恋の四角形
恋は何で上手く行かないのだろう?
「春樹の気持ち」
恋とは何で上手くいかないのだろうか?
図形が複雑になればなる程きっと難しい。
相手に向く矢印がずっと一つだったらいいのに…と思いながら、俺は首を傾げた。
数学の教科書に目をやりながら、指で歪な四角形を作り…その中に彼女の後ろ姿を閉じ込める。サラサラの艶やかな髪、細い肩。俺の矢印の先。名前は亜紀。
俺の彼女、夏美の親友だ。
ナツを通り過ぎてアキを好きになってしまった。これがまたまた複雑で…
亜紀は俺の親友、冬馬の彼女。
図に表すと
俺→亜紀⇔冬馬だ。
何でこんな事になっちまったのかは、亜紀が冬馬の事を相談しに何度も来たから。
彼女の涙を見てしまって、守ってあげたいと思ってしまったから。
夏美の事は嫌いではないが、傷付けたくはない…でも結局はどうにもできない。
俺の好きな相手は俺の親友の彼女。
やっぱり親友を裏切る事は出来ないのだ。
「冬馬の気持ち」
ずっと苦しかった。
でも大切な親友だから自分の気持ちに蓋をして、諦める事にしたんだ。
親友の春樹が夏美に告白されて、付き合うことになったと聞いた時は雷に打たれたみたいだった。夏美にずっと片思いしていたから。
諦める為に俺を好きだという亜紀と付き合うことにしたのだが、健気で可愛い亜紀を好きになれなかった。
やっぱ好きなのは、夏美。
春樹の相談に何回も来るもんだから、忘れられるワケがない。黒髪のボブが良く似合っていて触れたいと何度思ったことか。
心の蓋が開いてしまいそうで怖い。必死でこの手で気持ちを抑えるしかなかった。
俺→夏美⇔春樹
「夏美の気持ち」
大好きな人と付き合える幸せ。
ずっとずっと味わっていたかったのに…
何で上手くいかないのだろう?
ほんの些細な言葉で傷付き、嫉妬もするようになって…春樹の気持ちが分からなくなった。
だから、彼の親友の冬馬に相談したのに。
私の涙の蛇口を止めてくれた。
冷たくなった心を優しく包んで温めて…柔らかな眼差しに心が高なって。
私は春樹が好きなはずなのに…いつしか
冬馬を追いかけるようになっていた。
冬馬は親友の彼だ。しかし、私の気持ちはおかしな方向へ。どうしよう?
私→冬馬⇔亜紀
「亜紀の気持ち」
冬馬→夏美 なのは知っていた。
なぜなら冬馬をずっと見ていたから。
そんな片思い辛いだけ…あなたの気持ちが痛い程、私は分かる。
「好き」と伝えたら彼は受け止めてくれた。
凄く嬉しくて私の心は毎日踊る様に跳ねたのだ。でも…いつも彼の目線の先には夏美。
何度親友の夏美が憎いと思ったことか。
だから、夏美の彼の春樹に「冬馬の事相談したい」と嘘をついて近づいてやった。初めはそんな気持ちだけだったのに…冬馬にはない男らしい部分に惹かれていった。
でもお似合いだった二人を壊す事は出来ない。
本気で春樹を好きで、やっぱ夏美も好きで…
壊せるワケが無かった。
私→春樹⇔夏美
春樹が幸せならそれでいい。
俺達は自分の気持ちを隠したまま、卒業を迎えようとしていた。一度向いた矢印はなかなか変えられない。苦しいのはみんな一緒だった。
窓からはこの季節に毎年咲く花が見えた。
この薄桃色の花が咲くと切なくなるのはなぜだろう?
出逢いと別れの花。
出逢いと別れの春。
新しい気持ちになれる季節。
卒業式の前日。
四人は色々と思いを馳せながら、寝床に着く。それぞれの胸が、何かしたい!何か変えたい!
と叫んでいた様だった。
式の後
桜が舞い散る中、俺達は必死で探していた。それぞれの想う相手を。夢中に。
俺は亜紀を。
私は冬馬を。
俺は夏美を。
私は春樹を。
春樹⇔亜紀
冬馬⇔夏美
だったからすぐに相手は見つかった。
「好きだった。」
「好きになっちゃった。」
四人はなんかくすぐったかった。隠していた気持ちが奇跡の様に通じ合っていたのだから。
「俺達バカばっかだな。」
「本当だね!」
四人の笑い声が春の空に響き渡って、新たな幸せを掴んで歩き出すのだった。
夏美は帰宅してから、額に手を当てトイレに閉じこもっていた。
手に持った白いモノの窓には「陽性」のラインが。
「えっ?やばっ!どうしよう??」
せっかく整った四角形は…若さ故にあっけなく
崩れていくのであった。
end