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「悪いなあ。あんたらの獲物? ぶっは。獲物っていうかただの烏だけどな。全部、ブッ殺しちまったわ」


 直接手を下した男ではなく、先程からやたらと不快な笑い声を上げる青年が、こちらに近づいてくる。

 二十歳(はたち)そこそこの一番若い見た目で、整った顔は険のある表情。黒髪はオールバックで、似合ってはいる。

 左右の腰、両方に複数の(こしらえ)が差されている。二刀同時に扱うのだろうか。普通の人間であれば、片手で扱うには不都合のある長さの刀身が予想される。もっとも、現在の筋力であれば、俺でも軽く振り回せる重量であろう。

 彼も皮鎧を身につけ、全身を黒系統で纏めている。


 遠く、巨大な蜘蛛の後方にいる槍持ちと、大盾に短槍の二人の男性。そして宗教的な装飾の為された柄頭のメイスで武装した女性。この集団は、全員が黒色の防具で統一しているようだ。

 充分に近づいてから、無理やり言葉を絞り出す。


「いや。助かった」


 固い口調になってしまう。そして固い顔をしていることだろう。

 隠す様子もなくこちらを見下しているのが窺えて、どうしようもなく不快なのだ。


「え? ひゃはは。真面目に助けが必要な感じだったのかよ? あんなのほとんど利益なんてねえから魔物つうより、俺らの間じゃあ野鳥扱いなんだぜ。ほぼ風景の一部っつうか」

「君らはやはり、特権階級なのか」

「君らって。あんた何歳だよ。たぶん、あんたより俺のほうが年上だぜ。口の利きかたに気をつけろや」


 お前が言うな、と言いたいところだが。

 まあ、たしかに遺伝子や抗老化の処置次第で、俺より年下に見える年上はいくらでもいる。口調に大人びた様子が欠片もないから、おそらく年下であろうと予想しただけのこと。


 彼が何歳だろうとこの際どうでもいい。言葉の端々に滲む粗暴な感じから、こちらに危害を加えてきそうな雰囲気があり、それが杞憂で終わるか否かが重要なのだ。


「ああ、申し訳ない。失礼したよ」


 揉めない程度に譲歩しないと命に関わる。


「まあ、ゲーム内のことだからな、無礼講ってことでいいけどなあ。ひゃははは」


 あっさりと許しが出たか。意外な反応だな。


「それで、こちらになにか要求でもあるのだろうか?」

「はあ? あんたらに要求する物なんてあるわけねえ。どうせ、ゴミみたいな(もん)しか持ってねえんだろ。俺らは廃品回収業者じゃねえんだよ」


 俺の言葉を握り潰すかのような威圧感を漂わせて、男は笑みを消した。腰のあたりの服をニオが握って来る感触がする。彼女も殺気めいた気配を感じ取ったのだろう。


「では、どんな用が?」


「用っつうか。あんたらが、俺らになんか文句がねえか確認しにきたんだわ」


 この状況で、文句をつけられているのは、どう考えても俺たちのほうである気がするのだが。


「シュラ。絡むな」


 化け烏をことごとく駆逐した男が、いつの間にか傍まで歩んできていた。


「絡んでねえよ。タスラム、てめえが勝手にこいつらの獲物を横取りしちまうから。問題にならねえように、俺が事後処理してやろうって、気を利かせてやってんだろうが」


「だったら無駄に煽ってないで、用件をさっさと言えばいいだろう」


 どうやら、命のやりとりには発展しなさそうな流れ。心の中で、そっと安堵の息を吐き、胸を撫で下ろす。


「いや、問題にするつもりは全くない。正直、こちらとしては助かった」


 本心からの言葉だ。あのままではジリ貧であった可能性が高い。


「まあ、俺らも、遊びでやってるわけじゃねえからな。変な噂を流されたりしたら、困るわけよ」


 シュラと呼ばれた男が、予想外に殊勝な理由を語りながら、髪を額から後ろに向けて撫でつけた。


「揉めたいわけじゃないし。勘違いしないで欲しいんだが。それだけの力があれば、俺たちがなにか悪い噂を流したところで痛くも痒くもないと思うが。それに、……あなた達なら、俺たちの口を封じるのなんて簡単だろうし」

「なるほどなあ。まあ、あんたらにそこらへんの事情が分かるわけねえか」


 得心がいったという態度。


「そんなに甘くないのだよ」


 タスラムという男が、短く口を挟む。


「というと?」


 流れ的に情報を得られそうな機会。見逃す手はない。


「というとじゃねえよ。なんであんたらに、俺らが懇切丁寧に説明してやらにゃならんのかねえ? タスラム。てめえもほいほい情報を与えようとするんじゃねえよ」


 あからさま過ぎたようだ。やはり、そう簡単に口を滑らせてはくれないか。


「ほいほい与えようとしている訳じゃない。今回、獲物を横取りした件は、情報を対価に手打ちというのでどうだろう?」


 無表情のタスラムが冷静な口調でそう提案する。

 本来、窮地を救ってもらった借りがあるのはこちらなのだが、何やら事情もあるようなので、流れに身を任せてみるか。


「チッ。問題にするつもりねえって言ってんだから、情報もやる必要ねえのによ」

「口約束だけでは安心できん」

「まあ、それもそうだな。おい、対価を渡した揚句に俺らに不利益な噂なんて流したら、絶対(ぜってえ)ブッ殺すからな」


 シュラは、親指で首を掻き切るようなジェスチャーを見せつけてくる。


「そちらと俺との実力差くらいわきまえている」


 そもそも、実力以前に彼らの不興を買う行為をしても俺に利がない。


「そりゃそうだろうがな。あとは、そうだな。これから渡す情報を他人に拡散しなけりゃあって条件ありでなら、仕方ねえ」


 どうせあんたら長くなさそうだしな、と耳に届く声で呟き、シュラは鼻で笑った。

 大人気(おとなげ)なく突っかかっても不幸な結果しか生まないのは分かり切っているので、不愉快な気持ちは飲み込んで耐える。


「もちろん。条件はすべて飲む。こちらはそれでいい」


 俺が約束を(たが)えなければ、彼らの提案は単純にプラスになるものだ。

 シュラと他数名の言動から、厄介事に巻き込まれてしまったな、と考えていたのによい意味で誤算となったかもしれない。

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