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【本編完結】ドールと呼ばれた公爵令嬢の乱逆  作者: いか人参
第一章 婚約解消編

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初めて知りたいと思ったこと


バルコニーにある椅子に並んで座り、涼むアレシアとイオン。



会場から漏れた出た演奏が微かに聞こえてくる。とても賑やかな曲だった。


早々に主役のいなくなった婚約パーティーは、ファニスによって、舞踏会へと早変わりしていた。


アレシア達によって一気に上昇した会場の熱はまだ冷めず、アップテンポの曲で大いに盛り上がっている。






アレシアが演奏に耳を傾けながらぼーっとしていると、イオンが唐突に話し始めた。




「アレシア、君はこの国が好きかい?」


「え?」


いきなりの質問に驚くアレシアを見て、彼は彼女の手を握った。



「僕は、この国の人達に幸せになってほしいと思っている。僕の力でそれが成せるのなら、喜んで何もかも差し出すだろう。王子として生まれた僕には、その責任と権利がある。」


イオンはアレシアの目を見た。



「僕のことを愛してとは言わない。でも、僕が好きなこの国を、この国の人達を、アレシアにも好きになって欲しいと思う。お互いに見つめ合うことは叶わずとも、同じ方向を向いて歩んでいけたら、それはどんなに幸せなことだろう。」


それで幸せだと言いながらも、イオンの表情はどこか悲しげだった。



「僕は、君とこの国を良くしていきたい。そして、出来ることなら、皆を幸せにしたい。それが無理でも、明日に絶望する人を1人でも多く救いたい。欺瞞かもしれないが、王子である僕にはそれが出来ると、本気でそう思っている。」




彼はすごい人だ…



私には、彼のように高尚な考えはない。


隣に悲しんでる人がいたら助けたいと思う、それだけだ。


たったそれだけの気持ちで、為政者の鏡のような彼の隣にいられるだろうか…




「私はこの国のことを知識でしか知らない。そんな私には、国のためになんて、大それたことは出来ないわ。」


それは、半分嘘で、半分は本音だった。



本当は、出来ることなら、イオンと同じ目線に立って、他の人の役に立ちたいと思った。



「知らないなら、知ればいい。最初から全てを分かっている者など誰1人としていないよ。ねぇ、この国に興味はある?」


「それはもちろん、自分の国だもの。」


「じゃあ問題ないね。今度僕と一緒に市井に行こう。自分の目で見て、君がどう感じるか確かめて欲しい。」


「市井に…?」


「そう。貴族なんてほんの一握りしか存在しないからね。国民のほとんどは平民だ。だからこそ、人口の大部分を占める平民が幸せでなければ、国の安寧は得られないんだ。」


「これまで平民のことなんて考えたこともなかったわ…。酷い話ね。」


「それが貴族の当たり前だよ。アレシアは何も間違っていない。これは僕の我儘で、君にも僕と同じ世界を見て欲しいと、そう思ってしまっただけ。」



彼と同じ世界…

彼の目には、この国はどう映っているんだろう…



私は初めて、『知りたい』と思った。




「…見たい。私も見てみたいわ。」


「よし、決まりだね。一緒に市井へ行こう。」



アレシアが本当に見たかったのは、イオンから見たこの世界のことだったが、市井へ行けば何か分かるような気がした。


認識の齟齬については黙っておくことにした。







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