明け方
ずっと忘れかけていたお伽話。森で暮らす小人たちのお話。森にひっそりと暮らしていて、妖精のようにワルツを踊って笑い合っている小人たち。その光景は神秘的な魅力を持って私の中に住み着いていた。
__あの小人たちはあの後どうなったんだっけ。
枕元の時計は4:30を指している。この世の全部が一日を始める前の準備をしているみたいに静かだった。
この一年、大学を卒業してから色々思い知った。
社会の理不尽さ、自分の無力さ、周りとの空気の違い。知らない人たちとの複雑な関わりが私の頭をぐちゃぐちゃにかき回した。上手く立ち回れない自分がまた嫌いになる。
「そんなのいちいち気にしてたら精神が持たないよ」
愚痴をこぼす私に友人たちは言った。みんなそうやって順応していくんだ。そんな友人たちの強さを見るたびに私は裏切られたような気持ちになった。
窓から見える4時半の景色は全てが青かった。絵の具が滲んだみたいに街も空も薄らと青い。
誰もが楽しく笑い合っていて、傷つくことなんてない小人たちのあの森が羨ましい。そんな風に思うほど、これからへの不安が押し寄せていく。
__今の私を見てもやっぱり小人たちは笑うんだろうな。
窓を開けると停まった部屋に新しい朝の風が入ってくる。東の空がだんだんと白く光り始めている。もうすぐ日常が戻ってきて、それでまた夜が来て、またこうやって途方に暮れる。私はどんな思いで朝を迎えていけばいいんだろう。もう誰も何も教えてくれない。
片付かない思いだってみんな抱えて生きていく。そんなことはわかってる。だけど、私はあの小人たちみたいに何も考えず、ただ楽しく生きてみたかった。
今の私にはあの小人たちがどうなったのかもう思い出せない。
今日も彼らは私の頭の森でワルツを踊りつづける。