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「内実から言うと。悪い噂を流されて、不利益を被れば俺たちがクリアを目指す足枷になる、というのがある」
「それなりにでかい額使ってっから、ある程度は回収しねえと俺なんかはヤバいわけ。こいつの家は超金持ちだから、そんなに痛くねえんだろうがな」
リスクを背負って参加している特権階級もいるのか。
おそらく、それだけ成功した時に得られる富も多いのであろう。
「ついでに言うと、――いや、ついでに言うには価値のある情報だが……」
恩に着せようとしてでもいるのか、タスラムはわざとらしくためらってから口を開く。
「プレイヤー殺しには重いリスクがあったこともある」
……ふむ。
「そうなのか」
素っ気ない言葉で返す。現時点では他に言うべき言葉もない。
今回もそうであれば、非常に有益であり、安心感が得られる情報だ。
仮に違っていても、抑止にはなっているだろうか。
わからないな。情報がどれだけ出回っているか次第か。
「だから。簡単に情報を流し過ぎだっての」
シュラは言葉とは裏腹に、口調と表情は軽かった。
もしかすると、むしろ流しておくべき情報として、わざと流したのではないのかという気もしてくる。
「はあ。いまさら言っても仕方ねえな」
シュラは溜め息を交えて話した後、虎の威を借る狐系の小悪党が浮かべるような、意地の悪そうな顔をした。
「つっても、まあ、前回のゲームだと、リアルの社会でしかデメリットはなかったけどな。人を殺せるような奴って周知されるくらいで、ゲーム内ではデメリットなしだったぜ。しかも、リスクありのパターンでも、大概は後半になりゃあ、ゲームの中でだけは、メリットが上回るようになるわけだが」
「な、なるほど」
上げて落とされるほうがより絶望も深くなる。まあ、後半の心配なんて、現状の俺がしても詮無いことなんだろうけど。
「安心すんの早えよ」
いや、安心なんて塵ほどもできていないわけだが。
「今回はいるかわからねえけど。リスク関係なく殺しまくる奴がいたことだってある」
発言から、シュラは過去に何度もゲームに参加しているとわかる。
「あなた達の中には、それらに該当する人はいないと考えていいのだろうか?」
「てめえ、マジでブッ殺すぞ。よほど切羽詰まった状況でなけりゃあ俺らは人殺しなんてしねえ。サイコパスじゃねえんだからな」
結局、どっちに該当するのかわかり難い人だな。
「そもそも、誰もゲームをクリア出来ないパターンが普通にあるくらいには、このゲームは難易度が高いのだ。どれだけ小さなリスクだろうとわざわざ負う余裕はない」
「殺しまくれば殺しまくるほどリターンが得られるスキル構成の奴がいやがった時は地獄だったぜ。そいつは序盤から殺しに殺しまくった挙句、最期は討伐隊なんて組まれて、犠牲者多数でなんとか討伐ってオチだ。だが結局、戦力不足で参加者はラスボスにすら辿り着けずに全滅。ゲームオーバーだ。そんときゃあ、俺なんて全資産の七割が溶けちまって愕然としたもんだぜ」
――全滅でゲームオーバー。
借金持ちの参加者数千人が、全て実際に死んだと言っているも同義である。
「特権階級も含めて全滅なんて、そんなことまで有り得るのか……」
「まあな」
「しかも全滅しなかろうが、ゲームオーバーはある」
「どういうことだ?」
「今回なんかだと、おそらく、戦線維持が不可能になって、探索団が撤退に陥れば、全滅前でもゲームオーバーだろう」
安心を得るどころか、足元が崩れ去っていくような不安が押し寄せてくる。
「勘弁してくれ」
好んでプレイヤーを殺しにくる奴がいるかもしれないうえに、ゲームがクリアできるかすら危ういなんて……。
誰もゲームをクリアしてくれなかった場合、幾らゴードを稼ごうと無意味になってしまうではないか。
「まあ、ほとんどの者は、リターンがあってもプレイヤー殺しは極力避けるものだ」
「いや、マジで窮鼠猫を噛むって前例があったしなあ」
「という理由もあるだろうが。そもそも、殺人に忌避感のない者と、リアルの社会で関わりたくない者はやはり多い。簡単に人殺しをできる奴とは、俺も実社会では関わりたくない」
彼の言葉に嘘はなさそうだ。比較的まともな人格であるらしく安堵する。
「だから、安心した顔してんじゃねえよ。実社会での地位も、世間体も関係ねえくらい稼げちまうようなスキル構成の奴とか、このゲームに人生捧げているような、実社会なんてどうでもいいってくらいのめり込んじまう奴が、今回もいるかもしれねえからな。そういう奴らは、だいたい、殺人に抵抗なんてなくなっちまうもんだ。精々そんなサイコパスどもに会わねえように祈るんだな」
結局は、やはり狂気に満ちたゲームなんだと思い知らされる言葉を、どことなく楽しげにシュラは口にする。
「あなた達は、なんでこんなゲームに参加しているんだ?」
「ああ? なんでてめえに俺の事情を言う必要がある。あんま調子に乗ってるとブッ殺すぞ」
「なんだかんだ言って俺はこのゲームでの収支はプラスだ。それ以外にもメリットはある」
圧倒的な虐殺空間を作り出したとは思えないほど、タスラムはお人好しである。ぽろぽろと情報を溢してくれるので助かる。
「メリット?」
「まあ、いろいろとな」
「それより。この烏の死体はてめえらにくれてやる。俺らにはゴミでも、あんたらには何かしら使い道くらいあるだろうしな。ここまでの情報と、それで手を打てや」
もう少し情報を得ておきたかったが、シュラが先手を打つように話しを纏めに入った。
「わかった、それでいい。――約束は守る」
神妙さを出すように深めにうなずいた。
圧倒的な戦力もそうだが、話しが通じる相手と敵対したくはないので、こちらとしても異存はない。
それと、彼はおそらく気が付いていないだろうが、最後に有益と思われる情報を落としてくれた。獲物を横取りした件でこちらは情報という対価を得たはずなのに、死体をくれるという意味。
横取りしたものは、死体から得られる素材ではなく、おそらく、経験値のようなもの。
あくまで、推測に過ぎないけれど。
今後の行動指針を、それ前提で考えていくとするなら――。
「おーい。まだ、揉めてんのか?」
大鎧蜘蛛が横たわる場所の近くから、いらついたような呼び声が掛かる。大盾持ちの男性が盾を持っていないほうの腕を上げて軽く振っている。
「折り合いがつかねえようなら、俺が行って黙らせてやるか?」
「問題ねえ。話しはついたぜ!」
吐き出すようにがなり声を上げ、シュラが手を振り返す。
強化された聴力なら、そこまで大声を上げなくても聞こえると思うが。
背の高い大盾持ちの男性は、シュラよりも粗暴な人格をしているようで、大盾に硬質な籠手を打ちつけて、苛立ちも顕わにしている。
「つうわけで、俺らは行くが。約束を違えやがったら、さすがにブッ殺すからな。っつても、まあ、生きて会うことはもうねえか。あんたらみたいな弱者が、そう何日も生き残れるゲームじゃねえからな。ひゃはは」
「シュラ。わざわざ恨みを買うような、憎まれ口を叩くな。黙って歩け」
「はいはい。黙ってりゃいいんだろ。安心してくれ、もうなんも言わねえよ。恨みなんて持たれたら堪ったもんじゃねえからな」
「はぁ。安心するには、もう手遅れだよ」
タスラムとシュラは、もう俺達には目もくれず戻っていく。
シュラが言葉にしただけでなく、二人共から、遠からず死んでしまう者として、いや、もうすでに死体にでもなってしまった物として扱っているような空気感が出ていた。
彼らとしては、俺達が生存していられる時は僅かな間でしかないのは、確定しているようだ。その間に自分たちの悪評を流されないように、念の為に手を打っておいただけ、というところか。だからこそ、いろいろと情報を漏らしてくれたのだろうが。
彼らが遠ざかってから、ニオは俺の前にズイと出てきて威嚇するような態度をとる。
なんだか既視感を覚える。
――いや、実際に少し前に同様の光景が繰り広げられていたな。
相手が、眼中になしという態度で去っていくからできる態度である。
さらにニオはなにやら喚き始める。
これまでで一番言葉に近い発音。
びゅっごお、びゅっごお、といった感じの発声を繰り返しながら、手斧を突き上げるような動作を行なっている。
言語として意味は成してしていないが、
「ほら、見つかるかもしれないぞ」
聴力次第では聞こえているだろうし、いつ振り返るかわからない。
万が一を考えて注意しておく。
ニオはビクッとしながら後ろに跳び退って、明後日の方を見て知らん振りをした。
ほどなくして、教会の原点といった佇まいの、宗教色のある無骨な石造りの建物を廻り込むように、黒色の集団は視界から消えていく。




