなって…」
アレシアは、自分が作り手として市井に行く許可をもらいたくて、ちらりとイオンの顔を見上げた。
イオンは首を横に振った。
やっぱりダメよね…
外に行くだけならまだしも、市井にあるお店でまさか王妃が食事を作るなんて、それはさすがに許容範囲超えてるわよね、、、、
警備のこともあるし、だれか他の人を探さないとダメかぁ…
「アレシア、いくらこの国のためとはいえ、君の手料理を他のヤツらに振る舞う許可は出せない。僕だって食べたことないのに…いや、食べたことがあったとしても、他の者にまでなんて、、そんなのは絶対に駄目だ。」
「は・・・」
ものすごい方向から断固拒否されたアレシア。
「手料理って…じゃがいもの皮剥いて茹でるだけとか、そんなものよ。こんなの国王陛下に食べさせたら私は処罰されるわ。」
「アレシアが作ってくれたものなら、どんなフルコースよりも価値がある。」
「私は貴方の作ってくれた料理より、フルコースの方がいいわ。」
「それはそうだろうね…」
いつもの調子で食事を終えた二人。
イオンから、作り手として王宮にいる下女に依頼して良いと許可が下り、手配を頼んでおくと言って、イオンは公務に戻った。
アレシアは、今後の計画を練るため自室に戻った。
畑仕事が落ち着いた今は、クロエの頭脳を借りて、やりたいことを具現化していくことに時間を使っている。
「アレシア様、畑の作物ですが、現状の生育状態からして、あと6週間ほどで収穫出来る見込みです。次に、協力店についてですが、調査の結果、この店が最も適していると判断しました。ここは、市井の中でも安全なエリア且つ店の構造上警備がし易いです。また、お借りできるテーブルは一つなのですが、子どもであれば10名は座れそうな広さがあります。アレシア様の方でご懸念が無ければ、こちらが適切だと考えたのですが、いかがでしょうか。」
アレシアは、クロエが用意してくれた資料を手元で読みながら説明を聞いていた。
「すごいわ…完璧よ。さすがクロエね。将来的には各エリアに協力店を増やしたいけど、まずは試験的にここでやってみましょう。肝心の提供するメニューだけど、やはり最初は蒸したじゃがいもか野菜スープが無難かしら。」
「そうですね…効果のほどが分かりませんから、最小限の規模で開始するのが良いと思われます。最初の一週間は、蒸した芋類の提供で様子を見るのは如何でしょうか。初日は10名分の用意にし、足りないようでしたら、翌日から増やしていきましょう。増やしたとしても、1日30名分くらいが限界かと思いますが、今後それ以上になる場合は国王陛下に相談をして参ります。」
「そうね。30人分も提供出来たら十分だと思うけれど、様子を見ながらやっていきましょうか。引き続きで悪いけれど、協力店との話し合い宜しくね。私は頑張って美味しいジャガイモを育てるわ!」
クロエと協力店との話し合いも順調に進み、アレシアのジャガイモもすくすくと育っていた。
提供するメニューはふかし芋に決まったが、作り手を担う下女の提案で、芋の上にトマトソースをかけることになった。
畑のトマトを使うためコストがかからず、芋だけの見た目よりも良いだろうということで、決まったのだ。
店の厨房を占領してしまわないよう、トマトソースは前もって下女が王宮の厨房で作り、瓶に詰めて店に運ぶ予定だ。
準備は順調に進み、いよいよ明日、協力店の一画を借りて子ども達に食事を振る舞う初日となった。
「ファニス、明日の僕の予定は?」
「無理ですよ。」
「まだ何も言っていない。」
「国王陛下は大人しく王宮内いて下さい。必要であれば私が代わりに様子を見て参りましょう。」
「チッ…」
少しだけ公務を抜け出して様子を見に行こうとしていたイオン。
その目論見はすぐにバレ、ファニスによって、明日のイオンの護衛という名の監視役を増やされていた。




