表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/100

アルティーノ家のドール


アルティーノ公爵家の長女として生を受けたアレシアは、生まれた瞬間に、この国唯一の王子、イオン・サフィックスの婚約者となった。


通常は1歳と0歳の婚約などあり得ないが、アルティーノ家と王家の間に、2年以内に女子が生まれたら王子の婚約者に、男子の場合は王子の側近にするという密約があったためだ。


そのために、アルティーノ公爵、つまりアレシアの父は、王家の汚れ仕事を引き受けていた。将来、王家と縁を結び、その恩恵にあずかるために。




婚約者に内定したアレシアは、幼少期から厳しい王妃教育を受けさせられ、両親からは、感情を持つこと、自分の意思を持つことを禁じられた。



『お前は、王妃になるために生まれたのだ。個人の感情など邪魔なだけだ。微笑みだけ絶やさず、ただそこにいさえすればいいのだ。これはアルティーノ家のためなんだ。』


それが両親の口癖だった。




幼い頃からそんな言葉を掛けられ続けたアレシアは、両親の思惑通り、感情を持たない人形のように育った。



美しく、良く手入れされたプラチナブロンドの長い髪、大きな青い瞳、白く陶器のような肌、華奢な身体、その容姿端麗な姿も相まって、周りからは『アルティーノ家のドール』と呼ばれていた。



王家との縁を結ぶためだけに生まれた、自分の意思を持たない可哀想な子。



周りからはそう囁かれていた。







「アレシア、今日の王子殿下の誕生日パーティーで、お前との婚約を正式に宣言されるはずだ。絶対に粗相はするなよ。お前は見た目以外に好かれるところがないからな。見離されないよう、いざとなったら、女であることを有効活用しろ。」


アレシアの父であるネストルは、支度を終えたアレシアを呼び止めて、ヘマをしないようにと再三言い聞かせた。



「分かりましたわ、お父様。」


アレシアは、実父からの心無い言葉にも一切反応を示さず、いつもの口元だけの微笑みで返した。



そんな2人のやり取りを見ていた、3つ下のアレシアの弟ティモンは、父親が立ち去るのを待って、1人になったアレシアに駆け寄って声を掛けた。



「姉様、あの…大丈夫ですか…?」


「ええ、大丈夫よ。」



アレシアはまたいつもの微笑みで返した。



ティモンはアレシアから目を逸らした。

彼はこの顔が嫌いで見ていられない。本当に人形のようで恐怖を感じるからだ。


本当はアレシアの力になりたい、姉ばかりこんな仕打ちを受けて許せない、それなのに、いつも怖くなって次の言葉が続かない。掛ける言葉が見つからない。


ティモンは、何もできない自分に嫌気が差していた。






今日は、イオン・サフィックス王子殿下の17歳の誕生日パーティーが王宮で開かれる日だ。


事実上の婚約者であるアレシアと、弟のティモンが招待を受けている。彼らの両親は呼ばれていない。


王子から贈られた、金色の刺繍が入った青色のドレスを纏ったアレシアは、弟ともに馬車で王宮へと向かった。






2人が会場入りしてしばらく経った後、主役のイオン王子殿下が入場してきた。


イオンは、金髪碧眼で、見るものを惹きつける麗しい容貌をしていた。穏やかな笑みだが、為政者としての威厳と風格が感じられる。


そんな彼に、会場に集まった招待客全員の視線が集中する。

純粋に見惚れる者や虎視眈々と婚約者の座を狙う者、金目当てに王子との繋がりを欲する者、様々だ。




大注目されている中、イオンは主賓席には向かわず、真っ直ぐに招待客が並んでいる方へと歩いていく。

護衛の者が予定外の行動に驚き声を掛けようとするが、イオンの側近であるファニスによって制止された。




周囲の視線など気にせず、そのまま優雅に歩を進めるイオン。


ようやく立ち止まった先、彼の目の前にいたのは、アレシアだった。



突然のことに、アレシアの隣にいたティモンは慌てたが、彼女は何一つ動揺することなく、イオンに対して、優雅に完璧なカーテシーをした。


そんな彼女を見て、イオンは一瞬だけ苦笑のような表情を見せたが、すぐに先ほどの表情に戻り、その場に跪いた。



「アレシア、僕は君を妻として迎えたい。」



突然のプロポーズだったが、周囲にはアレシアが事実上の婚約者として認知されていたため、他の招待客に動揺は見られない。


アルティーノ家のドールのことだから、そのまま受け入れるのだろう。自分たちはとんだ茶番に付き合わされたな…


皆そんなことを考えていた。





が、皆の予想に反して、アレシアは、差し出されたイオンの手を見つめたまま固まっていた。


どうしたんだと周りがざわつき始めた頃、彼女はようやく言葉を発した。



「…やよ」


「ん?」



あまりの声の小ささに、イオンは聞き取れなかった。



「…いやよ」



次ははっきりと耳に届いたが、その言葉の意味が理解できなかった。



「は…?」



イオンからは王子らしからぬ声が漏れた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ