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【本編完結】ドールと呼ばれた公爵令嬢の乱逆  作者: いか人参
第一章 婚約解消編

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本当の自由とは


この大通りには、道の両側に多くの屋台が並んでいる。


野菜や果物など食材の店、アクセサリーや小物の店、フレッシュジュースや串焼きなど食べ物の店、スカーフやハンカチなど布製品の店、パンの店、花を売る店、お菓子を売る店など、様々な種類の屋台が立ち並んでいた。


屋台で物を売る人々は皆、通行人に向かって挨拶をしたり、これは安いよと勧めたりしている。手を叩いたり、鈴を鳴らしたり、興味を引くことに必死だ。



焼いた肉や焼きたてのパンの香りがする、よく通る売り子の大きな声、品物を見て話す人々の声、時折り楽しそうな笑い声も聞こえてくる。



そこにいる人たちは、皆自由だった。

少なくともアレシアにはそう見えた。



値段を聞いて嫌そうな顔をしたり、珍しい物を見つけて驚いた声を出したり、連れと大きな声で笑い合っていたり、人気の屋台まで走っている人までいたり。


皆が感じたまま、したいようにそれを表に出して行動していた。

表面を繕うことに必死の貴族達とは、何もかもが正反対だった。



「すごい活気…この喧騒は嫌じゃないわ。」


「これが、市井の人達さ。」



イオンは、フレッシュジュースの屋台の前に立った。


「おばさん、いつものやつ2つ貰える?」


「あら、イサフじゃないの。久しいね。おやまぁ、後ろに美人さんなんか連れて…あんたの彼女かい?」


「ふふ、僕の彼女可愛いだろ?」


「ほんとに彼女だったのかい。いつの間にこんな可愛い子を物して…あんたも隅におけないねぇ…」



イオンは慣れたように店主と会話をしていた。


店主の女性はおしゃべりをしながらも手際がよく、オレンジとリンゴの皮を剥いてぶつ切りにし、それらを絞り機の中に入れ、くるくるとハンドルを回しながら果汁を搾り出していく。


あっという間にフレッシュジュースが出来上がった。

そして、カップに移したジュースに最後、レモン汁を数滴加える。


これがイオンが来る度に注文していたレモン入りミックスジュースだ。


「はい、どうぞ。」

「ありがとう。」


イオンは、ジュースを受け取る代わりに、銅貨を2枚手渡した。


「はい、美人さんにはこっちね。」

「あ、ありがとう。」


アレシアが受け取ったジュースには、綺麗なオレンジ色の花が飾られていた。


味が気になって仕方のなかった彼女は、その場で一口啜った。

口に含んだ瞬間、熟した果物の甘味、レモンの酸味が口の中に広がる。


「…美味しいっ」


店主の人の良さや街の雰囲気もあり、邸で食すものよりも、数段美味しく感じられた。



「うん、相変わらずここのフレッシュジュースは美味しいよ。おばさん、また来るね!」


「ご贔屓に頼むよ。美人さんと仲良くやりなさいよ!」


「はは、言われなくても!」


イオンは軽口を言って、フレッシュジュースの店の前を後にした。





「頻繁にここに来ているの?」


「ここ最近は来れてないけれど、去年までは毎週来てたかな。」


二人は、ジュースを片手に、飲みながら屋台のある通りを散策していた。

貴族としては完全にマナー違反の行動だが、ここで気にする者はいない。




昼食の時間が近くなり、人が増えてきた。


アレシアは行き交う人々の姿をや屋台に並ぶ品物、言葉を交わす店主と客、その全てを興味津々に眺めていた。


イオンは手繋ぎをやめて、今度はアレシアの腰に腕を添えて抱えるようにした。

彼女ごと、人とのぶつかりを避けるためだ。


歩きやすくなったアレシアは、益々夢中になって、周りの様子を眺めた。




「皆、なんだかとても楽しそう…」


「彼らは、日々本音で自分たちのために生きているからね。僕らみたいに、悲しい時や怒っている時に微笑むことはない。」


「ちょっと羨ましいわ…」


「でもその分僕らは、平民の何十倍もの金を手にしている。そして、平民は、明日の暮らしのために今日を生きている。だから僕らも、今の地位に驕らず、支えてくれる平民に還元出来るような社会にしていかないといけない。」


帽子に隠されたイオンの目は、真剣そのものだった。


「平民の暮らしは自由ばかりではないんだ。明日の生活すら、ままならない者達もいる。」




イオンは、大通りから外れ、一本の細い路地へとアレシアを連れて進んで行った。

先ほどまでの喧騒はなくなり、建物に挟まれた細い道には光が入らないため、薄暗い。


イオンは途中で足を止めて、その先に目を向けた。

アレシアも彼と同じ方向に目を向ける。



え…



声にならなかった。


そこには、何人かの子どもたちがいた。

皆、街の子達ですら着ていないような、ボロ切れみたいな汚れた布のような服を纏っている。


道に座り込む者、ゴミ捨て場を漁る者、横たわって寝ている者。


そこには、アレシアが想像すらしたこのない痛ましい光景が広がっていた。





「子どもたちが、こんなっ…」


アレシアは衝撃で泣きそうになり、言葉に詰まった。

イオンは、少し離れた場所まで彼女を連れて移動した。



「突然ごめん。驚いただろう?あれはこの国の闇だ。そして、僕が救いたい人たちなんだ。今ここにある金を渡しても、彼らは恒久的な幸せを得ることは出来ない。持続する仕組みづくりが必要なんだ。僕はそれを実現させ、この国に本当の意味での安寧をもたらしたい。そのことを君にも知ってもらいたかったんだ。」


「自由で、羨ましいって…、私勘違いしてた。私は守られていたんだ…」



自由である、何にも縛られないということは、何からも干渉を受けない、受けられないということだったんだ…

それがたとえ、庇護だったとしても。



「僕は両方求めて良いと思っている。自由に生きている人も守るべき対象だ。自身の自由と守護を求めて何が悪い。自由を選んだからといって、見捨てるような国にはしたくない。」


「両方…」


イオンの考えはアレシアの心に深く刺さった。





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