片想い
百合ぽい。支部から。
「ごきげんよう」
ここはいわゆるお嬢様学校。
良家の子女や政治家の娘なんかが通う、世間でもまぁまぁ有名な私立校。
私は両親のエゴと見栄でそこに入った、一般人。
もう三年生になるが、未だにこの朝のごきげんよう合戦が慣れない。
「ごきげんよう、お姉様」
「ご、ごきげんよう……」
後輩からの挨拶もこんな感じ。
見目麗しいお嬢様が言っていれば様にはなるが、あいにく私は見た目も普通の一般人。
どう考えてもそぐわない。
……そして、それ以外にももうひとつ、最近は悩みも増えた。
「ごきげんよう、お姉様!」
白鳥紀美子。
某大企業の社長令嬢で、一年生。
「おは……じゃなくて、ごきげんよう……白鳥さん……」
げんなりと挨拶を返すも、彼女はその雰囲気を察したりなどしない。
「まぁ、お姉様!今日も麗しくて素敵ですわ!そのように無理に言葉を変えずとも、紀美子は鳥のさえずりのようなお姉様のお言葉を不快に思ったりはいたしませんわ!」
「いや、校則、てか伝統だから……」
ここで白鳥さんの目がぱっと開かれる。
驚きを身体いっぱいで表現するように、身を震わせ、胸に手を当て、うっとりと眉を寄せる。
「嗚呼、あぁ!お姉様は伝統を重んじ、規則に則っていらしたのですね!わたくしそうとは知らず、ご無礼をいたしましたわ!お詫びに本日のお茶をご一緒していただけませんか?!とっておきのブレンドを用意させておりますの!是非ともお姉様に……って、あら?」
聞いているうちに余鈴がなりそうだったので、そっとその場を後にした。
まぁ、同性ばかりが通う学校で、そういう関係性が生まれないとは思わない。
むしろ友人にはそれを公言してる子もいるし、後輩同士は恋人同士でもある、なんて話もちらほら聞く。
それをどうこう思うことも、言うつもりも全くない。
偏見も、たぶん、ない。
好きになった人がたまたま同性だっただけ、なんて、今時よくあることだ。
…………でも、でもね?
「お姉様!」
教室にも……
「お姉様~!」
食堂にも……
「お、ね、え、さ、まっ」
校庭にも……
「お~ね~え~さ、まっ!」
通学路にまで……
「出てこられたらこれは好かれているという枠組みを超してないかな?!」
毎日毎日、息を切らして逃げても、結局どこからともなく現れる白鳥さんに、まさかと思っていたことをぶつけてみた。
「もしかしてわたしのこと好きなの?!」
「え?違いますわ?」
「アッ、ですよね」
まさかまさか、自分が女子に好かれるなんて思ってもいなかった。
ま、まぁ、勘違いだったみたいなので良しとするけれど、白鳥さんはきょとんとして、大きな瞳でこちらを見据えた。
「わ、わたくしは……」
「……ん?」
ぽっ、と、かすかに頬が紅潮して、白鳥さんが急にもじもじと恥ずかしそうに言葉をつむぐ。
「わたくしは、お姉様を……」
(憧れてる?尊敬してる?)
どっちもそんなふうに思われるほど、私はすごくないけど……
「愛して、いるのですわ……!」
青天の霹靂とはよく云うが、これは違うかな?
予想はしていた。
予感もしていた。
そんなはずはないと思っていた。
思いたかった。
「…………は?」
何を言っているのか、ちょっとよくわからない。
平凡女子×ストーカー系女子