国王陛下
現代の国王陛下に代替わりしてから、質素倹約の精神は失われ、王宮内も王族の衣装や食事も贅を尽くしたものへと一転した。
『国民とは、王のために存在するもの。私たち王族が彼らを生かしてやっているのだ。』
これが、現国王陛下がよく口にする言葉であり、この国の本質となっていった。
王族が贅沢をするために、貴族から金を巻き上げる。今度は貴族が自分たちのために、領民から税を搾り取る。そして、平民は、働いても働いても、一向に良くならない暮らしを送っていた。
国王陛下は気に留めなかった。
『平民など腐るほどいるだろう。
数百人死んだとて、それが国の損失になどなるものか。王の命より大事なものなどない。』
そういう考えの男だった。
イオンはその日、国王陛下からの呼び出しを受けていた。
なんであんな奴の顔を見なければいけないのか…
本当は今すぐにでも消えて欲しいのに、それを出来ないことがもどかしい。
まだ成人していない僕では国王に即位することが出来ず、今国王が退位すれば、必ず他のものから横槍が入る。
この国をこれ以上混乱の渦に巻き込みたくない。
だから、今は耐え忍ぶと決めた。
「国王陛下、お呼びでしょうか。」
イオンは跪き、頭を下げた。
「お前、勝手にアルティーノ公爵領の税率を引き下げたな。なんでそんなことをした。」
やはりこの件か…
本当に、金のことしか頭にない男だ。
「あの地域は、以前より経営状況が逼迫しており、生活水準の低さから領民の不満がかなり高まっておりました。その不満の矛先が王家に向かうことを危惧し、今回の行動を起こした次第でございます。」
「そんな無駄なことを…領民の不満など取るに足らぬことを気にしおって。もう不要なことはするな。で、減額した分はどうやって補填するつもりだ。」
補填だと…ふざけたことを。
その金で、何百人の平民の生活が守られると思っているんだ。
「もちろん、対策は考えております。後ほど、ファニスに起案書を提出させます。」
「金が入るならそれでいい。だが、金輪際余計なことはするな。二度目はないぞ。」
「畏まりました。」
国王陛下との謁見を終え、自身の執務室に戻ってきたイオン。
彼の心労に配慮し、ファニスはコーヒーを淹れて、彼の元へ運んだ。
イオンは一口啜り、小さく息を吐いた。
「普段は何をやっても気付かないクセに、金のことになると目の色が変わる。面倒な男だ。」
イオンは忌々しそうに眉を顰めた。
「ファニス、減収した分には僕に与えられている、王太子の予算を使え。」
「…またですか?アルティーノ家の件でもご自分の予算を使われましたでしょう?」
「大した額ではない。今と同じ進度で予算を使い続けたとしても30年は保つ計算だ。それに、個人名義の事業でも利益を出しているからな。」
「またそんなことを仰って…急にアレシア様が高額なドレスや装飾品を欲しがった時に困っても知りませんよ。」
ファニスは、冗談のつもりで言ったのだが、返ってきた答えは真剣そのものだった。
「問題ない。アレシアの分も既に僕個人の予算に見込んでいる。毎年100着ほどドレスを仕立てたとしてもお釣りが来る計算だ。」
「…左様ですか。」
ファニスはもう何も言いますまいと思い、黙って国王陛下へ提出する書類の作成を始めた。
 




