表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

お馬鹿な方達

お馬鹿な勇者様は今日も私を助けに来ます。

作者: 緋奈香

 初めまして、私は聖女です。

 とある国で聖女を務めていたのですが、魔王に攫われてしまいました……。

 そしてなぜか今、水晶玉で勇者様と魔王の戦いを見せられています。


 * * * * *


 in魔王城大広間(攫われる前)


「魔王レオン・ジルベルト! 今まで様々な悪事をはたらいてきた貴様を、この勇者アルフォンスが討伐してやる!」

「ええ!」

「死にたくなければさっさと降参しなさい!」

「フン、小僧らが何を言いに来たのかと思えば……逃げるなら今のうちだぞ」

「それはこちらのセリフだ!」


 勇者が魔王に向かい大剣で果敢に斬りかかっていく。


「勇者と大口を叩いていたが、所詮はこの程度か。退屈凌ぎにすらならんな」


 軽々と剣を払い、勇者の背後に回った魔王は勇者の意識を刈り取った。


「全く、つまらん奴だ……『瞬間転移(テレポート)』」


 勇者達は魔王によって祖国に帰されてしまった。


 * * * * *


 in森


 勇者一行は再び魔王城に向かっていた。


「この辺で休憩しようか」

「はー、疲れた。イリス、お水お願いできる?」

「はいはーい。待っててね……」

「私ちょっと散歩してくるねー」

「一人で大丈夫か?」

「平気よ。すぐ戻ってくるから」


 彼女は暫くしても帰ってこなかった。


「ねえアルフォンス、ソフィを探しに行こう?」

「そうだな。何かあったのかもしれない」


 探し回っていると、森の奥から悲鳴が聞こえた。


「え、ソフィ!?」


「や、離して!」

「ソフィ!」

「おい、誰だか知らねーがソフィを離せ!」


 しかし、謎の黒いローブをまとった男は、弓使いを捕らえたままどこかに転移してしまった。


 * * * * *


 in魔王城大広間


「魔王、今度こそお前を倒してやる!」

「やれやれ懲りぬなあ貴様は。早々に諦めればよいものを」

「黙れ! お前、僕達の大事な仲間を攫っただろう!」

「……は?」

「とぼけるな! ソフィは黒いローブの男に攫われた! あれは魔族だ!お前が指示したんだろう!?」

「いや知らないんだが……」

「どこまでもはぐらかすか。極悪非道の名に相応しい奴だな!」


 勇者は大剣を構え、魔王に斬りかかっていった。


「……遅い」


 だがそれも弾かれ、大広間の壁際まで飛ばされる。体のあちこちが傷だらけで、意識が朦朧としていた。


「アルフォンス!」


 魔法使いが勇者に駆け寄り、回復魔法をかける。だが傷は思ったよりも多く、なかなか治らない。


「アルフォンス! しっかりして! アルフォンス!!」


 魔法使いが叫び続けるが、勇者は気を失ってしまった。


「アルフォンス!!!」


 魔法使いは魔王を睨んだ。


「アルフォンスを傷つけるなんて……絶対に許さない!!」

「はあ、全く、面倒な奴らだ。類は友を呼ぶとはまさにこのことだな」

「これでも食らえ! 『火炎矢弾(ファイアアロー)』!!」


 魔法使いが魔王に向かい魔法を放った。

 だが、魔王の体にはかすり傷ひとつ付かなかった。


「俺に魔法攻撃をしても通用しないのだよ。俺よりも強ければ別だが」

「クッ!!」

「次はマシなのを期待してるよ。『瞬間転移(テレポート)


 勇者と魔法使いは、国へ帰されてしまった。


 * * * * *


 in王宮


「お、やっときたか、クリス」

「アルフォンス様、態々呼び出して、何の御用向きですか?」

「実は、騎士団長であるお前に、魔王討伐の旅に同行してもらいたいのだ」

「私に……ですか?」

「ああ、お前にしか出来ないことだ。引き受けてくれないか?」

「しかし、私は余り自由のきかない身です。長く国を離れることは……」

「僕が説得する。絶対に納得させてみせるから」

「はあ……何かあったら責任取ってくださいよ」

「ああ、もちろんだ!」


 騎士団長を迎えた勇者達は、再度魔王討伐の旅に出発した。


 * * * * *


 in魔王城大広間


「魔王! 今日こそ貴様を討伐する! そしてソフィを返してもらう!」

「はあ、また来たのか……そろそろ分からんか?お前に俺様は倒せないと」

「ク! だが、もう今までとは違う! 貴様など、僕の敵ではない!」


 勇者が魔王に斬りかかる。

 魔王は余裕の表情で受ける。


「ホラどうした? さっきの威勢はどこに行ったんだ?」

「クソ!」


 突然、魔法使いが魔王に向かい魔法を放った。

 魔王はそれをいとも簡単に消し去ってしまった。


「無駄だ。貴様らでは俺を倒せない」

「うるさい!!」


 勇者は激昂し、光の上級魔法を生成する。が、


「……フン、『瞬間転移テレポート』」


 魔王の放った魔法によって、勇者一行は今度は大陸の端まで転移させられてしまった。


 * * * * *


 in森


 勇者達は森の中で魔物の奇襲を受けて、疲弊していた。


「……大丈夫?動けそう?」

「ああ、なんとか。ありがとうイリス。君の回復魔法がなかったらどうなっていたか」

「ううん。クリスは大丈夫?」

「僕はかすり傷くらいだから平気だよ。イリスは魔力を温存しなくちゃ」

「うん。ソフィさん、大丈夫かな……」

「早く、助けに行かないとな」

「ええ!」


 * * * * *


 in魔王城執務室


「なあエリック、僕はいつまでこの茶番を続けなければいけないんだ?」

「諦めてください。陛下がお妃様を勝手に連れてきたからですよ」

「あれは仕方がなかったんだ。ソフィ―が僕のことを嫌いになって拒絶したんだと思ったんだから」

「お妃様が温厚な方でよかったですね。おかげで城がどうにかなることもなかったですし」

「まあソフィーなら城の破壊なんて造作もないことだろうしなあ……かなり頑丈なんだが」

「っと、陛下、また来たようですよ。早く対処してきてください」

「もう疲れた……」

「お妃様にチクりますよ?」

「よーし頑張るぞー」


 * * * * *


 in魔王城大広間part3


「またお前か……いい加減しつこいぞ」

「黙れ! ソフィをどこにやった!」

「どこにも何も……まあ楽しくやってるんじゃないか?」

「クソ!」


 勇者はいつものように魔王に斬りかかる。


「ああもう面倒だな……『拘束(バインド)


 相手をすることすら面倒だというかのように、魔王は勇者の体を拘束した。そして、


「ソフィー、もういい? そろそろ疲れたんだけど」


 その場にいない人に話しかけた。





 あらま、なんか呼ばれてる。仕方がない、出て行ってあげましょうか。

 大広間には魔王レオンと勇者アルフォンス、魔法使いのイリスに騎士っぽい人がいた。


「レオン、お疲れ様」

「ソフィ! 無事だったんだね!」

「うん、ほんと疲れた。誰かさんが面白そうだから見ていたいって言ったせいでね」

「ソフィ! 危ないからそいつから離れて!」

「ごめんごめん。でも結構楽しそうだったじゃない」

「ソフィ! 待ってて、今僕が助けに行くから!」

「最初はね。でももう二度とあんなキャラ作りしたくないや」

「ソフィ!!」

「……で、さっきから騒がしいんだけど、どうするの?これ」

「ソ、ソフィ?」

「というか、あなた誰ですか?」

「……え、誰って……」

「私はあなたの言う『ソフィ』ではないのですけど…」

「な、何言って……」

「お初にお目にかかります、聖女のソフィア・ジルベルトと申します」


 拘束されたままの彼らに向かい深々と頭を下げる。


「せ、聖女、様!? それに、”ジルベルト”ってまさか…」


 私はにっこりと笑い、答えた。


「レオンの妻です」


 その場がしんと静まり返る。


「じ、じゃあ、ソフィは一体どこに…」

「さあ? 私たちはその『ソフィ』さんを知りませんし……」

「そういえば、最近配下の魔族が一人いなくなっちゃったんだけど、関係あるかな? 『私は生きる希望を見つけました!』とか言って勝手にどっか行ったんだけど」

「レオンも大変ね……」


 すると突然、レオンの配下の一人が大広間にやってきた。


「陛下、お取り込み中申し訳ありません」

「どうした……って、エリック、仕事が早いな。もう捕まえてきたのか」

「分身体に追いかけさせていましたので」

「ていうか、そのへばりついてるのは何だ?」


 エリックと呼ばれた男が連れてきた魔族には、人間の女性がしがみついていた。


「ソフィが、2人……!?」


 しがみついていた女性は、私と瓜二つだった。


「ん? ああ勇者の方でしたか。挨拶が遅れました、私は陛下の側近のエリックと申します」

「挨拶などいらん! ソフィを離せ!」

「離せと言われましても……この方が離れてくださらないのでどうにもできませんね……」

「……ソフィ、あなた、何をしているの?」

「ん、ここどこ……って、伯母様!?」

「え!?」

「お、伯母って、ソフィさんの伯母が、聖女様!?」

「そうだけど?」


 そう、その女性__ソフィは私の姪である。

 生まれたばかりの彼女を見て私とそっくりだと思ったお母様が、妹夫婦と相談せず勝手に私と似た名前を付けたらしい。

 正直、よく混ざるので困っていた。


「まさかあなたが、そこの勇者さん達が探していた『ソフィ』だったなんてね」

「はあ? 探してた!? もうしつこいんだけど」

「ソ、ソフィ、そいつらから離れないと。危ないからこっちに……」

「だから、ほんとにうざいなあ。このストーカー野郎」

「え……ソフィ、さん? アルフォンスって、ストーカー……なの?」


 魔法使いのイリスは勇者から少し距離を置こうとする。が、レオンの術のせいで動けない。


「本当だよ。私伯母様みたいに魔法を使うことは出来ないけど、弓が得意でしょ? だからたまにお城に呼ばれたりするんだ。そのときに見てたらしいよ。私は知らないんだけどさ」

「なかなか会えなかったけど、大変だったのね……ところで、その魔族の方はどうしたの?」

「ああリグル? 前に森に入ったときに会ったんだ。ぶっ倒れてたから水とクッキーあげたら懐いた」

「その言い方はひどくないか? 俺あのとき結構死にかけてたんだから仕方ないじゃないか」

「はいはい」


 魔族の男__リグルは弓使いに文句を言ったが、雑にあしらわれた。


「それでね、このストーカーの旅についてけって王様に言われたの。もうどうしようもないから、途中で攫われたフリして逃げようって決めてたの」

「お疲れ様。でもリグルさん……でしたっけ? 仕事を片付けておくべきだったわね」

「あまりにも急だったので……」

「で、レオン、これからどうするの?」

「んーっとね、まあまず勇者とそこの2人は強制送還ね。リグルとお嬢さんはどうしよう?」

「あの、伯母様、魔王様、どうかここにいさせてください」

「ここに?まあ、国に帰ればまた会うことになるものね。レオン、この子、ここに置いといてもいい?」

「僕はもとからそのつもりだったけど? リグルを持って行かれたら面倒だからね」

「う……」

「とりあえず、溜まってる分、終わらせてね?」

「はい……」


 それぞれの処置を決め終わったので、実行に移す。


「『瞬間転移(テレポート)』」


 勇者達3人は、国に強制送還された。


「で、お嬢さんはこれからどうしたい?」

「あの、できればリグルと一緒にいたい、です。だめですか?」

「リグルと一緒ね……同じ職に就く? 普通の文官だからきつくないと思うけど」

「はい! ありがとうございます!」


 こうして、ようやく平和な日々が戻ってきた。

 が、その後もしつこく勇者が来て返り討ちにしたり、リグルが仕事をサボって脱走しようとしたり、暫くは慌ただしかったのは、また別のお話。






読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ