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第6話 真紅の嵐

 その村は、名を失ってからどれくらいが経っているだろう。聖王皇堂がこの一帯を領地にしたときには、すでに廃村であったという。その為、新たに名を与えられるということもなかった。そういった廃村や、元々人は住んでいたが、聖王皇堂の領地になったことで近くに町が造られ、移住により結果として廃村になったという村が、領地内にはいくつもあるのだという。


 一行が目的の廃村についたのは、昼を少し過ぎたであろう時間だった。真昼だというのに、村の様子はおどろおどろしく不気味な雰囲気を醸し出していた。

 マリアの案内で、ある一軒の廃れた屋敷に到着した。小さな村の中にありながら、一軒だけ明らかに場にそぐわない。いつぞやは金持ちが所有していたのであろう屋敷は、その大きさは健在ながらも、無残としか言いようのない有様となっていた。その中に進み、とある一室に到着すると、そこには地下へと続く階段があった。そこを辿り地下へと下っていくと、扉が現れた。そして、マリアは躊躇することなく、その扉を開けた。


「ここが・・・コメンスの研究室です。」


 そう言いながら奥へと進み、後続のバハムートたちもそれに続いた。


「へぇ。ちゃんと、らしい感じにはなっているじゃねぇか。」


「それは当たり前じゃないですかね?ニャ。なんたって、正真正銘魔術士の工房なのですから。ニャ。」


 辺りを見回し呟くスサノオに、的確に指摘を入れるチャート。その傍らで、エンペアは床に描かれていた魔法陣を、しゃがみ込み食い入るように見ていた。


「何かわかる?」


 膝に手を当て中腰の姿勢となり、覗き込むようにエンペアへと近づき声をかけるマリア。しかし、エンペアの返答は首を横に振るものだった。


「すみません。パッと見た限りでも独自要素が強くて・・・参考書をいくつか用意して解読に臨めば、手掛かり位はつかめそうですけど―――――今すぐ、コレから何かを掴むのは、ぼくではちょっと難しいです。」


「そう・・・ですか―――――」


 二人が会話をしている脇を、スサノオ同様辺りを見聞しながらバハムートが通り過ぎる。そして、彼は部屋の隅の方にあった机に近づき、さらに、その下に落ち割れていた容器に気付いた。しゃがみ込み、それを眺める。割れた容器のあたりから魔法陣に向かって、薄く黒い跡が辿っており、それを指でなぞるように触ると、指先を自分の目の前へと持ってきた。


「・・・・これは――――」


 バハムートから声が漏れる。それに全員が反応し、バハムートへと視線が集まる。


「どうかしましたか、バハムート?」


 マリアが声をかけると、バハムートは立ち上がり皆の方へと近づいてきた。


「そこの床に着いていた薄黒い跡だったんだが・・・これは〝黒水(こくすい)〟だと思う。知っているか?」


 そう問いかけると一行に視線を向けるバハムート。皆それぞれと視線を交わすが、誰からも返答はなかった。


「そうか。だと・・・やっぱり、これは竜人にしか必要ないものなのか。」


「それはどういう・・・いえ、それより〝黒水〟とは何なのですか?ニャ。」


 バハムートの独り言のような返答に、チャートは解を求めて問いかけた。


「あぁ――――これは、〝黒水〟といって竜人にとってはとても価値のある水なんだ。元々は〝黒曜岩(こくようがん)〟と呼ばれる黒い石なんだが、それを水に溶かしたものが〝黒水〟だ。竜人は古来より闇を力の源としている。大昔は活動の基準も昼夜逆転していたなんて話も聞いたことがある。そして〝黒曜岩〟は、光も差さない暗い洞窟の奥にあって、竜の躯を苗床に、闇の力を長い時間をかけて蓄積させて結晶化した黒い石だ。〝黒水〟は竜人にとって、万病に効き、怪我にも効力を持つ万能薬であると共に、健康体であれば自身の力、活力にもなる増強剤でもある。その代わり、一滴の〝黒水〟を作るだけで数か月の時間を要する・・・という話だ。」


「・・・・お前も、それを使ったことはあるのか?」


 バハムートの説明が一度途切れたところで、スサノオが質問を投げる。しかし、バハムートは首を横に振った。


「いや・・・オレは話で聞いたことしかない。」


「・・・・では、なぜそれが〝黒水〟だと?」


 次に質問を投げたのはマリアだった。バハムートは、黒水の跡と思われる部分をなぞった指先を親指で擦りながら、それに答えた。


「この・・・さっきアレに触った指先に、波動を感じる。薄っすらだが力が湧いてくるような・・・そんな感覚がある。今まで感じたことがない感覚だから、もしやと思ったんだ。だが・・・・・」


 その言葉と共にバハムートは割れた容器の方へと視線を向ける。そしてその表情は険しさを含んでいた。


「あれだけの量の〝黒水〟・・・・アレを手に入れるのにいったい、何年の時を費やさなければならないんだ?それよりも・・・どうやって手に入れたかが先か。」


「その、黒曜岩というものはどこで採ることができるのですか?」


 自問自答しているバハムートにエンペアが次の問いをかける。


「オレも正確な場所まではわからない。だが、竜人は北の山脈地帯に里を築いていたっていう話だ。竜人にとって竜とは至高の存在。その躯とは御神体であり、そこから採れる黒曜岩は、まさに神からの賜りもの以上の何物でもない。オレも母親から話を聞かされた時、先祖の里の大体の位置を聞かされはしたが、あの広大な山脈地帯に、わざわざ足を踏み入れようとは思わなかったな。」


「なるほど――――ですが、入手方法云々も、もちろん気になる所ではありましょうが・・・・今現在それはここにある。だとすると一番は、なぜ、ここにあるのかではございませんか?ニャ。」


 チャートの的確な疑問に皆から声が漏れる。確かに、話の本質からは脱線していたようだった。それぞれが、内に没頭し頭を働かせる。そして、またしても口を開いたのはバハムートだった。


「オレは魔術については詳しくないが、もしかして・・・黒水が持つ闇の力に何らかの魔術を付与して、自ら動く闇・・・例えば、〝意志を持つ闇〟を創り出した―――――ということはないか?」


 バハムートが導き出した答えに、皆合点がいったという表情を見せた。そして、エンペアはそこに言葉を添えた。


「確かに・・・その考えはとてもいい線をいっていると思います。独自要素が強くて完全に読み解くことはできないですけど、降霊法のような術式も見ては取れるんです。もしかしたらそれを媒体に、闇という、いわば自然現象に、意思のようなものを与えるために創られた魔法陣・・・そう解釈すれば、この独自法だらけの魔法陣も、規則正しく見えるようになってきます。」


 言葉にしながら、エンペアは自前の革手帳に忙しく筆を走らせていた。


「それを前提に考えれば、あの黒は・・・〝闇〟そのもの。そうなると、対処法としては、対となる光を属性に持つような魔術を用いれば、消滅させることができるでしょうか?」


「単純に考えればそのように取れますが・・・そう簡単にいきますでしょうか?ニャ。それに、コメンスという男の真意も気になりますね。なぜ、このようなものを創り出したのか?その心内がわからないまま安易に解決法を選択してしまうのは・・・危険かもしれませんね。ニャ。」


「それよりも・・・オレたちはその男の用いた魔術が怪しいっていう憶測のもとに動いていた。そしてこの魔法陣をみつけた。だが、この魔術とあの黒が、必ずしも結び付くと決まったわけでも、まだないわけだよな?」


「確かに・・・・・先入観で答えを導いた気になるのも、危険には変わりないな。」


 マリアとチャートが黒についての対応策を話しているところに、スサノオが根本的疑問を投入し、バハムートがそれに頷く。エンペアを除く4人がそれぞれの意見を出し合う。そんなやり取りが数分続いたところで、エンペアの革手帳の閉じる音が響いた。


「皆さん、お待たせしました。とりあえず、魔法陣は書き写させていただいて、その他に必要になりそうな情報も書き留めました。やはり、この場で全ての解読には臨めないので、どこか専門書があるような場所に移動してから、本格的に当たりたいと思います。」


「それなら、南部支部に向かいましょう。ここからさらに南へ行ったところに、聖王皇堂南部支部局があります。また数日をかけることになりますが、あそこならば、解読に必要な書物に困ることはないでしょう。」


 エンペアの言葉にマリアが答える。その提案に一同は賛同し、その部屋を後にした。


 地上に出た一行は、その状況に言葉を失っていた。自分たちがいた屋敷を取り囲むように、黒の大群が現れていた。


「―――――これは・・・層々たるお出迎えですね?ニャ。」


「あぁ・・・規模が今までの比じゃねぇ。こいつは・・・下手すりゃ、儀性覚悟で行かなきゃならねぇぞ。」


 チャートとスサノオが自らの得物を手にしつつ、固唾を飲みながら会話を交わす。

 黒に動きは見られないが、それがまた不気味な静けさを持ち、一行も誰一人として動けずにいた。


「エンペアは、広域攻撃魔術は使えないのですか?」


「使えないことはありませんが・・・威力は保証できません。それに、魔力の集束に、詠唱を用いないとまだ発現できませんし、なにより時間がかかってしまいます。」


 マリアの問いかけに否定で返すエンペア。一行が行動を起こせないまま十数分が経過したとき、正面側の黒が奥側からはじける様に霧散していき、そして、遂に大群の中に一本の道ができた。それと同時、今まで見たことのないような黒がそこに現れた。

図太い体躯、長い両腕は先に行くにつれて太さが増し、背後には尻尾のようなものが揺れている。そして、その体躯には顔がなく馬鹿でかい口だけが存在していた。

一行は根源的恐怖をその身に覚え、身震いした。しかし、唯一人、その姿を見た瞬間に前に歩み出て、武器を構える者がいた。その者の身体からは、闘志が溢れているのではないかと思えるくらい、圧力を感じることができた。


「――――バハムート?」


 声をかけたのはマリア。しかし、バハムートは答えず、ただ正面の敵を見据えていた。さらに数分の後、やっとバハムートが口を開いた。


「あいつは・・・見たことがあるんだ。」


「えっ?!」


 驚きを口にしたのはエンペア。しかし、皆同じ気持ちだった。明らかに異質で初見。しかし、それにすでに遭遇していたという事実は、衝撃以上の何物でもなかった。それぞれが口に出す言葉に悩んでいるとき、バハムートが続けて言葉を発した。


「オレと兄が初めて黒に遭遇した時、こいつもそこに現れた・・・こいつは、兄の手がかりそのものだ。」


 バハムートが拳に力を籠める。今にも飛び出していきそうな雰囲気だったが、チャートがそれを静止させる。


「待ってください!あなた一人では無謀が過ぎる!たとえアレが、お兄さんの手がかりになるとしても、この数を相手に突破できるわけがない!?ニャ。」


「それに、奴さんに言葉が通じるとは思えねぇしな。」


 チャートに続きスサノオも言葉を添える。バハムートもそれを理解しており、体勢はそのままながらも、飛び出さずにその場で歯を食いしばっていた。

 一行に成す術がないまま時間だけが過ぎる。マリアは一つ深呼吸すると、意を決し背の大剣を構えると前に出た。


「ここは私が道を作ります。自分自身が無事で済むかはわかりませんが、このまま睨み合っていても埒があきませんし・・・皆さん、私の後に必死でついてきてください。」


「ダメだ!君の強さは分かっているが・・・それでも、この数の中を無事に突破できるわけがない!必ず奴らに捕らえられてしまう!オレの前で、アレの犠牲者が出るのなんて、もう御免だ。」


 マリアの言葉にバハムートが全力の拒否をみせる。


「では、どうしろと!?誰かが行かなければこの場の全員が――――――」


 前方を見据えたまま吼えるマリアの視界に、それが映った。言葉が途切れると同時位に、紅い閃光が一筋、視界の右半分の黒の群れの中に落下。すると、轟音と暴風が荒れ狂い、落下点を中心にそちら側の黒が一掃された。

 一行はその様子を唖然と見ていた。すると、爆心地に人影のようなものが見えた。それは立ち上がると、汚れを払うように衣服を叩き、それが終わるともう半分の黒側へ向きを変えた。そして目に際立って見えたのは、紅。


「さぁて、次の相手は・・・・もちろんアレ、だよね!?」


 言葉と同時に疾駆。瞬く間に巨躯の黒との距離を詰めると、拳一閃。右腕を振りぬいた一撃は、その巨体を吹き飛ばし黒の群れの中へと埋め込んだ。巨躯の黒と接触した群れの黒は、その衝撃で霧散し、紅の人影から巨躯の黒までの間に道ができたようになった。群れの黒に動きはなかったが、巨躯はすぐさま体勢を立て直し、紅に向かって突進した。しかし、紅は真っ向からそれを受け止める。到底それが可能とは思えない体格差でありながら、紅はそれを成し遂げた。


「殴られて怒った?黒のくせに感情でもあるみたい。でも・・・そんな突進程度じゃ、わたしは倒せないよ!?」


 受け止めた黒に左足を振りぬく。しかし今度は黒に当たらず、逆にその歪な右腕で掴まれ吊し上げられたような状態になる。紅は逆さまになりながらも、相手の右腕に連打を打ち足を解放させると、空中で体勢を立て直しながらそのまま足を振り下ろし、黒の頭部と思われる部分に踵を打ち付ける。

 その後も殴打の応酬。体格差だけ見れば、およそ闘いにすらならないと思えるほどの差はあるが、現実はその真逆。圧倒的質量をもつと思われる黒の一撃を、同じ一撃で易々と打ち返し、それに留まらず相手の体を崩す程の威力を魅せる。攻防の激しさに、周りの黒はそれに巻き込まれて次々と霧散していく。

 攻防を唖然と見ていた一行だったが、その中にありながらスサノオが一番に飛び出した。


「行くぞ!!この機に、群れてるやつを一掃する!!」


 スサノオの檄に我を取り戻した一行は、それぞれの武器を握り直し、黒へと疾駆した。

 その後十数分程で群れを成していた黒のほとんどが霧散した。新たに現れてくることもなかったため、比較的苦戦することなく事を終えた。その最大の功労者ともいえる人物は、いまだに巨躯の黒と単独闘っており、なおも優勢に立ち回っていた。


「その図体だけあって頑丈ねぇ、あんた。それに他の黒と違って全然消える気配もない・・・・親玉級の匂いはものすごく感じるけど――――しゃべんないしなぁー・・・・ま、とりあえず倒せるまでぶん殴りますか!?」


 そう言って構えを取り直す紅。しかし、意気込みとは裏腹にその数秒を利用し巨躯の黒は大きく後ろへ飛び退き、廃屋の屋根上に着地。そのまま後方へ向き直ると、一目散に飛び退いていった。


「・・・・・・・えぇ~~――――。」


 構えはそのままに、紅の口から気の抜けた声が漏れ、目を丸くしたまま、ただ呆然と敵が逃げていった方角を見つめていた。


「オラージュ!?」


 ふと、その問いかけに我に返った紅は声の聞こえてきた方を向いた。そこには、武器を納めつつこちらを見ているマリアの姿があった。


「マリア!!」


 紅は一目散にマリアへと駆け寄ると、そのまま飛びつき抱き着いた。


「やっと見つけたよぉー。こんなところにいたんだね?もう、探した探した。」


「え?私たちがいるのをわかっていて、参戦してきたわけではなかったの?」


「誰かいるなぁ、とは思ったけど・・・まさかマリアとはね。襲われている方よりも、襲っている方に目がいっちゃってたからさ?」


 マリアと紅はにこやかに会話を交わす。その様子から顔見知りであることは伺い知れたが、もちろん正体がわかるはずもなく、エンペアの周りに残る3人が集まった。


「エンペア。もちろん彼女も?」


「はい。彼女も聖隊の一人です。聖隊には加わったばかりですが、その戦闘力はずば抜けており、いろんな戦場などで引っ張りだこになっている人物です。そして―――――」


「そして?」


 言葉を区切らせたエンペアに、先を促すようにスサノオが言葉をかける。


「御二方は一度名前を聞いています。その時バハムートさんはまだいませんでしたが。」


「私たちが名前を聞いている・・・ですか?ニャ。」


 チャートも頭に疑問符を浮かべながら問い返すように言葉を発する。


「はい。マリアさんと初めて会った時のことです。スサノオさんがマリアさんに、より強い人はいるかと聞いた時に、マリアさんの口から名前が出された人物、その人です。聖隊、〝真紅のオラージュ〟。現聖隊の全ての人物がその実力を認め、聖隊直々の推薦という形で入隊した異例の人物です。彼女は一般人でありながら、聖王皇堂が主催した武術大会で優勝し、さらにその場で〝橙将のオランジュ〟と互角に渡り合ったそうです。」


「なるほど。それ故の〝異例〟か。」


 エンペアの説明に返事をするバハムート。そんな会話をしていると、いつの間に会話にひと段落ついたのか、マリアとオラージュがこちらに近づいてきていた。

 マリアと同程度、若干低いくらいの身長に、赤い服。さらに濃い紅で長めの襟巻きを首に巻き、わずかな光にも煌くような明るい赤茶色に、純白の毛先をした大きな尻尾と耳。そして、燃えるような赤い右目に、輝くような橙色の左目をしていた。


「みんな、紹介しますね。こちらは聖隊の一人、〝真紅のオラージュ〟。見ての通り狼人族で、私の幼馴染です。」


「どうもー。はじめまして、オラージュって言います。以後、お見知りおきのほどをー。」


 マリアの紹介にオラージュは軽く挨拶を口にした。その中のひとつの言葉にエンペアが反応する。


「幼馴染・・・なのですか?」


「えぇ。私たちは共に、大陸北西にある山岳地の村落出身なんです。私は、父が剣術を嗜んでおり、その腕も良かったようなので聖王皇堂本都からお声がかかり、移住をしてきていたので。」


「昔はよく二人で、稽古してたんだよね。マリアが引っ越すってなった時、わたしも村を出たいって思ったけど・・・・うちは代々続いているような旧家だったからさぁ。村を出るまでにもこんなにかかっちゃったってわけ。」


 マリアに続きオラージュも説明を口にする。


「村から出てくるなり聖王皇堂の武術大会?なんかで優勝し、即聖隊入りを果たした異例中の異例。マリアが自分より強いって言ったのは、ホラではなさそうだな。オレと一手手合わせしてもらえねぇか?」


 そう言いながら肩を鳴らし、嬉々として声をかけるスサノオ。その様子にチャートが額に手を当てながらため息をつく。


「はぁ~。まったく、あなたって人は本当にそういったことしか頭にないんですねぇ。ニャ。」


「いいねぇ。そういうのわたしも好き!お兄さんも強そうだから大歓迎!なんだけど・・・・。」


 そう言うとオラージュは、クンクンと匂いを嗅ぐように歩くと、バハムートの前で立ち止まった。


「今はこっちのお兄さんの方が気になってるかなぁ?ねぇ、あなたは何の獣人種の人?最初は狼人かとも思ったんだけど匂いがまったく違うし・・・・・何より、特別な血の匂いがするんだよねぇ?」


 オラージュはバハムートを下から覗き込むように質問攻めにする。その様子を見かねて、マリアがオラージュの襟巻きを引っ張り、少し距離を離した。


「まったく。遠慮なさすぎです。」


「あはは。ごめんね?ちょっと気になっちゃってさ。」


「オレの方は気にしていない。オレの名はバハムート。竜人の末裔だ。」


 二人のやり取りに合わせ、バハムートが声をかけた。その内容に、オラージュはさらに目を輝かせて反応した。


「竜人族!あの竜人族?!すごーーい!じゃぁ、この匂いにも納得するわぁ!もちろん純血統――――いや、もしかして古血統だったり!?」


「いや、オレは混血種だ。母は竜人と人間族の准血種で、父が人間族の純血統だったからな。」


「え―――――――」


 嬉々として語るオラージュにバハムートが返答する。すると、オラージュはみるみるその元気を失わせていった。その気分の変化は、彼女の尻尾を見ると一目瞭然だった。


「な・・・なんか、すまない。そんなに、気を落とすことだったか?」


「いや・・・わたしが勝手に盛り上がっただけなので。〝古血統の同士〟なんてこの時分、なかなか出会えるわけじゃないですからね。竜人族と聞いて盛り上がってしまいました。ほんと、すみません。」


 力なくバハムートに返事をしたオラージュはふらふらとマリアのところまで歩いていくと、そのまま項垂れる様にマリアに抱きついた。


「・・・・いま、さらっとすごいこと言いませんでした?」


「私もそのように聞こえました。ニャ。」


「あ?何の話だ?」


 エンペアとチャートが会話を交わし、スサノオがそれに対し尋ねるも二人はそれを無視してマリアに視線を集めた。


「えっと・・・この子は狼人族の古血統なんですよ。彼女の実家も、旧家って言いましたが、私たちの暮らしていた村を含む周囲一帯の大地主でして。オラージュの家系は狼人族の純血統を継いでいるので、結構な確率で古血統が生まれるそうなんです。」


 さも当然のごとく話すマリアに、エンペアとチャートはその場で声を失っていた。その後ろで、スサノオはずっと二人に話しかけ続けていた。


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