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「ちょ、ちょっと!」
「うっそだろ!」
隕石の如き瓦礫の流れ弾が、手前の建物を粉砕して、轟音とともに破片を撒き散らす。
破片が弾丸となって襲ってくる。
顔を覆うように小盾を構える。石礫がビシビシと音を立てて衝突してくる。
「痛っ」
アズミが左手の甲を抑えて呻く。
「くっ、うぅ」
頭蓋が割れたような刺激が走った。
石片が掠めて、俺の左太腿の側面の肉片が削れて、血が噴き出していた。
こんな場所まで、牛頭の巨人が投げ散らかした瓦礫が飛んでくるなんて。
油断したとすら反省することもできないほど、想定を超えていた。
「大丈夫か?」
経験上、これくらいの傷なら数時間で治る。
ひとまず、自分の怪我の手当ての前に、他の者の無事を優先して確認した。
ひょこりと、物陰から顔だけ出したニオは、しっかりと壁の反対側に逃げ込んでいて無事なようだった。
「大丈夫じゃない。絶対、骨が砕けてる」
声を震わせながら涙を滲ませてアズミが蹲った。咄嗟に手で石片を払いでもしたのか、左手の甲を押さえた右手の指の間から血が滴っていた。
「手が吹き飛んでいないなら、一日掛からず治る。次がくる前に逃げよう」
「でも、痛くて耐えらんないんだけど」
そんな顔で見るなよ。
心が痛むじゃないか。
「仕方ない。まずは治療しよう」
ニオのいる壁の裏に移動して、止血剤や布で処置を施す。
残念ながら、貴重な薬がこれで無くなってしまった。
本来は使うべきではない程度の怪我だった。しかし、痛そうにしている女性に我慢を強いるというのは、精神的に難しいものがある。
自身の太腿の怪我も、止血剤の残りで塞いでおいた。
もう、残量がごく僅かしか無かったので、残しておいても仕方なさそうだったのだ。
「よし。急いで、ここを離れよう」
バラけた破片程度なら壁が防いでくれるが、建物を粉砕したような巨大な瓦礫が飛んできたら、呆気なくお陀仏だ。
「ニオ。行くぞ」
芋虫のような緑色の生き物を突いたり、観察したりしているニオに声を掛けてから、牛頭の巨人に背を向ける方向へと足を向けた。
筋肉に大きな損傷はなく、移動に支障は出ない程度の怪我だったようだ。痛みさえ我慢すれば、普通に動かせなくはない。
「うぅ。で、どこに行くの?」
足早に歩き始めてすぐ、背中に問いが投げかけられる。
振り返ってニオも後に続いていることを確かめ、手を押さえながら移動するアズミに言葉を返す。
「探索団の本営がある広場に行こう」
まずはナブーさんと合流して、装備や写本を手に入れないと。
噴水広場から出て、左右に背の低い建物が連なる通りへと入って行く。
黒衣の特権階級たちの去っていった、教会のような建物のある方向とは反対側だ。
彼らもあそこに行ったのだろうか。
特別に友好的な間柄ではないが、無事であるに越したことはない。
俺たちにとって明らかな脅威となるような異常者とは、敵対してくれそうな存在ではあるし。一応、結果的に危機を救ってくれたり、有益な情報を齎してくれたりもしている。
「人の心配なんて、している場合じゃないよなあ」
やらなければならないことを、順番に淡々とこなしていかないと。




