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「あんなのチートでしょ……」
いつの間にか、逃げるように数歩後ろにいた茶髪の少女がそう溢す。
「いや、ズルはしてないだろうが」
ズルいと感じてしまう気持ちには同意する。
訂正しなくても彼女もわかってはいるか。まず間違いなく、あの男の力は、ルール通りに資金を注ぎ込んで得たものだ。
「あーあ。わたし、絶対死ぬじゃん」
だろうな、と言ってしまいそうになる。
しかも、能力的には他人事ではない。
俺たちが死に掛けながら戦っていた化け烏など、野鳥の群れ扱いするような連中でも、必ずしもクリアはできないゲーム。
絶望的な難易度だと、それだけでわかるというものだ。
それでも俺は、意識の在り様からすら諦めてしまっている彼女とは違う。
人任せで抵抗すらしなくなってしまう覚悟のなさとか、戦っている相手が掴みやすい髪型とか。
死にたくないのなら改めるべき点が多過ぎる。
「今からでも、生きる努力をしなければそうなるな」
糾弾と取られないように、諭すような言葉を選んでおく。
誰に対してであろうと、心証を悪くしても不利益しか生まないからな。
「簡単に言わないでよ。まともに戦えるものなんて、なにひとつないのに。武器もスキルもなんにもね」
俺に当たっても意味はないだろうに。
全くもって煩わしくなってきたな。
「……とは言っても、スキルが一つも無いわけじゃないんだろう?」
「まあ、そうだけど」
「で?」
「で、って?」
俺の問いに、女性は訝しげな顔をする。
言葉足らずだったか。
「いや、どんなスキルがあるのか、ってこと」
「なんで、言わなくちゃいけないの?」
ごもっとも、ではある。
それならそれで、俺も構わないのだが。
普通は、自分の手の内を明かすなんて愚策でしかない。真っ当な言い分である。
相手がこんな状態でなければな。
「スキルを聞けば、生き残るための方法を、一緒に考えるくらいはできるかもしれないと思ったんだが、余計なお世話だったか」
諦めようとしている人にでもなければ、こんな提案はしない。
「え? なんで他人のためにわざわざ?」
「助けに入ったのが徒労に終わるのも微妙だし。どんなスキルが存在するのか、とかそういう情報はあって困らないって打算も、まあ」
これ以上、無理に首を突っ込んでまで手助けをする必要はない。心証を気にして言葉を選ぶのが面倒になってしまったのもあって、本音をぶちまける。
「あ、そうなんだ。あんたたちも巻き込まれただけだと思ってた」
「おいぃ」
あの体たらくでは、そう思われても仕方なかったか。
「あはは。なんか、ごめん」
力が抜けた俺と、怒ったように唸るニオに、女性は軽く手を上げて謝意を表す。
最終的に俺達を含めて、彼女を救ったのはタスラムという青年ではある。
それでも、なんだか小生意気な感じが癪に障るので、
「それに、さっきの話だと、ゲームのクリア自体が成されるかもわからないようだし。少しでも戦力は在るほうがいい」
と、余計な発言をしてしまう。
なぜか感謝されたくないという、複雑な謎の感情が芽生えてしまったのだ。
「あはは、戦力ね。……なりそうもないし」
戦力が減らないのはメリットばかりではなく、賞金というリソースの奪い合いにとっては、デメリットとなるのが痛いところではある。
「弱体スキルしかないとか、そんな感じか?」
「では、ないけど」
返答の歯切れが、いちいち悪い。
まさか、先程の情報にあった、殺人仕様のスキル持ちだったりしないだろうな。だとしたら、無理に聞き出すと余計な軋轢を生むだけの結果になりかねない。
「まあ、知られたくないなら言わなくていい」
ただ今後、彼女に近寄らないように気を付けるだけだ。
「なんか勘違いしてそうだし、言うしかないっぽいんだけど」
考えが顔に表れてしまったか。的確に考えを読み取ったと思われる発言だな。
反応からすると、殺人仕様のスキルはなさそうだ。
いや、口頭だけだと安心できない。
「スキルの記された羊皮紙は持っているか?」
ゲーム開始前に配布されているはずだ。俺にだけ渡されたはずはない。白い筺体から自動的に出てきた羊皮紙は、ごく当たり前のように荷物に入れられていた。
「ええ。それを見せればいい?」
「ああ」
やはり持っているらしい。
少女は腰に備え付けられた革のベルトポーチに手を添えた。
「ただし! そっちもスキルを明かしてもらうからね」
そうきたか。
だったら見せて貰わなくていい、とも言い難いな。
「あ、ああ」
「じゃあ。交換して見せ合うってことで」
問題はあるだろうか。
――いや。
あまり考えても仕方ない。今更、俺から話を反故にもできない。
「だな」
それぞれ、荷物を漁って羊皮紙を取り出す。
彼女が殺人でメリットを得られるスキルを持っていて、手回しのいい奴だったら、事前に偽の羊皮紙を作っておいて、――なんて手の込んだ対策をしているかもしれないな。
そんな考えが頭の片隅に浮かんで、すぐに消えていった。
どう考えても、駄目な意味でそんな手の込んだことが出来る人間には見えない。




