イオンからの良い話
「姉様…なんか最近の食事、かなり質素になってない…?」
2人の前に並ぶのは、平民が食べるような日持ちのする少し硬めのパンと、刻んだ野菜とハムを煮込んだスープ、庭で採れたりんご、以上だ。
「そ、そんなことないわよ…栄養はちゃんと摂れているし、大きな問題はないわ。」
アレシアは、はっきりとわからない自分の感情に対してモヤモヤが募り、そのストレス発散のために節約に力を入れた。そして、のめり込み過ぎて、歯止めが効かなくなった。
ケチってお金を貯めることの楽しさに目覚めてしまったのだった。
そんなこととは知らず、ティモンは、借金返済のためだと、疑問に思っても文句を言うことは無かった。
アレシアのせいで、日々の食事の質が低下して数日が経った頃、イオンがやってきた。もちろん、ファニスも一緒に。
「アレシア、今日はね、君に良い話と、ものすごーく良い話を持ってきたんだ。どちらから先に聞きたい?」
「それ絶対、両方とも悪い話でしょ…」
アレシアはイオンのニコニコ顔を物ともせず、訝しげな顔で彼を睨んだ。
「じゃあ、良い話から言うね。」
一方、イオンもイオンで、アレシアのツッコミなど意に介さず、自分のペースを崩さなかった。
「はい、どうぞ。」
アレシアに書類を差し出した。
「これって…」
「そう、アレシアが少し前に言っていた僕への頼み事。おおよそ君の希望通りの内容になっていると思うけど、確認して欲しい。納得のいく内容になったら、僕が国王陛下に提案をしよう。」
「こんなに早くに対応してくれるなんて…ありがとう。」
イオンを騙すことへの罪悪感が消えたわけではない。でも、彼が自分のためにしてくれたことを嬉しいと思ったことも事実だった。
それに、自分のこの行動が将来誰かを助けることに繋がると思うと、たとえ罪悪感を抱いたとしても、やり切ろうと思えた。
最終的には王子を裏切るような形になってしまうけれど、今彼が私のためにしてくれたことも無駄にしたくはない。
今の私の意思は、中途半端に投げ出したくないと言っている。
だから、いずれ裏切ることになるその日まで、誠心誠意自分の気持ちを伝えて、最後にはちゃんと分かってもらおう。
都合が良過ぎる考えだと自分でもそう思うが、これが今の私にできる精一杯だ。
「ふふ、君からの頼み事だからね。ちょっと張り切ってしまったよ。で、次に、ものすごーく良い話についてなんだけど、アレシア、君と僕の婚約パーティーの日程が決まったよ。」
「はぁ!???そんなの聞いてないわよ!!!」
「うん、今初めて伝えたからね。ね?ものすごーく良い話だったでしょう?」
「んなこたあるかーーーーーっ!!!」
アレシアの力一杯のツッコミは部屋の外まで響き渡っていた。




