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 兵士の集団に合流する前に、さっと視線を走らせて、手頃な投擲用の武器を物色する。

 思い通りの方向に投擲さえできればいいか、という程度で妥協すれば問題ない得物は、すぐに見つかる。

 致命傷を狙うのが目的ではない。

 この際、回収の手間が最小限である、という条件で選択してしまう。

 投擲にはあまり向いていない両刃の斧を、通りすがりに拾い上げる。

 持ち主は筋肉質な体型で、首のない探索者であった亡骸。

 蜥蜴人亜種の動向に注意を払いながらなので、全速力とまではいかないが、最短距離をそれなりの短時間で兵士たちの集団に近づいた。

 俺が投擲で蜥蜴人亜種の襲撃の邪魔をしたことで、幾人かが同様の手段で、蜥蜴人亜種に狙われた者の命を、救っている場面が見受けられるようになった。

 もしくは、スノウが近場の探索者に周知してくれたのかもしれない。

 どちらにしても、単位時間当たりの犠牲は減っている。


「よし。このタイミングで援軍か」


 本営正面広場に入ってくる坂道から、兵士と探索者、数十人単位の集団が入ってくるのが視界に入る。


「これで流れが変わってくれるといいが」


 むしろ余計な指図を出してくる者が混じっている、という展開だったら微妙だな。

 作戦が台無しになってしまうかもしれない、とわずかに不安が()ぎる。


 援軍が合流するより先に、俺が蜥蜴人亜種の猛攻を凌ぎ切った兵士たちに合流できそうだった。


 蜥蜴人亜種の動向にも注意を払っていると、またしても、一人の兵士が標的として襲われそうになっていた。

 思わず、確保したばかりの武器を投擲してしまう。

 間に合うか――。

 蜥蜴人亜種は、標的の殺害よりも、自身を守ることを優先した。

 凄まじい反射神経で、両刃の斧を手にした武器で叩く。


「やばい!」


 星球式鎚鉾によって弾かれた斧が、こちらに向かって強烈な勢いで戻ってくる。

 瞬間的に、暴食蜥蜴の盾を合わせる。

 衝撃と同時に、手首から嫌な音がした。遅れて頭にまで響いてくる痛みが走る。

 斧は真上に跳ね上がり、俺は弾かれて後方に倒れ込んだ。

 すぐに立ち上がり、斧を拾う。

 手首からは熱を持ったような痛み。どこか、確実に骨を痛めてしまったな。

 暴食蜥蜴の盾には、目立った傷はない。流石の性能だ。

 それを扱う、俺の身体性能が追いついていないが。


「そう簡単ではないか」


 相手も知能を持っているということを、忘れてはならない。

 ただ投擲を防ぐだけでなく、それをそのまま弾いて反撃に利用するようになってしまったな。

 同じ手がいつまでも通用するわけではない。

 目立ち過ぎて標的になるのも避けたいし。

 状況が整うまでは、一時的に手出しは控えるべきか。


「あれは……。イスハークじゃないか」


 まだ、十数時間前になるだろうか。探索団の団長であるジャファール・イドリスがいる執務室まで案内してくれた若い兵士が、大盾を揃えた兵士の集団の後方に、隠れるようにしながら槍を身構えていた。

 彼に声を掛けて作戦を伝えるのがいいのか。集団のところまで行って、説明するべきなのか。

 顔見知りであれば、信用を得やすくはあるだろうが。

 イスハークは確実に下っ端だからな。彼に説明したところで、仕方ないかもしれない。

 いや、俺こそ下っ端のイスハークより、さらに信頼度が低いか。


「おい、イスハーク! 作戦がある。聞いてくれ!」


 声を張り上げながら走り寄る。

 場の空気は殺伐としていて、無言で近寄って行くような下手な行動を取れば、手にした槍で一撃加えられてしまうかもしれない。

 性格が軽そうなイスハークでさえ、そんなひりついた雰囲気を纏っていた。


「おお! ああ、確か。死にぞこないの。貧乏探索者の。あれだ。なあ」


 とりあえず新調した戦鎚で、その頭を叩いて、中身の有無を確認してやろうか、という衝動に駆られる。

 接近戦をするつもりはないので、腰のベルトの背中側に紐で固定してしまっているが、軽く引っ張れば剥がせるようにはなっている。

 思わず手が伸びるが、何とか思いとどまり名乗り直す。



「イザナだ」

「そうだった。イザナな。そういえば、団長から褒賞を貰ったんだったな。もう貧乏ではなくなったのか」


 残念ながら、それはほぼ使い切っている。

 そうか。

 貧乏探索者という評価は、どこも間違ってはいないのか。

 イスハークに告げる必要はないので黙っておくが。


「それより、聞いてくれ」


 説明すべき相手を見誤っている気がしながらも、スノウに話した内容と同じ作戦を、二度目なのでいくらか効率的に伝える。


「なるほど。そいつはやってみる価値がある気がするな」

「だよな」


 同意が得られて、ひと安心といったところ。


「俺に伝えたところで、どうにもならんがな」

「おい」

「いやだって。俺なんて厄介払い同然に、島流しにされてきたクチだぜ。発言権なんてあるかよ」


 俺に落ち度があるような態度で、イスハークはそう告げてきた。

 偉そうに言われても困る内容なんだが。


「なんで、そんな扱いをされているんだよ」

「基本、危険なことは避けつつ、手を抜ける場面では手を抜いてきたからなあ。それが、まあ、上に見抜かれていたわけだ」

()もありなん、というか。その様子が目に浮かぶようだな」

「うるせえよ……」


 イスハークの言葉には、すんなり納得がいった。

 短い時間しか接していなくても、そういった適当な性格をしているのは、なんとなく察していた。


「だったら、どうすればいい?」


 嫌な予感はしていたのに、イスハークに期待を寄せてしまった俺が悪かった。

 時間は少しでも惜しいというのに、とんだ無駄骨を折ってしまったものだ。

 

「誰か、指揮官クラスにイザナから提案してみてくれ。まあ、最悪。探索者の連中だけで実行してしまってもいいんじゃないのか?」

「かもしれないが……」


 ほんの僅かであっても、成功率を上げておきたい。

 ここから見る限り、蜥蜴人亜種は投擲による妨害を、うまく対処して反撃に使い始めているようだった。

 やはり、同時に複数人で、対処しきれないように、といった工夫が必要になってしまっている。


「君たち、勝手に話を進められては困るな」


 どことなく聞き覚えのある、キンキンと耳障りな声が、背後からしてきた。

 大盾で守りを固めている兵士の集団がいる方向から一人、こちらに近づいてくる。

 暴食蜥蜴と遭遇した時に、ハバキリに話し掛けていた男だと思う。

 探索者から反感を買っていた指揮官でもあったはずだ。


「うげっ。群長……」


 イスハークの口から、酒焼けした老人が発する、呻き声のような音が漏れ出た。


「うげ、とはなんですか。君。失礼な」

「はっ。申し訳ございません」


 群長――。

 灰白色の髪をオールバックに撫でつけ、時計の針のように口髭を整えた、神経質そうな壮年の男であった。

 目の下の隈が濃く、苦労を背負いこんでいそうな印象がある。

 それでも、おそらく四十はいっていないであろう。

 

 やたらと重そうな金属鎧と大盾で、全身の守りを固めていた。

 重厚な装備を纏っているのに動きに淀みはなく、不健康そうな見た目に反して、身体はしっかり鍛えているらしい。


「それより、状況は逼迫している。余計な行動は慎んで、私の指示に従うべきではないか?」

「はっ。その通りであります」


 なんだ、その喋りかたは。

 誰だよ、と言いたくなる口調で、イスハークは群長とやらに応じる。

 イスハークに任せても埒が明かないな。


「話を聞くだけ、聞いてもらえないだろうか」


 そう、群長に告げてみる。


「無駄に時間を消費する余裕はないのだが」


 後ろ向きな回答ではあるが、耳を傾ける態勢にはなっているようだったので、構わず作戦を話してしまう。

 時間が惜しいというので、掻い摘んで早口気味に、一気に話し終える。


「一考の余地はあるかもしれないが。お前のような、(いち)探索者の発案などに従って失敗した時に、誰も責任を負えんから無理だな」


 立場のある者からしたら、そう答えるしかないのもうなずけなくはない。

 本音を言えば、何も手を打たずに、そんな理由で犠牲が増えるのを看過していくなんて、指揮官としても人としても終わっているな、という気持ちであった。


 思わず、目の前の男に、冷めた視線を送りそうになっていると――。

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