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「どうするんです?」
ニオの肩を軽く叩いて宥めながら、おっさんに声を掛けた。
「いやあ。ないな」
「そうですか」
あれだけの自信があるなら、それなりに有能な戦闘力はありそうだ。いや、組んで欲しくはないけど。はっきり言って、ムラクモにいい感情は持てそうもないので。
「手を組まないか、なんてお為ごかしでしかねえな。ありゃあ、体よく手駒、手下の類を集めて自分の為に利用しようって腹だろ」
「ああ。かもしれないですね」
おっさんの読み通りだとしたら、戦闘能力はあっても、上に立つ才能はない。腹の内を隠し切れていないからな。
俺も、脂ぎった男に似たような提案をされた経験はある。内心の計算も同じようなものであったと思われる。
「あんな態度の奴と、普通に手を組むだけでも胃が痛くなりそうだしな。ましてや、あいつの下に付くとか。自殺行為になりかねん」
「たしかに」
単純に一緒にいて不愉快になる存在ではあった。
「今回みたいな防衛戦で戦力として当てにできるように、上手く転がして適度な距離で付き合うのがベストなんだろうがな」
「うわ、おっさんの腹積もりのほうが巧妙で質悪いですよ」
「いやあ、そうか。ま、歳の功だな。って違う、違う。そうするつもりなら、もう少し取り繕った態度で接するっての」
「それをやるつもりがあれば、出来てしまいそうなところが怖いですよ」
「はいはい。やらないし、怖くない」
おっさんは相好を崩してみせて、表情で無害さをアピールする。
一瞬で俺の気持ちが緩む。
――だから、そういうところが怖ろしいんだって。
「さて、まあ、そんなわけで。俺はしばらく単独行動の予定だが。にいちゃんとは、ゆるーく、協力体制を持っておきたいと思ってるんだよなあ」
二人とも荷物も纏め、いつでも行動できる状態になった。その段になって、おっさんは真面目な表情に改めて提案してくる。
「腹立たしいですけど、あいつの言っていたことには一理ありますよ」
ムラクモから地雷扱いされているスキル。そのデメリットに対策を施さなければ、俺の命は早晩尽きるに違いない。
「厳しい言いかたをするなら、だから一緒に行動はできないって感じだな」
「まあ、わかります」
おそらく、一緒に行動してもおっさんに旨味はない。俺が足を引っ張ってしまい、得られるはずの稼ぎを損なうだけだろう。
今のままなら、だけど。
「だが、人となりは信用できるし、互いに労力を減らせる場面なんかでは、手を組み合う分には損はないだろう」
双方にメリットがある場面でだけ、協力する感じか。
「簡単に俺を信用していいんですか?」
「簡単ってわけでもないが。にいちゃんは、戦闘中に怪我人の心配なんかしてしまうくらいには、お人よしだからな。まあ、寝首を掻かれるような心配はいらないだろう」
「なるほど」
俺の行動や人となりなどを、ある程度の把握はした後だったわけか。
若干の気恥ずかしさを感じてしまう。
軽口で誤魔化してしまうのが精神衛生上よさそうだ。
「まあ、俺はおっさんの腹黒さが油断ならない気はしていますが」
「いてて。痛いところを突いてくるなあ」
おどけた態度とか、これも警戒を緩めるための一手なのかもしれない。
「おっさんも、借金が高額過ぎて辛いのよ。多少は腹黒く立ち回らないと、二度と首が回らないからねえ」
これは本音だろう。
「理解はしていますよ。俺だってそうですから。そうですね。先ほどの提案にあった情報交換とか、野営の協力くらいなら、双方デメリットはなさそうですね。問題ないですよ」
おっさんも俺の寝首を掻くとは思えない。
彼があくどい人間であれば、死に掛けた俺に薬を売らずに、死んでから金だけを回収、という手も使えただろう。
「よし。じゃあ、今後もよろしく」
手を差し出されたので、軽く握手を交わす。
「そうだ。教えて欲しいことがあるんですけど」
情報交換の前借りになってしまうので心苦しいが、早急に戦闘能力を上げておかないと命に関わる。
「おう。なんだ?」
「蜥蜴人を二体討伐――。いや、殺したので、成長の碑石でなにか出来るかもしれないんですが」
「ああ。場所か?」
「そうです」
マニュアルには、スキルや補正の強化は成長の碑石で可能、というような説明があったのだ。ただし、成長の碑石がある場所や、成長させる条件などの詳細はなし。
ゲームでありがちなのは、敵を倒した時に経験値が入って、一定の値になれば能力が強化されるというもの。
当て嵌めて考えると、蜥蜴人二体の殺害で、戦闘力を強化できるようになったかもしれない。
「俺もまだ行ってみたわけではないが。近場だと、第二橋頭堡に向かう途中にあるとは聞いているな。成長の碑石がある場所に入ると、一定時間は安全地帯としても機能するらしい。ただ、使える時間が限られているのと、一度入った者はすぐには中に入れなくなるみたいだな。もしかすると、二度と入れない仕様になっているかもしれないという意見もある」
おっさんはすでに情報交換できる相手を確保していたのだろう。
それも、複数人いそうな感じである。
「扉かなにかで隔離された屋内にあるわけですか」
「古ぼけた石の祠の中らしい」
「二度と入れないとすると、祠の数によっては途中から成長できないなんて事態にも?」
安全地帯として機能してしまうから、使用制限があるのだろう。
あとは、そうだな。成長の碑石が必ずしも祠の中だけとも限らない、というくらいは予想しておくべきだな。
「……かもなあ」
それでも、現状の能力では心許ない。辿り着き次第、戦闘能力の強化をするしかないな。
成長の碑石が一つしかなくて、さらに二度と使えない、ということはほぼあり得ないはず。それだと、ゲームが成り立たない。
成長の碑石の場所や、機能復活の有無と時期は率先して集めたい情報だ。
そもそも本当に必要な情報がなにかすら、見当もついていない。
まったく、前途多難だ。




