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【本編完結】ドールと呼ばれた公爵令嬢の乱逆  作者: いか人参
第一章 婚約解消編

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イサフとシア


アレシアはいつもと違った装いをしていた。


シンプルな綿素材のクリーム色のワンピースに、珍しく、帽子をかぶっている。

髪飾りもリボンもなく、髪はただ一本に結ってあるだけだ。

装飾品は見当たらない。




そう、今日はイオンとも共に市井へ行く日なのだ。


イオンから、


『お忍びのため、目立たない地味な格好で来てくれた。ただ、どんな格好をしたとしても、君のその美貌と輝きは隠せるはずもないのだけどね。僕が君がどんな姿をしてようと…云々』


と、半分以上美辞麗句で埋まった手紙が届き、アレシアは今回の服装に決めたのだ。




王家や公爵家の紋章の入った馬車で向かうと目立ってしまうため、イオンは、紋章なしの目立たない馬車を用意してくれた。


アレシアは、迎えに来てくれた馬車で、市井の入り口へと向かう。

警備の都合上、イオンは別の馬車で向かう手筈となっている。



市井ってどんなところなんだろう…


沢山の人がいるのだろうか…


賑わってるのかな…



まだ見ぬ世界に想いを馳せながら、アレシアは馬車に揺られていた。



揺られて30分ほどで馬車が止まった。

目的地に着いたらしい。


ゆっくりと外側から開かれたドアから、アレシアがひょっこりと顔を出す。


そこにはまだ人々の姿はなかった。



イオンと合流するために、御者の手を借りて外に出ようとしたアレシアだったが、すぐに違和感に気付いた。



ん…?これ知ってる気がする…



慣れた感触に、繋がれた手の先を見る。


その人は、帽子を目深に被っていたが、下から覗き込むと、透き通るような青い瞳と目が合った。



「あっ!!やっぱり!」


「ふふ、さすがは僕のアレシア。すぐに気付いてくれて嬉しいよ。町娘の君も可愛いね。」




イオンは、目立つ青い瞳を隠すように帽子を深く被り、長く美しい金色の髪は帽子の中に仕舞い込んで目立たないようにしていた。

服装も、平民が着るような、土色のパンツに白シャツだ。


近くで顔を覗き込まない限り、王子とは分からない風貌だった。



「アレシア、とうぞ。」


イオンは赤い薔薇を一本差し出した。


「ありがとう…」


赤い薔薇は愛情の意味を持つ、そして、薔薇が一本の場合の花言葉は…


「この花言葉は分かるかい?」


もちろん、アレシアは知っていた。


公爵令嬢の嗜みとして、この国で一般的な花の花言葉は全て知識として保持している。


「…健康、とかかしら?」


自分の口で言うのがなんとなく気恥ずかしかったアレシアは、思い切り違う答えを選んだ。


「ふふ、僕に言わせたかったのかな?」


イオンが、意地悪そうな顔をした。



「『貴女しかいない』いつだって、僕には君しかいないんだ、アレシア。だから今日は、この国のことを君に知ってもらって、出来れば少しでも好きになってもらいたいんだ。」



そして僕のことも…


本当は言いたかったけれど、彼は口には出さず、心の内に留めた。




「そんな言い方はズルいけど…でも、私もこの国のことを知りたいって思っている。今まで、何にも興味を持たずに生きてきたから。だから今日は、貴方から見た世界を私にも見せてくれる?」


「そんな言い方…アレシアの方がズルいと思うんだけど…」


アレシアの可愛いお願いに、イオンは全力でときめいていた。



「ああ、そうだ。今日僕のことは王子って呼ばないようにね。お忍びがバレると大変だから。」


「分かったわ。なるべく、『ねぇ』とか『おい』とか声を掛けるようにするわね!」


「いやちょっと待って、配慮の方向性おかしくない?おい、なんて呼ばれたら泣いちゃうんだけど…」


「えっ、でも知らない人に対して、なんて声掛けしたらいいのよ…」


「僕たち、なぜ知らない人同士の設定になっているの…?」


アレシアの思考がよく分からない方向に向かい始めたため、イオンは無理やり軌道修正した。



「ええと、これまでの話は一旦忘れて。僕のことは、イサフと呼んでくれ。アレシアのことは…シアって呼んでもいいかな?」


「分かったわ、イサフ。」


「マズイな…想像以上に可愛いんだけど…」


「はいっ?」


仮の名とはいえ、初めて名前を呼ばれたという事実に、イオンは身悶えていた。

こんなにすんなり呼んでくれるとは思っていなかったのだ。




気を取り直したイオンが声を掛けた。


「さぁ行くよ、シア。」



彼は、アレシアが手に持っていた薔薇をそっと取り上げて、枝を手で折って、彼女の髪に差した。


2人はそのまま手を繋いで歩き出した。




シアって呼ばれ方、居心地の悪いような、ソワソワするような…なんだか変な気分…


アレシアは今頃、照れを感じていた。





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