末代まで呪ってやる!と言って死んだ武士の霊を成仏させたら、結婚する気がない俺に結婚を勧めてきてうざい
いつも有難うございます
本作は、ネトコン11の一次審査通過作品です。
よろしくお願いします
布団が敷かれただけの薄暗い部屋、男が逃げる女の着物の袖を捕まえた。
「生娘でもあるまいし、旦那以外の男と寝たからといってさして問題もないだろう」
青い顔をした女は畳に額を擦り付け、震えながら懇願する。
「…何卒、何卒お許しください…」
男は女の髪の毛を引っ張り大声を上げる。
「ここまできて止められるわけがないだろう!」
男は女を足蹴にし、乱暴に女の着物を剥ぎ取ろうとした。
女は胸元を押さえ抵抗する。
「何卒っ!何卒お許しを!」
すると、廊下から騒がしい声が聞こえてきた。
「なんだ。あれほど人払いを言いつけておいたのに…」
男が呟くと同時に、バンッと襖が開いた。
「オキヌ!!」
「お前様!!」
そこには血に濡れた男が刀を持って立っていた。
女の旦那だ。
ここに来るまでに何人も斬り捨ててきたのだろう。
刀から血が滴っていた。
「与左衛門っ!どういうつもりだっ!」
「それはこちらの台詞!!我妻をどうするつもりだっ!若様とはいえ許せんっ!」
そう言って与左衛門は男を斬り捨てた。
「与左衛門さん全く悪くないじゃん」
「だろう?だがな、主君は大事な跡取りを殺されたと言って、与左衛門を市中引き回しの刑にしてな、それから斬首の公開処刑をしたんだ」
「マジで〜?主君が糞だな」
「与左衛門は死に際に「おのれ!絶対に許さんぞ!末代まで呪ってやるからな!」と、糞の主君に呪いを掛けたんだ。
で、その糞の孫子がお前」
「へ?マジ?」
久しぶりに帰省し、親父と飲んでる最中に「我が家の最大の秘密を発表しま〜す!」と、親父が言い出した話の結末がコレ。
「末代まで呪うと言われたわりに、俺も親父も呪われてなくね?」
「与左衛門は妻を大切にするやつには猶予をくれるんだ。だからお前も結婚するなら妻を大切にしないと呪われるぞ」
「与左衛門さんいい奴じゃん!!でもごめん、俺、結婚する気ないから笑
呪い関係なくガチ俺で最後だわ〜笑」
「あははは!それも時代だからな!お前の好きにすれば良いわ」
そう。
時代だ。
与左衛門さんが理不尽に殺されたのも、当時はよくある話だったんだろう。
俺が結婚しないつもりなのも、時代の流れだ。
酔っ払った親父がウトウトと眠りだしたので、今日はお開き。
母親と一緒に親父を布団まで連れて行く。
大学入学と同時に地元を離れそのまま就職。
連休を使って、久しぶりに実家に帰ってきた。
そんな曰くのある家系に全く思えない、普通のサラリーマンの親父と、パートで働きながら趣味の旅行を楽しんでいる母親。
家を出た時のまま残されている俺の部屋で、ベッドの上に寝転びながら考える。
俺が与左衛門さんだったとしても…同じ事しただろうな…
それにしても主君は糞だな…
オキヌさんはどうなったんだろう…
きっと今の時代なら与左衛門と…
そんな事を考えていたら、急に部屋が寒くなった。
いくら夏前とはいえ、田舎の夜は冷える。
「窓を開けっぱなしにしていたかな?」
窓を確認しようと起き上がると、目の前に人影があった。
「きゃっ」
何故か女みたいな悲鳴を上げる俺。
くそっ、自分が恥ずかしい。
もう一度人影があった方を見ると、そこには頭に髷を結った羽織袴姿の男がいた。
「もしかして…与左衛門さん?」
「…いかにも。儂は与左衛門だ。お主、儂が視えるのか?」
「はい、普通に見えますけど?え?幽霊…ですかね?」
「…そうかもしれん…」
「そうかもって。足ありますか?」
「いや、わからん。袴が…」
「ああ、じゃあちょっと袴持ち上げてもらえます?」
スッっと、袴を持ち上げる与左衛門さん。
足はない。
「…ああ、安心して下さい。足はありませんでした。きちんと幽霊ですよ」
「そうか…手間をかけたな…」
「いや、気にしないで下さい。…あ、ちょっと待ってもらっていいですか?」
俺は急いでキッチンへ行き、まだ開けていない酒とグラスを2つ持って来た。
与左衛門さんはまだいてくれた。
「良かった、消えてたらどうしようかと思った」
「……」
俺はグラスに酒を注ぎ、与左衛門さんの前に置く。
そして…
「与左衛門さん、過去に俺の先祖がすげー馬鹿ですみませんでした」
と、土下座した。
「……」
何も言わない与左衛門さん。
「いや、別に許してもらおうとは思ってないんです。ただ、俺で最後になるんで、謝っておこうと思いまして…」
「…お主は…結婚しないつもりか…?…ならば家はどうなる?途絶えるだろう…?」
「あ、別に家の存続とかもう関係ない世の中なんですよ、だから別に俺で途絶えても問題ないかなって。せっかく呪って頂いたのに、呪いとか関係なくて家が途絶える事になるのも申し訳ないっすね。重ねてすんません」
「何故…結婚しないのだ…」
「あー…まだ誰にも言ってないんだけど…与左衛門さんに聞いてもらおうかな…。あ、酒どうぞ」
「うむ、すまぬ」
二人で日本酒をちびちびと飲みながら、俺が結婚しない理由を話す。
「俺、この前2年付き合ってた彼女に振られたんですよ。「他に好きな人が出来た…ごめんなさい」って…」
「なに?お主という者がありながら、他の男にうつつを抜かす女がいるとは、誠か?」
「誠も何も…俺、同じ理由で振られたの二人目なんで。笑」
自虐的に話す俺に、与左衛門さんが黒い息を吐きながら言う。
「…儂が…呪ってやろうか?」
「いやいや、そんな、呪いがもったいないですよ!お気持ちだけで十分です!
彼女に好きになった奴の名前聞いたら、男内では女遊びが酷い事で有名な奴だったんですよ…だからほっといても末路が見えてますから…」
「そうか…でしゃばった申し出をしてしまったな…」
「いや!与左衛門さんの呪いの申し出はめちゃくちゃ嬉しいです!本当にありがとうございます!」
「…」
俺が振られた話なんかしたからか、場が一気に心霊スポットみたいな雰囲気になってしまった。
与左衛門さんは何も言わなかったが…なんとなく友情が芽生えた気がした。
「あ〜…なんか湿っぽくなっちゃいましたね。そういえばオキヌさんとはあの世で会えたんですか?」
「いや。儂はこんな呪いを持っているので成仏はしておらん。オキヌには会えないだろう」
「きっとオキヌさん待ってますよ?会いたくないんすか?」
「いや!会いたい!
…一目オキヌの顔を見たら…成仏出来そうな気がする…」
「いや、その前に成仏ですよ…。どうしたら成仏出来るか一緒に考えましょう!!」
「…かたじけない…世話をかけるな…」
「いいんですって!長年呪った呪われたの仲じゃないですか。今まで何人くらい呪ったんですか?」
「8人…くらいかな。それ以外は皆奥方を大切にしていたんでな…」
「8人は結構多い…いや、少ないかな…どうだろう…」
そこまで言ったところで、俺は部屋の隅にある物に目がとまった。
「あ…コレで成仏出来るかもしれないんで…試してみていいすか?」
「…うむ、すまぬ。して、どうやるのだ?」
「あ、そこに立っててもらえますか?今ファブってみますんで…」
シュッシュッ…
シュッシュッ…
…
シュッシュッ…
「どうですか?成仏出来そうな気分になりましたか?」
「…いや、すまぬが全く何も感じない…」
「…やっぱダメっすか…あとは空気清浄機とか聞いたんすけどね。
でも、ここ田舎なんで、めっちゃ空気いいんですよ。だから空気清浄機ないんです。すんません」
「やはり成仏は難しいのか…」
「いや、絶対諦めちゃダメです!成仏してオキヌさんに一目会って成仏しましょう!」
「成仏を二回言ったが…」
「大事な事なんで!」
「…なるほど…」
俺は携帯で検索してみる事にした。
「…何をしている?」
「成仏の仕方を2ちゃんで調べてみようかと…」
「にちゃん?」
「あ〜…」
2ちゃんの説明がめんどくさいな…
「2ちゃんは「神の御言葉特集」みたいなもんです。
ほとんどが偽物の神なんですが、たまに本物の神が降りてくるので侮れないんですよ…」
「…神か…」
「あ、コレはどうかな「びっくりするほどユートピア」ってのがありました」
「そうか!どうやるのだ?」
「え〜っと…」
1 全裸になって白目をむく。
2 「びっくりするほどユートピア」と叫び、おしりをたたきながらベッドで昇降をする
3 10分間これを続ける
「これ、俺がやる側みたいなんで、俺がやりますね。与左衛門さんはそこに座って見てて下さい」
「あい、わかった」
「え〜っと、まず…全裸に…与左衛門さん、俺、全裸になるけどいいっすか?ここが風呂かと思えば大丈夫ですよね?」
「ああ、気にするな」
「よしっ!やりますよ!」
……
「…ピアッ!びっくりするほどユートピアッ!びっくりするほどユートピアッ!びっくりするほど」
ピピピピ…ピピピピ…
携帯のアラームがなり、10分経った事を告げる。
っはあはあ…はあはあ…
「っ…ちょっと…はあはあ…休ませてください…」
「ああ、凄まじいモノを見せてもらった…いい冥土の土産になりそうだ。風邪ひくなよ」
俺は全裸のままベッドに仰向けになった。
はあはあ…
ケツが…ケツも痛いし…ベッドの昇降めちゃくちゃキツい…
はあはあ…
足が生まれたての小鹿のように震えている。
それよりも…
心配そうに俺を覗き込む与左衛門さんがいるって事は…
俺の10分間のユートピアは無駄に終わった事が証明された。
汗も引いたところでパンツを履いた。
すると与左衛門さんが俺に頭を下げた。
「え…?与左衛門さん、どうしたんですか?」
「…すまない…お主と主君は全く関係ないのに、呪ってしまって。お主はいい奴だ。お主がそこまでしてくれたのに成仏出来ずに申し訳ない。呪った事も本当にすまなかった」
「いやいや、いいんですって!俺もちょっと白目をサボった感があったんです!今度はしっかりやりますから!本当、頭を上げてくだ…さ…あれ?与左衛門さん、なんか薄くなってますよ?」
「…本当だ…今、呪った事を心から後悔した時…少し身体が軽くなった気がしたのだ…」
俺は少し考えた。
もしかして…
「もしかして時間差でびっくりするほどユートピアが効いたのかもしれませんね!良かった!あと少しですよ!頑張りましょう!」
「ああ!頼んだぞ!」
気を取り直して検索を続ける。
「あ、そういえば…」
ここで俺は、爺ちゃんが死んだ時に婆ちゃんが言ってた事を思い出した。
「与左衛門さん、自分の周りにホタルくらいの光が見えませんか?」
「…」
「よーーーく探してみて下さいね…」
「…あぁ、、、遠くに飛んでいるようだ」
「あっ!それ追いかけて下さい!急いで!」
「あいわかった!ごめん!」
ホタルを追いかけて行く与左衛門さんの姿がだんだん小さくなって…消えた。
婆ちゃんが言った通りお迎えのホタルがそばにいたんだな。
すると部屋が一瞬パァっと明るくなった。
それまでの重い空気感ではなく、空気が浄化されたような感じがした。
「…と、まあ、こんな事が昨晩あったわけよ」
俺はまた親父と飲みながら、昨晩あった事の顛末を説明した。
「だからもう呪いは消えたと思うんだよね〜。やったね!乾杯」
「母さんが朝お前の事怒ってたぞ。深夜にドタバタとうるさかった!って。そういう理由だったのか。まあ、与左衛門が向こうでオキヌさんと会える事を願おう。母さんに謝っておけよ。乾杯」
それからすぐ大谷翔平の話なんかして、他にもどうでもいい話をして…また、親父が居眠りを始めたので終了。
母親と一緒に親父を布団まで運んだ。
俺は昨日の寝不足から部屋に戻るとすぐに眠った。
「…し… もし…」
誰かの声で目が覚める。
「きゃっ」
また女みたいな悲鳴をあげる俺。
そこには淡い水色の小紋柄の着物を着た女性が立っていた。
「オキヌさん…ですか?」
「はい。どうしても御礼を申し上げたく…」
「あ、じゃあ与左衛門さんと逢えたんですね?」
「はい…本当にありがとうございました」
するとオキヌさんの横に、スゥ…と与左衛門さんが現れた。
「本当に世話になった。ありがとう」
夫婦二人で頭を下げている。
「いやいや逢えて良かったです!じゃあ俺寝ます」
マジで眠くてしょうがない。
なのにオキヌさんが「…あの、ご結婚されないそうで…お家はよろしいのでしょうか?」
とか聞いてきた。
「はい!もうそういう時代じゃないんです!だから呪いとか関係なく俺の代でこの家は終わりです。おやすみなさい!」
「それで本当に良いのですか?」
「はい!いいです!おやすみなさい!」
そこからオキヌさんと与左衛門さんが、もう呪わないで祝うから結婚したらどうだ。とか、結婚はいいものだとか、二人で苦難を乗り越えて…とか言い出した。
「あーっ!もう今はそんな世の中じゃないの!家なんかいいの!しかも与左衛門さんは親戚でもなんでもないじゃん!」
俺がそう言うと、悲しそうに二人は消えた。
次の日、二人が悲しそうに見えたのは俺の間違いだったと知る。
「仲直りして連れて来た」とか言って与左衛門さんが俺のご先祖さまを3人も連れて来た。
「某、家を継がないとはどういうつもりだ…」
はあぁ??
親戚じゃないって言われたからって、ご先祖さま連れて来る人いるぅ?
信じられない。
「結婚せずに家を絶やすなどあってはならん…」
「お主も愛を知るべきだ…」
うざっ!
何これ、何の呪い?
無理無理無理…
俺は立ち上がり服を脱いだ。
そして携帯のタイマーを10分セットし、ケツをパシパシと叩き白目になって叫んだ。
「びっくりするほどユートピアァァッ!!」
今度は絶対手を抜かない。
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「悪霊退散」「お祓い」「成仏」「2ちゃん」
悪霊退散が入っていた事に、密かに傷ついた与左衛門だった。
拙い文章、最後までお読み下さりありがとうございます。
⭐︎脱字のお知らせありがとうございます。修正致しました。
⭐︎ご指摘を受け、一部変更しました。ありがとうございます。