表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/62

23

 篝火を挟んだ暗がりの向こうから聞こえてくる戦闘音も、かなり小さくなってきた。


「そろそろ、終息しそうか。こいつが最後だといいが」


 ニオは呪文と印を切る手を止めていなかった。


「いい判断だ!」


 思わず叫び気味に褒める。

 目敏いというか。

 ニオは策敵スキルなんて持っていないはずなのに、やたらと鼻が利く。


 無理を押して突破してきたのであろう。傷だらけになっている蜥蜴人が、近くまで侵入していた。

 厄介なことに槍持ちである。長柄の戦鎚と間合いの有利不利はない。

 苦しげな呼吸音のようなものが漏れている。弱ってはいるが、手負いはお互い様だ。


「■■■■■■■■■■■■■■■■」


 ニオが流血の呪印を発動した。手負いの蜥蜴人は躱そうとするが叶わない。黒い靄が傷口に吸い込まれていく。

 蜥蜴人は暴れるように靄を振り払おうとする。

 傷口から血が滴り落ちていく。


 諦めて、槍を構え獲物を狙うような姿勢になった。どうやら、体力が削られていくのに気づいてしまったらしい。

 視線の先はニオであった。


「させるかよ」


 塞ぐように戦鎚を視線の間に置く。

 相手は円を描くように回り込もうと動いた。

 無駄に時間を消費してくれている。


 こちらも進路を潰すように動いて、膠着状態に持ち込んだ。しかし、異様な執着心だな。目標を変えて攻めたほうが建設的であろうに。このまま、出血で弱るのを待っていれば、時間とともに俺たちが優位になっていく。

 こちらも太腿や脛や腕の傷から血は流れている。それでも、出血量は比較にならない。


「っと、そうも言っていられなくなりそうだな」


 もう一体、防壁内に侵入している。しかも、怪我人がいる区画に向かおうとしていた。


「仕方ない。こちらから行かせてもらうぞ」


 弱っているほうを手早く仕留めて、後を追うしかない。

 その前に、状況を報せておくか。


「侵入された。誰か、怪我人を助けに向える者はいないか?」


 まずい。

 叫んでいる間に、槍持ち蜥蜴人がニオを目指して疾走し始めた。


「わかった。俺が行く。にいちゃんも片付いたら加勢に来てくれよ」


 中年の探索者の一人が、応じてくれた。なるべく早く加勢に行きたいが。

 有効打を放つには強振を強いられる戦鎚と、突きで殺傷できる槍との攻撃速度の差が仇となった。


「やらせないって!」


 攻撃は諦めて、盾を前に構えて激突する。

 相手の技前が一歩上回った。構えと技の起こりからは想像しにくい軌道の刺突が、盾をすり抜け脇腹の肉を穿った。


「ごぽっ」


 間抜けな音をたてながら、口腔に迫り上がってきた血泡を吹いてしまう。

 意識を手放して、楽になってしまいたくなるほどの激痛。

 血とともに命そのものが流れだしていく。死に片足を突っ込んでいる。それだけ深い傷であった。

 それでも俺の勝ちだ。


 ニオがいつの間にか拾っていた、壊れていない方の手斧で、槍持ちの蜥蜴人のアキレス腱を断ち切っていた。

 怯んで隙が生まれる。さらに機動力も奪った。


 戦鎚の柄を滑らせて、短く持つ。気力を振り絞らなければ、握り締められない。

 蜥蜴人の目が見開かれる。抵抗するように槍を引くが、遅い。

 盾を手放した掌で槍を掴んだ。両端から力が加わり、長い柄が折れる。

 逃がしはしない。

 痛みを堪えて、踏み込む。

 戦鎚が風を割いて唸る。

 思い切り、戦鎚を脳天に打ち下ろした。鈍い音の振動が骨を伝う。鶴嘴の先端が容易く頭蓋骨すらも貫通し、脳味噌を破壊した。

 突き刺さった戦鎚を引き抜くと、蜥蜴人は眼球を反転させ、痙攣しながら地に倒れる。

 手が震えて力が入らない。戦鎚を地面に取り落とす。


「ああ、もう無理だ。これは、ちょっと……。死ぬかもな……」


 とても立ってはいられなくなって、力なく座り込む。

 ニオがおろおろと、困惑している。可哀相だが、気遣ってやる余裕はない。

 怪我人のいる方への加勢には、行けそうもないな。

 それどころか、急いで止血しないと、自分自身が生き残れそうもない。

 当然、新手に襲われても終わりだ。


 だから、早く治療薬を手に入れておきたかったのに。

 纏まらない思考に沈みそうになっていると、見憶えのない靴を履いた足が、視界に入ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ