成人の儀の翌日
成人の儀から一夜明けた今日、アレシアの元にイオンから手紙が届いていた。
「これ、どうしたのかしら…」
手紙の内容は、いつもの彼らしくなく、簡単な時候の挨拶の後に、要件だけ書かれている。内容は、『今日のなるべく早い時間に登城してくれ』というものだった。
いつもの薔薇の花束は無かった。
「あのイオン王子がこんな簡潔な手紙を書くんだから、急用に違いないよ。姉様、僕も行くよ。行って外で待ってる。急いで支度しよう。」
「ええ、そうね!」
イオンの、美辞麗句のない普通の手紙に驚き、言いようのない不安を抱いた二人は、すぐに王宮へ行く支度を始めた。
私も王子にちゃんと言わないと…
ありがとうとさよならをして、次こそ自分の道を歩むんだから。
手紙が届いた日のお昼、アレシア達は王宮に到着していた。今回呼ばれたのはアレシアのみのため、ティモンは門の外で待つ。
アレシアは、王宮入り口の詰め所で王子からの手紙を見せ、中に入れてもらった。
護衛が二人、アレシアの前後を歩き、彼女をイオンの元へと案内する。
ん…?なんだかおかしくない??
私はもう婚約者じゃないのに。
というか、婚約者時代もこんな仰々しい扱いを受けたことないんだけど…
アレシアとすれ違う人は皆、傍に寄って立ち止まり頭を下げてくるのだ。
困惑しているうちに、大きな扉の前に辿り着いた。ここにイオンがいるらしい。
護衛が入室の許可を取り、アレシアを部屋の中へと促した。
広い執務室の中、来客用のソファーセットが置かれ、その奥、窓を背にして置かれた大きなデスクにイオンが座っていた。
「アレシア、久しぶり。元気にしてたかい?急にこちらまで、呼び立てて悪かったね。」
申し訳なさそうにしているイオンだが、アレシアに会えた喜びが笑顔となって溢れ出ていた。
宝物を見つけたような嬉しそうな顔でアレシアのことを見つめてくる。
トクンッ…
あぁやっぱり私は…
この自分だけを見つめてくれる目が嬉しい、心底嬉しそうな彼の声も嬉しい、隠しきれない私への喜びが嬉しい。私はもう、彼の全てに心臓を掴まれている。
私は、どうしようもなく彼のことが、
「アレシア!?」
焦ったイオンがアレシアの元へと飛んできた。彼女を心配するようにそっと抱きしめて、指で目元の涙を拭った。
「え…?」
そこで初めて自分が泣いていたことに気付いたアレシア。
「あ、ごめんなさい…私…」
「どうしたの?何かあった?」
彼の声は、泣きたくなるくらい優しい声音だった。
「ご、ごめんなさい…私貴方のこと騙してた…婚約制度改変の話、私にも適用されるようにって細工してて…昨日施行された、から、私もう貴方の婚約者じゃなくて…なのに、寂しいって思ってしまって…自分でしたことなのに、貴方の気持ち裏切ったのに…それで…」
「アレシア、僕との婚約解消を寂しいと思って、涙を流してくれたの…?」
アレシアは、抱きしめられたままイオンの腕の中で頷いた。
「…嬉しい」
感極まったイオンの声は、感情が昂り過ぎて少し掠れていた。
「愛している、僕のアレシア。」
「でも、もう私たちはっ…」
イオンは抱きしめる腕を緩め、アレシアの肩に手を置いたまま、向き合う形を取った。
彼女の目を真っ直ぐに見つめる。
「よく聞いて、アレシア。今日僕が君のことを呼び出した理由なんだけど、君に伝えないといけないことがあるんだ。」
イオンは緊張した面持ちで一度言葉を区切り、意を決した顔で続きを話し始めた。
「正式な発表はこれからだけど、僕は王位を継いで、この国の王になった。そしてアレシア、君は僕の妻、つまりは王妃になったんだ。」
「は?」
「婚約解消の制度改変の適用範囲はもちろん、婚約者に限られているからね。婚姻関係にある僕たちには、何の影響もないよ。だから安心して。」
「婚姻関係…?」
「そうだよ。」
「誰と誰が?」
「僕とアレシアが、だね。」
「はあああああああああああっ!???」
令嬢らしからぬ野太い声が執務室に響き渡った。さすがは王宮の執務室、廊下にその声が漏れることはなかった。
「勝手に何やってくれているのよ!!同意もなく籍入れるとか、もはや犯罪でしょう!!」
「国王になるタイミングで、婚約者は自動的に籍が入れられて王妃となってしまうんだ。僕たちの子ども達のためにも、色々と変えていかないといけないね。」
「いや、それ今やろうよ今!!今変えないでいつやるのよ!今が変え時でしょう!!!」
「あれ?さっき寂しいって泣いてくれたアレシアはどこに行ってしまったのかな?あんなに寂しがってくれたのに、喜んではくれないの?」
「そんなの彼方に飛んでいったわ!貴方のせいよ!!勝手にこんなことするから、もうっ…」
抗議を続けるアレシアをイオンは強く抱きしめた。
「僕のせいで、勝手にこんなことをして心からすまないと思っている。でも僕はもう君のことを手放してやれない。」
「私…色々とやりたいこと考えていたのよ…」
「詳しく聞かせて。それ全部実現させよう。僕のアレシアはいつだって自由でいて欲しいから。王妃という椅子に縛りつけることなんてしないよ。」
「…分かったわよ」
「ありがとう、アレシア。心から君を愛している。」
ここまで読んでくださった方ありがとうございます!ここで、婚約解消編が完結となります。続きの章はまた追って更新します。
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宜しければ、次の章も読んで頂けたら大変嬉しいです。
引き続き宜しくお願いします。
※もう一つの、「思い込みで死亡フラグ回避に奔走します!」の更新を少し進めようかなと思っております。




