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5話 聖女との部活

 その幼馴染の菜穂が来ないことには、映画を見始めることはできない。教室の備品のプロジェクターはばっちり用意してあるので、あとはカーテンを締めて上映を始めるだけなのだけれど、菜穂はなかなかやってこなかった。


「遅いね、神宮寺さん」


「今日は帰ったのかな。いや、帰るなら俺に言ってくれると思うけど……」


「まあ、二人きりなら、それはそれで都合がいいんだけれどね」


 意味ありげに塩原さんが青い瞳を輝かせる。俺は用心深く塩原さんを見つめ返した。


「俺は都合が良くないな。俺は菜穂と一緒にいたいし」


「そういう意味では、私は二人きりの時間を奪うお邪魔虫だね」


「そんなことは言ってないけどね」


「でも、心のなかでは思ってる」


 俺は否定も肯定もしなかった。ここは一応、学校の部活だ。入部希望者を拒むことはできない。

 とはいえ、俺にとってはこの部活は、菜穂との時間そのものだった。部員は俺と菜穂だけだし。


 その意味では、たとえ聖女様であろうとも、俺にとっては第三者は歓迎できない存在だった。俺は塩原さんのことを好ましく思っているが、それはあくまで友人として。


 菜穂はなんとなく塩原さんを苦手としているようでもある。


「そんなに神宮寺さんのことが大事?」


「大事だよ。だからこそ、俺は何度振られても菜穂のそばにいるんだ」


「そうだよね。やっぱり、私は羨ましいな。私も大事な幼馴染がほしかった」


 塩原さんは柔らかく微笑んだ。


 スマホを見ると、菜穂からのメッセージがあった。「ごめんね、今日は帰るから」と。

 どうしたのだろう? いや、理由はだいたいわかる。菜穂は塩原さんのことを苦手としているのかもしれない。

 

 俺が塩原さんに菜穂のメッセージを見せると、塩原さんは「ふうん」とつぶやいた。


「残念。神宮寺さんと一緒に部活できると思っていたのに」


「二人きりの方が都合がいいってさっき言ってなかった?」


「そうだっけ。忘れちゃった」


 塩原さんは舌を出して、くすりと笑う。


「ねえ、神宮寺さんが来ないから、冬見くんも帰るなんて言わないよね?」


「もちろん」


 さすがにそれは不義理というものだ。一応、部長と新入部員が揃っているのだから、活動をしないわけにもいかない。


「何の映画を見る?」


「塩原さんの好きなのでいいよ。塩原さん、アニメ、けっこう好きだったよね?」


「あ、覚えていてくれたんだ? 嬉しい」


 一応、塩原さんとはそれなりに交流があるから、趣味の話をしたこともある。意外にも塩原さんはアニメ大好きというタイプだ。


 まあ、昔は違ったらしいけど、今は中高生の女子で漫画やアニメが嫌いな女の子なんていない。


「なにか塩原さんのおすすめのある?」


「うーん。じゃあ、映画の『機動警察パトレイバー 2』とか?」


「渋いのを選ぶね」


「名作だよ?」


「俺もタイトルは聞いたことがあるし、それにしよっか」


「あー、でも、やっぱり普段通りの活動を見せてもらわないと意味がないかも」


「そう?」


「そうそう。私はね、冬見くんと神宮寺さんの幼馴染活動が知りたいの」


「幼馴染活動……? なにそれ?」


「いいの、いいの。二人はいつも洋画を見ているんでしょう?」


「まあね」


「なら、そういうのがいいな」


 塩原さんの強い希望で、結局、古い洋画を見ることになった。上映するのは、超有名な『カサブランカ』。俺も菜穂も見ているけれど、もう一度見ても良いと思うかっこいい映画だ。


 カーテンを締め切り、部屋を暗くする。部屋に美少女と二人きり。さすがの俺も緊張する。いや、俺は菜穂一筋だけれど、とはいえ、こういう状況だと意識せざるを得ない。


 プロジェクターを利用して、スクリーンに映画を投影する。俺たちはパイプ椅子を並べて、そこに座った。


 上映してしばらくして、塩原さんはぽつりとつぶやいた。


「冬見くんと神宮寺さんは……二人は、いつもこんな上品で素敵な時間を過ごしているんだね」

 

 塩原さんはそんなふうに、綺麗に言葉を紡いだ。

 結局のところ、塩原さんは何を考えているか、わからない。


 次の日、塩原さんが菜穂と二人きりで会ったのは、後で知ったことだ。




次回は菜穂視点。


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