いつもと違うダンス
「愛しのアレシア、せっかくだから僕たちも踊りに行こう。」
にっこりと微笑んだイオンは、いつもの調子でアレシアに誘いの手を差し出した。
アレシアは彼の手を取り、会場へと戻った。
会場内は漸く熱気が落ち着いてきたところだったのだが、アレシアとイオンの姿を見つけた瞬間、再熱した。
大きな拍手で迎えてくれた。
最初の入場と同じことが起きただけなのに、様子はすっかり変わっていた。
皆、羨望の眼差しで2人のことを見ている。
「ねぇ、なんだか様子が変わりすぎじゃない?」
「ふふ、君もだいぶ変わってるけど。でも、僕はどちらのアレシアも好きだよ。」
「…良かったわね。」
コソコソ話を終えたイオンは、皆に見せ付けるように、片膝をついて、アレシアに向き合った。
「僕の愛しい人、どうか一曲踊って頂けますか?」
「ええ、喜んで。」
しっかりと令嬢モードに戻ったアレシアは、少しだけ照れを感じさせる微笑みでイオンの手を取った。
そんな2人の様子に、周囲から歓声や拍手が鳴り響いた。
金髪碧眼のザ王子様の彼が跪いて、極上の美貌を持つ女性に、縋るようにダンスの相手を求める。
そんな物語に出てきそうな絵になる場面に、皆感嘆の息を漏らしていた。
曲の開始と共にダンスが始まる。
先ほどとは異なり、落ち着いたゆっくりとしたテンポの曲だった。
これだけ注目を浴びても、アレシアに緊張はなかった。
何度も踊ったきたダンス。イオンとは数え切れないくらい一緒に踊っている。
なんてことはない、いつものダンス。
正確に澱みなくステップを踏む。
ターンの時に出る彼の癖に合わせる。
時折目を合わせる。
これをただひたすら繰り返す。
そうすれば、教本通りの美しいダンスに見える。
はずなのに、、、今日は何かがおかしい。
そう感じたアレシア。
いつも通りにやっているはずなのに、どこかぎこちなく感じる。
イオンは、いつもと違うアレシアにペースを乱されることもなく、微笑んだまま、彼女のことを絶妙なさじ加減でリードしている。
彼のおかげで、いつもと遜色のないダンスになっていた。
ここで漸く、アレシアは自分のぎこちなさの要因に思い至った。
腰に回されている彼の腕の感覚、演奏の合間に聞こえる彼の微かな息遣い、繋いだ手から伝わる彼の体温、触れるほど近付いた時にする彼の香り。
これら全てが気になって仕方ないのだ。
このせいで気が散り、ダンスに身が入らない状況となっていた。
なんでこんなことに意識を持っていかれるんだろう…
「ダンスの時くらい、僕のことを見て。」
「ひいっ!!」
思考に飲まれそうになっていると、上からイオンの声が降ってきた。キスと共に。
イオンは、ぼんやりしていたアレシアに対して、どさくさに紛れて、頭のてっぺんにキスを落としてきた。
「何するのよっ!」
「唇の方が良かったかな?」
「何言ってるのよ!」
足を踏んでお返ししようとしたアレシア。
だが、イオンにはひょいと避けられるだけでなく、腰を掴んで持ち上げられ、そのまま優美なターンを決められてしまった。
ふわりと彼女の身体を地上へと戻した。
床に足を付けた後も、彼女の胸の高鳴りは収まらなかった。
それが先ほどの浮遊感から来るものなのか、心情の変化によるものなのか、アレシアにはまだ分からなかった。




