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スキル設定を終えると所持品、所持金等の設定に続く。
支給される所持金は五十万ゴードで固定。
現金二円と一ゴードが交換可能で、上限は一千億ゴードだった。
武器、防具を安価で手に入れるには、ゴードの消費でランクを決めてランダム配布しかない。五十万ゴード全て消費してもランクは二。消費ゴード無しでランク一。
指定して購入だと、最低でも桁が一つ上がる。
わざとらしく、一番先頭に表示されている特権階級用の販売品一覧表は、覗き見ることができないようだ。
どちらにしても、桁が二つ三つは上がるのだろうから用はない。
その他、保存食が一食二千ゴードで購入可能など、購入品を自由に選択できる要素もある。
開始後初めの罠として、餓死も想定せざるを得ない。
主催者は悪意をもって俺たち負債者を排除してくるに違いない、と考えてしまうくらいには不信感が堆く積もっていた。ある意味、当り前の心象でしかないか。
主催しているのは、権力のある非人道的集団でしかないのだから。
迷わず食料や飲料、必要になりそうな道具を購入する。
結果として装備品のランクは上げられない。
所持品の設定を決めると、特殊な設定として、使い魔を既に使役しているかどうかの選択肢が出てきた。
使い魔契約の儀を所持している者のみに出てくる選択肢と思われる。
スキル選択時に喚起魔術といったものがあったので、そちらを所持していれば、喚起できる存在の所持に関する選択肢が出てくるのだろう。
ゲーム開始後に、新たに、しかも簡単に使い魔を得られるのかも不明なのだ。
貰えるものは貰っておこう。
「使い魔もランダムで決定なのか」
どうしてもハズレを引かされる気がしてならない。
それでも、開始直後に使い魔を持っているだけでプラスに働く場面もあるに違いない。
過度な期待は捨ててアイコンに触れる。
食人木亜種。人を捕食する植物型の魔物である食人木の亜種。女性のみを捕食することにより、見目が美しい女性的な姿となったもの。通常種に比べ生命力は低くなるが、他の能力は数段高くなる。
あたりの部類である気がする。
さらに「現在、もう一体使い魔を使役できます」との報せがある。使い魔使役、LV2の恩恵だろうか。
ランダムで使役する使い魔を入手するか、追加の使役はしないかを選べる。
流れがきている時に行かずにどうする。迷う必要はない。
「頼むぞ。神獣とか最強種とか。なんかそんなやつこい」
興奮しすぎて、頭の悪い呟きが漏れ出た。
さて、結果は――。
幼妖鬼。角がある人型生物。人間の子供ほどの体格。統計的に嫌悪を感じる度合いが高い見た目ほど、人間に敵対的である場合が多い。
流れなどきていなかった。
頭が痛くなりそうだ。
子供を連れ歩きながら、生き死にを掛けて探索なんて。
平穏な日常でなら、子守りは慣れたものなのだが。
体が大きくなくても、動物型で嗅覚に優れているとか、鳥型で飛行能力があるなどといった能力があれば、策敵や偵察に使えるという利点もあったのに。
単純にお荷物でしかなさそうな予感がする。
嘆いても仕方ない。弱体スキルのように害があるわけではないのが救いである。
間も無く。
使い魔の能力が記述された羊皮紙と、スキルの簡易な説明が記入された羊皮紙が、筺体から支給される。
内容は――。
個体名 なし 種族 食人木亜種
身体能力補正。中。
反射神経補正。大。
持久力補正。中。
防御力補正。大。
生命力補正。微小。
魔法力補正。大。
※補正は使役者の基礎能力との比較。体調、環境などにより誤差が生じる。
スキル
茨の檻、LV3。
寄生する種子、LV2。
捕食吸収、LV2。
魅了の花粉、LV1。
再生力強化、LV4。
打撃耐性、LV2。
斬撃耐性低下、LV1。
火炎耐性低下、LV1。
冷気耐性低下、LV1。
個体名 なし 種族 幼妖鬼
身体能力補正。微小。
反射神経補正。微小。
持久力補正。微小。
防御力補正。微小。
生命力補正。微小。
魔法力補正。微小。
※補正は使役者の基礎能力との比較。体調、環境などにより誤差が生じる。
スキル
流血の呪印、LV1。
嫌悪の衝動、LV2。
脱水耐性、LV1。
飢餓耐性、LV1。
斬撃耐性低下、LV1。
刺突耐性低下、LV1。
打撃耐性低下、LV1。
茨の檻。魔力を消費して使用する。魔法の茨で対象を絡め捕り動きを封じる。
寄生する種子。魔力を消費して使用する。生物の肉体に寄生する植物の種子を生み出す。
捕食吸収。捕えた生物を酸で溶かして吸収する。
魅了の花粉。魔力を消費して使用する。吸引すると催眠効果のある花粉を散布する。
再生力強化。損傷部の再生速度が上がる。
流血の呪印。呪文を唱え手で印を結びながら魔力を消費する。対象の出血が悪化する。
嫌悪の衝動。常態として一部の種族に嫌悪感を与える。
脱水耐性。水分摂取量が通常より少なくても悪影響を受けにくい。
飢餓耐性。栄養摂取量が通常より少なくても悪影響を受けにくい。
食人木亜種は補正もスキルも優秀であるようだ。
想定を上回る強力な手駒に、ようやく胸を撫でおろせた。
もう一方も、いないよりは、いても困ることはないだろうと、おおらかな気持ちで受け止められた。
補正が全て最低という、虐めのような能力値には悪意を感じるけど。
「少しだけ、希望が見えたか」
言葉にして、重苦しい気持ちも一緒に吐き出す。
「どうやら、設定は終わりのようだな。あとは……」
◇
設定が終わって数分後。
「只今より、十分後までに身体改造処置を開始してください。遅延した場合には、一分当たり一億円のペナルティーが発生します」
勧告じみた放送が流れた。
人間をやめるのは忌避感があり、どうしてもすぐには処置に踏み切れなかった。
もう覚悟を固めている猶予はなくなった。遅延すると負債を科されるのであれば否応なく処置を開始するしかない。
「たった一分で一億円って、ふざけるのも大概にしてくれよ」
処置の方法はマニュアルに載っている。
筺体の蓋を開いて裸で中に入り、蓋を閉めれば自動で処置が開始されるらしい。
蓋の開閉も単純な操作でできる。
「さて。それじゃあ、人間やめますかね」
マニュアルに従って筺体の中に入ると、強烈な睡魔が襲ってきた。
このまま死んでしまうのではないか。
それほどの気持ち悪さ。身体を侵食されていくような不快感。
それを認識したところで、意識は白濁の底へと一瞬にして沈んでいく。