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第8話 黒極騎士団

 黒との戦闘は橙将軍が優位に進めていた。オランジュを慕い集まっているだけでなく、幾たびの戦を越えてきたことで皆歴戦の勇士となっていた。

その軍の中にありながら、ひと際その輝きを見せるのは、橙将の愛娘フィユである。父親同様騎乗状態で操る槍術は、敵の間をすり抜けながら確実に戦果を納めていく。さながら特攻隊長のように、オランジュに引けを取らず先頭を奔っていた。

しかし、この戦場においてのみ彼女のいる「先頭」は最前線を意味せず、「軍の」と付けざるをえなかった。その理由は明白である。本最前線にいるのは、純白と真紅という聖王皇堂最強の部隊〝聖隊〟における二枚看板である。オラージュの拳は風を纏い、その一撃で複数の敵を同時に蹴散らす。マリアはまるで踊っているのではないかという体捌きで敵の攻撃を難なく躱しつつ、確実に一撃でもって敵を両断に付していた。

そんな戦闘が2時間近く続いたところで、最前線の二人は都市内部にある拓けたところへと到達した。不気味に見えていた黒い塔が、さらに大きく目に映る距離となっており、その雰囲気はまるでこちらを威圧しているようにも感じた。

マリア達が到達した場所では、さっきまでの黒の猛撃が嘘のように収まり、敵の気配は八方からするものの姿を捉えることはできなかった。警戒しながらも先へと進み、後続に橙将の軍も続いた。二人が中腹まで来たところで、塔の見える方角、拓けた場所の終着付近に突如として複数の人影が現れた。


「・・・人、だよね?見た目は――――」


「でもマリア・・・・アレからは、黒の匂いしかしないんだけど?」


 マリアの言葉に、オラージュが不穏な発言で返した。


「その通り!我らは、あなた方が黒と呼ぶ存在に相違ない。君たちが今まで戦ってきた者たちと我々との違いは、元々が人間だったかどうかと言うところだろう。」


 人影の中央、銀の甲冑を身に纏った長身の、いや彼より大きな者も一人いるが、明らかに人の身長を越えた大きさの男が声を上げた。


「我々は黒極騎士団(くごくきしだん)!我らが主のために、その存在を闇へと染めたもの也!」


 男の叫びに呼応するように今まで姿を隠していた黒が続々と現れだした。

橙将軍は少数精鋭。大戦ですら千を超えて軍を組織せず、今回に至っては三百足らずの数であった。その為、この拓けた場所には余裕で収まってしまっており、周囲を黒で囲まれる結果になってしまっていた。

 黒の陣形が整ったであろうところで、またしても先ほどの男が口上を述べる。


「ここに揃うは騎士団の全てではないが、あなた方を冥府へと誘うものとして紹介しよう。我は黒極騎士団の第一位〝最強のエクストリム〟。我が右方に並ぶは、第三位〝夜傘のパラプリュイ〟、第十二位〝魔導のレイジング〟。左方に並ぶは第十三位〝閃光のライト〟、第二位〝無敵のマトクレス〟。しばしの時間を与えよう。せめてもの慈悲だ。だが、命乞いに意味はないと思ってもらおう。」


 エクストリムは言葉が終わると大剣を構え、それを地面に突き刺した。それが抜かれた時が、彼らの攻撃開始の合図であろうことは容易に感じ取ることができた。


「さて・・・どうするかのう?」


「でも、核心的なところをべらべらとしゃべってくれたんじゃない?自分で闇に染めたって言ってるくらいだし。」


「そうね・・・バハムートの説が正しかったってことになるかしら?」


 オランジュに続き、オラージュとマリアが会話を交わす。その列にバハムートとエンペアも加わる。


「だが・・・核心には触れたかもしれないが、解決法は分からないままだ。それに、この状況も・・・な。」


「でも、一つ仮説は立てられます。あの黒い塔は明らかに黒に関係しています。それに近づいた今、敵の幹部と思われる彼らが出てきた。行動的にはアレを守るためのものと考えて間違いないかと。だとすれば、アレを破壊すればこの騒動に終止符を打てると思います!」


「やはり・・・それが妥当なところだろうなぁ―――――」


「何か問題が?」


 エンペアの意見に肯定を示しつつも怪訝な顔をするオランジュ。その様子にマリアが問いかけた。


「周囲の黒だけなら問題はなさそうですが・・・先ほどから口上を述べている男。エクストリムという名前には覚えがあるんです。」


 マリアの後方から聞こえてくる説明の声はフィユのものだった。


「西の戦に出ていた時、噂に聞いたことがあったのです。西の果てには巨人族の村落があり、そこには今代、異例の強さを誇る二人の男がいる・・・と。」


「それがもしかして?」


「確かエクストリムとマトクレス。あそこにいる奴らと同じ名前だったはずだ。異例の強さなんて噂されていた奴らが同時に相手なんて・・・算段がつかねぇって話だわな?それに、端にいるレイジングは聖王皇堂の一員だ。以前話した、うち経由で東部支部へ向かった遊撃隊の一人だ。その遊撃隊の隊長はアイギス。皇堂内なら結構名の知れた実力者。その部隊員で実力が低いわけがないってところよ。」


 フィユの言葉にオラージュが続き、さらに説明を入れたのはオランジュだった。


「それに加えての、あの女か。第三位なんて紹介されるってことはそれだけの実力者ってことだろうな。奴らの順位付けがいかほどのものかは知らないが、上位3番までがいる状況っていうのは・・・それだけで身構えるな。」


 バハムートが言葉にしたところで、一度皆から言葉が消えた。しばらく思案したのち、オランジュが口を開いた。


「突破だ。これは好機と見るべきだろう。奴さんらの話と順位付けを考慮するに、騎士団とやらは10人以上いるわけだ。それがたったの5人となれば、この機に一気にあの塔を破壊した方が、効率がいい!アレを壊すことが正解かどうかは不明だが・・・やってみないことには始まらんだろ!?」


 オランジュの雄叫びに、皆の表情には不敵な笑みが浮かんだ。


「そうこなくっちゃー!撤退なんて言ってたら、オランジュを殴っちゃうとこだったよー!」


「こういう時のために武を磨いているといっても過言ではないですからね。全力を尽くしましょう。」


「オレも全力を尽くそう。闘いの中で、兄の手がかりが見つかるかもしれないからな。」


 オラージュ、マリア、バハムートがそれぞれ意気込みを語る。


「よぉし。フィユ!お前は全隊の指揮を執り、現在地から後退路までの区間をできるだけ確保しろ!万が一の時は即座に撤退できるようにしておけ!」


「了解です!父様!」


 フィユはオランジュからの指示を受けると、すぐに騎馬を走らせ軍の指揮に移った。オランジュはフィユを見送ると正面へと向き直る。マリア達は既に戦闘態勢を整え騎士団に眼光を向けていた。その列にオランジュが加わると、再び静寂。しかし、数秒と待たず号令が響き渡った。


「全隊、突撃ぃーーーー!!!」


 オランジュの言葉で全ての者が行動を開始した。


「ふむ。では、相手になろうか。」


 エクストリムがそう言葉にすると、大剣が地面から抜かれる。案の定、それが合図になり黒極騎士団と黒も一斉に行動を開始した。

 真っ先に進行をみせたのはオラージュだった。彼女は、敵戦線に並ぶうちの最巨体、マトクレスへと狙いを定め一直線に疾駆。手前数十メートルの位置から驚異的跳躍で、5メートル程はあろうかという身長の頭部付近へと一気に到達。風を纏った右拳でそのまま殴りつける。しかし、拳は何かに阻まれ頭部まで届かなかった。反発の勢いをそのままに後方に飛び退いたオラージュは着地すると同時に敵を睨みつけた。


「あんた・・・なんか持ってるね?能力有誕者(アビトネイセンサー)でしょ?」


「察しがいいな、紅の娘よ。我は能力有誕者にして、異能の力の一切が効かぬ者。それ故に無敵の名を冠している。貴様も能力有誕者であろう?であればその能力(ちから)、我には一切届かぬと知れ!」


「ふぅん―――――わかった。じゃ、あと任せた!!」


 オラージュはマトクレスの言葉を聞くと、一言だけ残し即座に方向を変え別の騎士団へと奔っていった。マトクレスはその行動を不審に思ったが、すぐに答えがわかった。先ほどまでオラージュがいた方向のさらに後方。そこからこちらに向かい、徐々に歩を進める者の姿があった。


「えぇ。任されました。」


全身が純白のその人物は、そう口にすると背に携えていた大剣を抜き取り、正面に構えつつ速度を上げた。マトクレスも腰の剣を抜き取ると先手を打ち横に一線を放つ。しかしその一撃は空を切り、次の瞬間には、目の前に純白が現れた。


「何!?」


 純白の一撃を咄嗟に引き戻した剣で受け止めるが、その勢いは殺しきれず数歩後退する結果となった。その中で、華麗に着地を決めた純白は、マトクレスに向け、笑みなく鋭い眼光を放った。


「・・・おもしろい!!」


 マトクレスが奮起している傍らで、純白も密かに闘志を滾らせていた。


「この黒騎士は夢に出てきた黒で間違いない・・・・ならば、あの夢の手がかりが、ここで掴めるかもしれない!」


 両者は示し合わせたかのように自らの武器に力を籠めると、同時に踏み込んでいった。


 その一方では、黒馬に騎乗した槍術使いの大男が既に戦果を挙げていた。閃光のライトと呼ばれた男を一撃のもとに両断していた。


「すまんなぁ。元はただの人間なんだろうが・・・・ここは戦場でお前は敵。そうなればこんな結果もあるだろうさ。そっち側になってしまった己の運命を呪っておけ。では、次だな。次はお主だ、レイジング。覚悟せいよ、そうなってしまったのなら、手加減などできようはずもないからな!」


「えぇ、心得ていますとも。しかしオランジュさん、それはあなたにも同じことです。私に倒されたからと言って、文句は言わないでいただきたい!!」


 言葉が終わると同時にレイジングが数発魔力弾を放つ。しかし、オランジュはそれを難なく自前の槍で切り落とした。


「がっはっはっは!!威勢やよし!だが、その程度でわしは倒せんよ!」


 そのまま騎馬を走らせ、レイジングへとひと薙ぎを放つ。しかし、その一撃は空振りに終わった。オランジュがレイジングを探すように辺りを見回すと、その姿は空にあった。


「浮遊魔術か。それが使える魔術士が、はたして今の皇堂内に何人いることか。惜しいものよな。」


 そう言葉にすると、オランジュは再びレイジングと対峙した。


 その場から、あまり離れない場所では、激しい攻防が繰り広げられていた。


「勇ましいですねぇ。実力も十分――――なんて、殺したくなる男性なのでしょうか?」


「お褒めにあずかり恐悦至極・・・・だが、死ぬのはあんたの方だ。」


 パラプリュイが放つ一撃は、常人では目で捉えることが不可能ではないかという速度を持ち、同時に的確に急所を狙ってきていた。しかし、バハムートはそのすべてを確実にいなし、銃に付いた刃で応戦する。相手の武器は傘であるが、それはバハムートが油断する理由にはなりえなかった。彼は常に、最悪手を想定し、最善手を模索し、誰が相手であっても、一つを除いたその身の全力を尽くす。彼に死角はなかった。

しかし、それでも戦闘を優位に行えているわけではなかった。数分の攻防の後、バハムートが一度距離をとった。


「・・・・あんた、おかしな匂いがするな。魔術士というわけでもなく。でも能力有誕者というわけでもなさそうだ。なんというか・・・変なものが纏わりついている―――――そんな感じだ。」


「あら?やはり獣の因子を持つ方々には、勘のいいお方が多いですわね?一つ、種明かしをして差し上げるとするならば・・・(わたくし)のこれは〝概念装(がいねんそう)〟というそうですの。」


『概念装』。それは一種の催眠術のようなものである。ある事柄を突き詰めた際、その後においてその事柄では特別に能力が向上するような現象が起こることをいう。

彼女にとってその事柄とは、殺人に他ならなかった。殺人という行為に特化し、対人間という状況が習慣化し、その手で数知れず葬ってきた。その末に、殺人という行為へとつながる一連の行動に際し、彼女の身体能力は強化され、反応速度は鋭敏化され、神経は秒増しに研ぎ澄まされていた。故の、彼女の強さだった。


「そんなものがあるのか―――――この世にはまだまだ分からないことが多すぎる・・・・だが、そいつがあるからと言ってオレが負ける理由にはなりえない!」


「えぇ、そうですね。私も、これがあるから今まで殺人を続けてきたわけではありませんわ!!」


 言葉が終わると同時に疾駆。再び激しい攻防が始められた。


 各々が闘いを繰り広げている様子を一望している予定だったエクストリムは、予想に反し、強敵と戦っていた。


「強いな!娘!これほどまでの強者がいようとは―――――やはり世界は広い!マトクレスとの雌雄に匹敵する高揚感だ!!」


「それはどうも!さっさと倒されてくれたら、もっとありがたいんだけどさ!!!」


 言葉にしながら懇親の拳を振りかぶる。大剣に阻まれながらも、エクストリムの身体を後退させた。しかし、間髪入れずに大剣の乱舞がオラージュを襲う。そのすべてを躱すことができても、その最中に反撃することができずにいた。お互いに有効打はなく、しかし、攻め続けることをやめもしなかった。


「ちょっと聞きたいんだけどさ!?元人間で、実力もあるような人物がさ、それに抗おうとはしないの?!記憶が飛んでるわけでもなさそうだしさ!?」


「異なことを言う。確かに、我々はもともと人間でその記憶も持ち合わせてはいる。しかし、我らには共通意思がある。我らは主と共にある。もしかしたら、人であったときに抗うということをしたのかもしれぬ。しかし、あったとしても、その段階はとうに終わったのだよ。我らは既にこちら側にいる。それが全てだ!!」


 エクストリムはオラージュの問いに答えながらも、その攻防の手を休めることはなかった。オラージュは一度大きく飛び退き体勢を整える。そして、自身の周囲に風を集め始めた。


「その返答が聞けてある意味良かった。心置きなくぶっ飛ばせる!!灰燼と消えなさい!!」


 そう言って構え暴風を右手に纏わせる。その様子にさすがのエクストリムも構えた。そして、オラージュの後ろ脚が地面から離れようとした刹那、横から現れたとてつもない質量によってオラージュの体は吹き飛ばされた。地面にぶつかると同時に受け身を取り体勢を戻す。口元に滲んでいた血をふき取ると、自分がさっきまでいた地点にむかって叫んだ。


「いっっったいなぁーーーー?!横やりなんて、卑怯なんじゃない?!」


 そこにいたのはいつぞや対峙したことのある巨躯の黒。心なしか、以前よりも大きくなっているように感じた。


「あんたかぁ~。前回の仕返しってわけ?ったく、厄介な――――」


 言葉にしながら脇目でエクストリムを見る。二対一になるかと思ったが、予想と反しエクストリムは大剣を開戦前のように地面に突き刺し、こちらの様子を傍観するように見ていた。


「あ~・・・・そう。そういう態度ならいいですよぉー?まずこいつをぶっ潰すだけだから!!」


 オラージュは憤慨したかのように叫ぶと、再び周囲に風を集めた。一方、エクストリムは駆け付けた巨躯の黒へと声をかけていた。


「メルシレス。よく来てくれた。」


 しかし、メルシレスと呼ばれた黒から返事はなく、また、こちらを向くような素振りもなかった。


「当然と言えば、当然の反応か。〝無情〟の名を持つ者なれば・・・・さて、あと何人の騎士団がこの場に駆け付けるか・・・拝見しよう。」


 エクストリムは不敵な笑みを浮かべつつ、戦場を眺めた。そして、風を集めていたオラージュは勢いそのままに巨躯の黒へと疾駆。同時に巨躯も走り出し、勢いよく衝突するとそのまま攻防が始まった。


             ・


「なんじゃぁ!?次から次へと湧いてきよって!!」


 レイジングへととどめを刺したオランジュの前に次の騎士が現れた。数号の打ち合いの後、後退し距離をおき対峙する。オランジュ同様に騎乗し、2本の槍を携えた全身重甲冑の男。さらに、小柄ながらしっかりとしたがたいで二つの盾を手にする男。オランジュはこの二人に見覚えがあった。


「3人漏れずに黒に染まっておったわけか。アイギス、ホースマン。」


「そういうことです、オランジュさん。あなたに憧れをもってはいたが、今となってはただの敵。それ以上の感情は湧いてこないんですよ。」


 オランジュの問いに答えるのは同じく騎乗しているホースマン。その横で、肩を回しながら突撃を今か今かと待つアイギスが吼えた。


「御託はその辺でいいだろ、ホースマン!?聖隊と戦えるんだ!こうならなかったら、なかなか叶うことのなかった状況だ!早くやらせろ!!」


「わかったよ。だが、相手はあの橙将だ。2人がかりで行くが、文句は言うなよ。」


「んなの、どうだっていい!!行くぜ!!!」


 ホースマンの言葉も半ばにアイギスは突貫。オランジュはその突撃をいなしながら馬を走らせる。しかし、走らせた先でホースマンの一撃に襲われた。数号切り結んだ後、距離を離そうとするが、すかさずアイギスが飛び込んできた。


「こいつは、骨が折れる。だが・・・まだまだ!!まだ、主らごときには負けぬわ!!!」


 オランジュも奮起するように吼えると、槍を構え直し自ら打って出た。


                ・


「まさか、私の加勢に来たのがお前とはね。」


「んだよ。不服か?姉弟仲良く殺しを楽しもうじゃねぇか。今更お互いに殺意があるわけじゃねぇだろ?」


「まぁ・・・確かにね。いいわ。こいつ殺しづらくて。手伝わせてあげる。」


「おぉ。了解だぁ、姉貴ぃ―――――」


 パラプリュイが、突如として現れた奇妙な男と会話を交わす。男は頭部から両目までを布で覆っており、その手には2本の極大の鎌が握られていた。パラプリュイを相手になんとか生存していたバハムートだったが、相手が2人になったことで、若干の絶望を感じていた。


「まったく・・・厳しいにも程がある。やはり・・・・やらなければならないか。命が尽きることより、命を削る方が先ってものだな。」


「何をぶつぶつと言っているの?休憩は終わりにして再開してもいいかしら?」


「殺し合いだぁ!!お前の首をもらってやる!!」


 パラプリュイと男がバハムートへと視線を向けていた。しかしバハムートは、その言葉を無視して大きく深呼吸をした。


「・・・・・昇化。」


 バハムートの一言と共に、風が荒れ狂い突風と圧力がパラプリュイ達を通り抜けていった。風で閉じてしまった目を開けると、そこに先ほどまで戦っていた男はいなくなっていた。その代わり、男と同じ雰囲気を持ち、同程度の身長の、深く暗い緑色と呼ぶのが一番近い色の体毛を持った竜、竜人がそこにいた。


「・・・・へぇ。それが奥の手のようね。お手並み拝見と行こうかしら。」


「姿が変わろうがやることは変わんねぇ。首を刈ってぶっ殺すだけだ。」


 そう言って二人は疾駆、バハムートへと仕掛ける。しかし、その二人を体術と剣戟で容易にはじき返した。


「竜人の昇化を見くびらないでもらおうか。オレたちのこれは獣人種の獣変(けものがわり)とは一線を画す。なめてかかると、痛い目を見ることだけは覚えておけ。」


 バハムートは構えを解かず、最大限の警戒を保ちながら二人の黒に対して言葉を放った。


「上等だぁ――――ぶっ殺す。」


「賛成。全霊をもって殺人を執行するわ。」


 バハムートの言葉を挑発ととった二人は、怒りをあらわにし、それぞれが自身の武器を強く握りしめた。


                ・


「ぬぅ――――」


「なんとも・・・この強さ。尋常にあらず―――――化物か。」


 マトクレスの下に駆け付けたのはソーディアンと名乗り歪な双剣を手にする男だった。しかし、二人だからと言って優位に立ち回っているわけではなかった。そう、この純白を前にしては。

 マリアは、右手に大剣を、左手に腰の長剣をそれぞれ構え、バランスが悪いながらも体術でそれをうまく調整し、二人の敵を相手に善戦していた。


「こほっ―――――はぁ。大丈夫、まだやれる。まだ動く。」

 

 咳き込みをみせたが、すぐに呼吸を整え、敵を睨みつける。その眼光の鋭さに、マトクレスとソーディアンは己の武器に再び力を込めた。しかし、次の瞬間、マリアの前にその男が現れた。


「少し、仕切りなおさせてもらおうか。」


 エクストリムは言葉と共に振りかぶった大剣の一撃をマリアへとぶつける。しかし、マリアはその不意の一撃を予知していたかのように、あらかじめ前へ掲げていた大剣を盾にしてその一撃を防いだ。だが、それでも勢いは殺しきれずマリアの身体は吹き飛ばされた。後方に着地をしたマリアはすぐさま体勢を立て直したが、その場にはオランジュとバハムートもおり、背中合わせに敵と対峙するような形となった。


「さて、よく戦ったと――――――!?」


 語り始めようとしたエクストリムの右方に、黒い質量のあるものが飛んできた。右手一本で受け止めると、それは巨躯の黒であるメルシレスだった。メルシレスが飛んできた直線状を見ると、そこにいたのはもちろんオラージュだった。オラージュは不敵な笑みを見せると跳躍し、マリア達の場所に合流した。


「オラージュ、無事?」


「誰に言ってんの?全然問題なし!マリアも大丈夫っぽいね?」


「えぇ、なんとかね。ですが・・・・オランジュさん、どうしますか?」


 顔は向けず、オラージュと会話した後、マリアがオランジュに問いかけた。


「うむ・・・・撤退じゃな。」


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