えんぴつを転がす
江戸川昴高校2年、岩淵 清美は文学部の部員。東大寺南大門の金剛力士像に似ているといわれている。同じく沼田 恵美はウマズラハギとのあだ名がある。
そのブスの巣窟といわれている文学部の部長が、水橋 薫。
部活動の詳細は、よくわからない。
これは、なろうラジオ大賞4参加作品です。
「また6か」
小宮山 達郎は呟いた。英語の中間テスト。3択なのに、えんぴつの出目は6が続いた。
6角形のえんぴつを奇数と偶数をずらして削り、番号を書いたものだ。
少し強めに転がした。と、えんぴつは机から落ち、コロコロと転がった。
手を伸ばすが届かない。そろ~と四つん這いになり。手を伸ばした。
白いソックスがあった。
白い太いふくらはぎがあった。
白い太ももが見えた。
ギロッと睨む目があった。
「ひええぇ~!」
「わおおぉ~!」
突然テスト中、悲鳴と雄叫びが重なったのだ。
見ると、岩淵 清美が仁王立ち、小宮山が四つん這いになっていた。
教室の生徒は清美が雄叫びを上げ、小宮山が悲鳴を上げたと解釈した。
「何するのよ、スケベ!」
「誤解だぁ」
「現に見ていたじゃない」
「誰が、あんたのスカートの中を覗くか~」
「ヒドイ!。侮辱だわ」
「誰が、金剛力士像の下着を見ようと思うんだ」
「うおぉー!」
清美が吠えた。
教室が震撼した。
「ヒドイ」
清美が顔を覆った。
呆然としていた担当の助川教諭が、水橋 薫に目配せした。ようやく、対応したのだ。
それも、水橋 薫に丸投げの。
「清美さん。行こう」
水橋は、清美を伴って教室を出た。
「えへへへ」
廊下を歩く清美が笑いだした。
「何だ、平気そうじゃないか」
「へへ、お芝居。小宮山が調子こいているから、ちょっとね」
「ふふ、小宮山、みんなから非難されるね」
「それにしても、部長は変わっているわね。何かね~、動物と同じ目線で人間を見てる感じ」
「鋭い」
「美しい、ブサイクは関係ないみたい」
「ん~、人間の美醜なんて表面の凹凸が多少違ってるだけだろ。皮を剥げば、血が出て、筋肉があって、骨があって、みんな同じだろ」
「そうだけど・・・・」
パンと清美が手を叩いた。
「部長って、女の人も男も顔の区別があまりつかないんじゃない。うん、そうか~。それって、『先天性相貌失認』じゃないかな」
「何だい、その先天性・・・・」
「相貌失認。ようは、人の顔の見分けがつかないということよ」
「そういえば、そんな感じだなあ。海外推理ドラマで金髪、色白がぞろぞろ出てきて殺人が起こるのだけど、誰が被害者で誰が加害者で誰が刑事か分からなかった。ややこしいドラマだなあと、思っていたんだ。清美さんは、区別がつくのかい」
「ふふふ、つく」
「そう何だ~」
部室に着いた。
「ありがとう。次の数学前に戻るから」
「うん」
私は、『相貌失認』の気があるみたいだ。
女、特に若い女の人が、全部同じに見えてしまう。
人の顔や名前などが、憶えられない。など。
バカなのかなぁとも思う。
別に、生活に支障をきたすわけじゃないから構わないけど。
どおりで、絵心が無いわけだ。小説も、ブスがぞろぞろ出てくるし。