初めて感じた感動と恐怖と
「ごめんなさい…また姉様だけにこんな仕打ちを受けさせることになってしまって…」
ティモンは、今にも涙が溢れてしまいそうな目をしていた。
「いいえ。ティモンは何も悪く無いわ。貴方が警告を鳴らしてくれたにも関わらず、あの時私が押し切ってしまったから…」
「僕だって、最終的には賛同したのだから、同罪だよ。」
今日は、王子に召喚されて、王宮に向かわなければいけない日だ。
馬車に乗り込む前、アレシアとティモンは、戦場へ赴く直前のようなやり取りをしていた。
実際は、王子と共に茶を飲むだけであり、早ければ3時間ほどで帰還する。もちろん命を取られる心配もない。
アレシアは、王宮に行くため、いつもよりも華美なドレスを纏っていた。
王子に対するせめてもの抵抗に、ドレスやアクセサリーには、ティモンの色である銀色をふんだんに取り入れていた。
これまでのアリシアは、必ず王子の色である金色か青色を取り入れていた。だから今日はそれをせず、気のないアピールをしようと考えたのだ。
「行ってくるね。良い子にして待っているのよ!」
「姉様、どうかお気を付けて!ご武運をお祈りしております!」
アレシアは無事に今生の別を行い、馬車で王宮へと向かった。
王宮には何度も足を運んでいるため、緊張や不安はない。
前世の記憶を取り戻してからは、令嬢とは真逆の言動を連発しているが、やろうと思えば深淵の令嬢のように振る舞うことくらいは余裕だ。
王宮に着くと、護衛に連れられて何度も足を運んだ庭園へと向かった。
その道中、何度も来ている場所のはずなのに、目に入るもの全てが新鮮に見えた。
あの壁画素敵ね。
天井はとても高いのね。
あそこに見える建物は何かしら。
あの花綺麗ね、近くで見てみたいわ。
今までは考えもしなかったことが、頭の中に次々に湧き出てくる。
これが感情で、自分の意思であるということにも気付かず、アレシアは夢中になって辺りを見渡した。
そうこうしているうちに、あっという間に目的地である庭園に着いた。
王子はまだ来ておらず、アレシアは案内されたガゼボの中にある椅子に座り、周りを眺めた。
こんなに美しい場所だったんた…
ガゼボを中心に、手入れされた花々が綺麗に咲いている。この時期は薔薇が見頃で、赤・青・白・ピンク、様々な色が咲き誇っている。
こんな日常の幸せを感じることなく生きてきたアレシア。そんな、これまでの彼女のことを思うと胸が締め付けられる。
今までのアレシアの分も、これからは、この目にたくさんの美しいものを映していこう。過去の分も全部取り戻すんだ。
美しい景色に目を向けたまま、アレシアは決意を新たにした。
「アレシア、本当に来てくれたんだね。」
いや、貴方が来いって言ったんでしょう!と言い返そうとしたアレシアだが、イオンの姿を見て固まった。
「え、それ・・・」
「さすがは僕のアレシアだ。僕たちって、見えない絆で結ばれているんだね。」
天使のような微笑みを見せたイオンは、今まで公式の場では着たことのない、銀色に身を包んでいた。
代々金髪を受け継ぐ王家では、対色である銀色は反逆の色として避けられていたため、王族が身に付けることのなかった色だ。
それも知った上で、アレシアは敢えて弟の銀色を選択したのだ。
「なんで、、その色、、」
「何となくアレシアも同じ色を選ぶ予感がしたんだ。合っていたみたいで良かったよ。お揃いって仲の良さが滲み出て嬉しいよね。」
「私は怖いわ…」
満足そうなニコニコ顔のイオンとは正反対に、アレシアは抱いたことのない恐怖に顔を歪ませていた。




