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 道具の整理と背負い袋への収納に戻る。

 火口箱と木屑入りの布袋のセット。使い方にコツがいりそうだ。

 灯りの確保にカンテラと油壺、たいまつ二本。充分な量を確保できてはいないが、多くても持ち運びに困るのでこんなものであろう。あとは現地で調達するしかない。


 スキル取得のリストには――。


「種火を起こすだけのスキルもあったな。しかし、そんなものにポイントを注ぎ込む奴なんているのかね」


 火口箱の購入金額は高いものでもない。

 攻撃にも使える炎なら、取得する意味はあるだろうけど。


 食料は干し肉がおそらく三から四ポンド、一週間分のタンパク源にはなりそう。ライムはその倍くらい。乾燥した固焼きパンが干し肉と同じ体積くらいある。乾燥した植物や木の実の詰められた布袋も一袋ずつあった。

 飲料はアルコールの匂いをさせた皮の水袋が二つ。

 調理用に鍋が一つ。その中に雑多な用途に対応させる予定の、鞘に収まった刃渡りの短いナイフが置かれている。

 以上の持ち物があれば、野外での料理も可能となっている。


「これで餓死するようなら、初見殺しにもほどがあるよな」


 行動に支障のないぎりぎりの物量。

 これ以上を求めてくるなら、設定が狂っていると判断できる。

 しかし、狂っていないと信用できないのが痛いところだ。

 これまでの状況から推察すると、狂気を宿した人間が主催しているに違いないからな。


「できるだけの対策は打ったはず。なるようにしかならんよな」


 他は鉤爪付きのロープ、白い筺体から配布された能力情報などの記された羊皮紙、使い難そうな羽ペンとインク壺、パピルスと羊皮紙が十枚ずつ、中身の入っていない大きめの皮袋。


 鳥籠に囚われている鶏は、所持品というべきか。

 あまり想像したくないが、使い魔契約の儀に使う道具の購入を選んだから所持しているのだろう。

 状況によっては従来の使い方ではなく、非常食として絞めることもあるかもしれない。

 以上が所持品の全てであった。


 ◇


「そういえば、名前が無かったな?」


 使い魔二人に問う。両者ともゆっくりとうなずく。

 やはり、話しかけると反応がある。

 やりやすくもあり、気が重くもあるという面倒な状態。

 思考している様子も、間違いなくある。


「俺が名付けるしかないか?」


 同じ場面を繰り返し再生したように、両者はさきほど同様にうなずく。

 ニオは、頼む、とでも言いたげに軽く手を挙げてさえいる。


「そうか」


 食人木亜種は樹木の魔物なので、樹木の精霊であるドライアドが連想される。

 文字を削って並べ替えて女性的な響きにすると――。


「アイラ、でどうだ?」


 食人木亜種に向き合って訊く。彼女はすぐにうなずいてから、少し首を傾げ、またすぐにうなずいた。

 微妙だった、ということか。

 命名なんて経験がなく、苦手意識が芽生える。これを超えるセンスある名前を捻り出すのには苦労しそうだ。

 俺も首を傾げてから問う。


「別の名前がいいか?」


 すると首を横に振るので、アイラで決定とした。


 次は幼妖鬼のほうだ。


「どうしよう」


 悩むな。

 鬼の子供で、おそらく女児か。


「オニコ、とか?」


 安易に過ぎるかとも思うが、シンプルでわかりやすく、案外悪くない気もする。

 様子を窺うと、幼妖鬼はおずおずと(かぶり)を振った。


「わかった。変えよう」


 嫌だったらしい。

 今までのやりとりでわかってはいたのだが――。

 あらためて、使い魔といっても命令遵守というわけでもないのだと、身に沁みた。


 古来より、多くの書物では、使い魔は命令には背くことなく従い、感情や思考は封じられている存在として描写されている。

 気分的には、機械的な感情のない人工生命であれば気が楽であった。単純な戦力として扱えるほうが、目的達成には都合がいいのだ。

 主催者の悪趣味な嗜好が透けて見える。

 人格形成させるより低コストであるはずの、人権登録に至らない人工生命を使わない理由なんて、良心の呵責を感じさせたいから、くらいしか思いつかない。


「オニタロウ――」


 男児の可能性に思い至り口にすると、幼妖鬼は激しく横に首を振るのでなかったことに。

 反応から察するに、女児の確率に大きく天秤が振れた。

 だとすると、オニコが嫌な理由は子供っぽいからだろうか?

 幼い見た目は種族の特徴なだけで、成体である可能性だってある。


「ニオ、だったらどうだ?」


 安易なようだが、名前を考えるのが面倒になってきている、というわけではない。短いほうが戦闘中の呼びかけも便利だし、逆さから読めばオニ、――鬼になる、と理に適っている。

 幼妖鬼はしばらく固まった後、こくこくと首を縦に振った。

 気に入ってくれた、のか?

 人類とは異なる容貌なので、正確に感情を読めない。

 なんとなく、気に入っているようには見えるので、よしとしよう。


「決定だな」


 するとニオは返事代わりに高い鳴き声のような音を発した。開いた口からは犬歯が覗いている。


 さて、荷物整理も命名も終わったし、部屋の外に出てみるか。

 いつまでも部屋に籠っていては、時間を無駄にしてしまうだけだ。


「アイラとニオはここに残って、荷物番を頼む」


 毛布を外套代わりにさせて隠しているだけなので、あまり連れ歩きたくなかった。

 なによりニオの着ている襤褸布の臭いがきつくて、人前に連れていくのは憚られた。

 

 様子を探るついでに、衣服を買う機会があるかもしれないので、ゴードは持っていく。

 むしろ衣服の入手を、最優先事項と定めてもいいくらいだ。


「勝手に荷物に手をつけようとする奴がきたら、できるだけ殺さずに追い払ってくれ。難しそうなら、荷物を持って逃げるか、殺す気で、本気で抵抗しても構わないからな」


 二人の命は俺の命綱でもある。事を荒立てたくはないが、敵対的な侵入者の命よりは比重が重い。

 少し。

 いやかなり、手前勝手な要望だな。

 二人は命令に従うだけで、俺自身が人を殺すも同然なのに、もし彼女らが殺してしまっても、あまり罪悪感はないと思われる。

 俺が直接、手を下したとしたら、正気でいられるかすらわかったものではないのに。


「できるだけ、殺さずにな」


 罪悪感を軽減したかったのだろう。心の弱さが出てしまった。

 必要のない念を押してしまう。


「アイラとニオの安全、次に荷物の順で優先してくれ」


 ニオは手を挙げて飛び跳ね、小さな奇声を上げた。

 アイラは粛々とうなずく。


「すぐに戻る」


 荷物は使い魔が見張っていれば心配いらない、と考えている。

 戦力としては、アイラは俺より格上であり、心配するのも烏滸がましい。なので、むしろこれくらいは熟してくれないと、今後、命を預けることができない。そうなれば俺の能力では生き残れないので、荷物があっても仕方がないとまで言える。

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