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柘榴を食べ終えた後、無理して穀物の塊と干し肉をお湯でふやかして腹に入れた。
おっさんは、食事を終えて荷物を纏め始めた。
俺も荷を纏めたり、明るくなってきたので日差しを避けさせるためにニオにフード付きのローブを着せたりと準備を始める。
大きさが合っていないので、急場の間に合わせとして短刀で適度に切ってしまう。安物を大事にして動きの阻害になるくらいなら、当面の間だけ着させて使い捨てればいい。
「にいちゃんは、この後、ひと眠りしておくって感じか?」
「いえ。航海中に知り合った人から、使い魔関連の写本と、装備品を売ってもらう予定で。それくらいしか決まってないですね。時間も惜しいですし、明るい間は活動しておきたいとは思っていますが」
まだ無理が利きそうなので、怪我が治ったらすぐに行動を起こせるように、情報収集と探索の準備を終わらせておきたい。どうにも出遅れてしまっている気がして、焦りが抑えられないのだ。
なにより戦鎚の耐久度に不安がある。
「そうか。なら、俺もまだ働きますかね」
おっさんはわざとらしく腰を叩いて言う。
「なあ、それはそれとして。もしよかったら、夜になったら合流して情報交換でもするか」
探るように目を細め、おっさんがそう提案してくる。
「むしろ俺から頼みたいくらいですけど」
「おし。じゃあ、合流の場所はどうする?」
「暗くなる前にこの辺りで、とかどうです?」
「オーケー、そうしよう」
手と口を動かして、片付けながら会話をしていると、こちらに近づいてくる探索者が三人、目に入る。視線は俺たちに向いているので、何か用がありそうであった。
中肉中背の二十代前半の男と、おそらく成人していないくらいに若い男女の、三人組であった。
先頭にいる二十代前半と思われる男は、銀髪で、とがった印象の目と、口元に皮肉げな笑みを浮かべており、顔形や肌の色は日本人そのもの。髪は染めているのであろう。
肩に手を当て、首をコキコキと動かしながら歩いたりと、俺が世界の中心だ、とでも考えていそうな傲岸不遜な所作が垣間見える。
「知り合いか?」
「知り合いではないですけど」
どことなく見憶えがある気がする。
若い男女は、西洋系の顔立ち。
男性の方は彫りが深く濃い目の顔で、茶髪で灰色がかった瞳をしている。
女性の方は白人にしては薄い顔立ちで、金髪碧眼、小麦色に日焼けしている。
三人とも、防具は俺と大差ない粗雑な作りであった。銀髪の男が古めかしい太刀を腰に佩き、西洋人の二人は短槍を所持している。
銀髪の男は作り物のように整った容貌であるが、遠隔偽体ではないだろう。装備品から特権階級ではない普通の探索者と思われた。
「俺は、ムラクモ」
近くまで来て立ち止まった銀髪の男は、あからさまに体の正面をおっさんの側に向けて名乗った。
「こいつらは、ティメルと、ズバイダという」
後ろに控える男性を親指で指し示し、次いで女性を差す。やはり、紹介はおっさんに向けられている。紹介された二人は、会釈などの反応をするでもなく無表情のまま。
ムラクモには自分の見目に自信がある者特有の、気取った振る舞いが透けて見える。
「俺は、おっさんだ」
おっさんも、受けて立つように渋い口調で名乗りを決めた。
「見りゃ、わかる」
「名前も、おっさんだ」
「名前も、おっさん?」
「そう登録した」
「そ、そうなのか」
おっさんの名乗りで、ムラクモのスカしたような態度が微妙に崩れる。後ろの二人の無表情には微塵も変化はない。
「俺は――」
「なあ。あんた俺たちと組まないか」
ムラクモは俺が名乗る言葉を遮って、おっさんにそう持ち掛けた。
意図的に俺を無視するような姿勢。正直、気分が悪くなる態度であった。事を荒立てるのは得策ではないので、大人しく引き下がるが。
「ま、即答はしかねるな」
おっさんは、頭を掻きながら素っ気なく答える。ムラクモの顰められたような目つきが見開かれてから、一瞬、睨みつけるように細められる。
「はあ、わかってねえな。いや、言ってねえもんな」
ムラクモは、大げさに項垂れて見せてから、ニヤニヤとした笑みを浮かべる。
「正直よお。レアスキル持ってんだわ、俺。それも二つな。しかも弱体とか、デメリットがきついゴミスキルなんかは持ってねえし」
笑みを消し、自慢げに両手を広げて語る。
途中、蔑むような目線を俺に送ってきた。どうやら、アイラが殺された現場でも目撃したのか、使い魔使役のデメリットを揶揄しているらしい。
ムラクモの腹立たしい態度もあって、悪態が次々に思い浮かぶくらいに妬ましい気持ちが湧いてしまう。
同じ下層階級なのに、なんでこんなに不平等なんだ。ゲームシステムについても、そんな不満を持ってしまう。
「それなら、俺みたいな、こんなおっさんの手なんて借りる必要ないんじゃないのか?」
おっさんは軽い調子で自虐的な疑問を呈する。
「ああ? あれだ、見たところ、あんたは周りの有象無象と違って、なかなか腕が立つようだったからな。いくら俺自身と俺のスキル構成が優れていても、現状、装備品は貧弱だしな。特権階級の連中と差を縮めるには、さすがにこのままじゃあ難しい」
言動から、骨の髄まで自惚れていて、考えなしというイメージなのに、意外と驕っているだけではなく、慎重な面も持ち合わせてはいるらしい。
自惚れているのも間違いないのだが。
特権階級に根こそぎゲーム内資産を持っていかれない方法は、組織力を持って対抗するくらいしか、俺も現時点では考えつかない。
「なるほどな。まあそれでも、しばらくは保留とさせてもらおうかね」
おっさんは荷物を背負い直し、話しを打ち切りたそうな様子を示唆させる。
「おい、あんた。まさかとは思うが。まともに生き残れそうもない地雷スキルを持った、そいつと組むつもりなんじゃねえだろうな?」
見下した目で俺とニオを一瞥し、ムラクモは貶すような口調で嘲り笑いを交える。
そういう一面を持ったスキルではあるが、反論したい気持ちもあった。
アイラの活躍や、ニオのアシストが無ければ、もっと悲惨な状況であったかもしれないし、死んでいたかもしれないのだ。
それでも、敢えて言葉を飲み込む。
わざわざ揉めるより、黙っていたほうが後腐れはない。見返すなら、いずれ結果を持って、と胸中に火を灯すにとどめる。
「はあ。俺はまだ単独で行動する予定なんでな。組むだの組まないだのって話しはしてない。なんつうか、しばらくは様子見だ、様子見」
おっさんは、煩わしそうに手をひらひらさせた。
「ふん。悠長な。まあいい。考えておいてくれ」
「あいよ」
「遅きに失する前に、決断することだな」
あちらから協力を求めておいて、なぜか上から目線な発言を残して、ムラクモ達は去っていった。
彼らが後ろを見せて、距離が出来てから、ニオは猫が威嚇するような声を上げた。
いまさら威嚇しても遅いだろ、という声が胸中に湧くのは否めないが、目の前で威嚇されて荒事に発展するよりいい。子供のような形をしていても、空気を読むだけの気遣いが出来るのは助かる。
それに彼女も言葉は理解できるからな。怒りが湧くのも仕方ない。




