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 船団を形成していた他の船影が見当たらない。

 別の上陸地点に向かっているのだろうか。

 船体が入り江に進入してすぐに、暮れかけた地平からの残光を受けた海岸が望める。


 正面には、箱型をした石造りの建造物が、積み木を重ねたように連なっていた。箱の一つ一つは、人が居住するために都合よさそうな大きさで、窓や入口も見受けられる。それが数えきれないほど集まり、天を貫く壁のように巨大な一つの建造物になっているように見えた。

 神の見技としか思えない威容。しかし、信じられないことに、これも人の手によって造られた物なのである。

 この莫大な質量を構成しているものが、目に見えないほど微小な機械の集合体だと知っているだけに、さらなる畏怖が、脳髄を電流のように駆け巡る。


 知らず、膝が震えていた。

 神が存在しているのなら、その怒りに触れない筈がない。そんな罪深い光景に思えた。


 ◇


 海岸部にある石積みの岸壁からなる、比較的広い場所を簡易的な港として利用しているようだ。

 先着か別口か、二隻の船だけが接岸され、動き回る人や、天幕が散見される。

 ぽつぽつと篝火が灯されているおかげで、少ない人影の割には活気が感じられた。

 寄港が迫り、甲板上が(せわ)しなくなってきたので一旦、船内に戻る。


「部屋に戻るほどでもないか」


 同じような考えの探索者が多くいるので、人の少ない場所を探してから、そこで落ち着く。


「食料の確保が不安だな。ゲテモノしか売られていなかったらどうしよう……」


 待つ間、考えごとくらいしかできない。不安材料ばかりが浮かんでは消えていく。

 鼠の干し肉を、平気で食べられるようになってしまうのだろうか。などといった愚にもつかない不安と、生き残る確率の低さ、といった重い不安まで、去来する思考が胸を圧し潰していく。

 弟と妹は無事であろうか。

 暫定的に借金からは解放されているとはいえ、本調子ではない父の稼ぎで生活していけるのか、不安である。

 運よく生き延び、借金を返済しきっても、もう人間を辞めてしまった俺が、再び彼らと暮らせるのかも疑わしい。それでもこのゲームに参加するしかなかったのには違いない。


「だめだ」


 成功のイメージと、そのための思考以外は無意味だ。

 為せるものも成せなくなる。


 ◇


「到着したのか?」


 騒がしい音が耳に届く。

 急ぎ気味に甲板へ向かう。

 甲板に出ると涼しい外気と、騒がしい声が出迎える。


「早くも厄介事か?」


 ぼやきながら、船体の縁に人が集まっているので行ってみる。

 陸側が騒がしく、その原因が目に入ってきた。


「正面に立つな。挽き肉になるぞ!」


 港として使われている広場で、怒号が飛び交っている。


「おい、奴隷ども! もっと突っ込んで足を狙え、足を。動きを止めてから囲んで滅多刺しにしろ!」


 篝火に照らされた、貧相な服装に粗製の槍を持たされた奴隷らしき人々。

 後ろから、指示というか怒声を飛ばしている無骨な鎧の兵士。彼を守るように大盾と武器を構える兵士たちや、武器のみを構えて散開している兵士たち。

 奴隷の人数は三桁を下らず、兵士はその数倍はいるだろう。

 さらに、近くの建物からは、兵士が徐々に援軍として駆けつけている。


 それに対するのは、羽根を纏った大蜥蜴といった見た目の生物だった。

 もしくは鳥に進化しかけた恐竜というべきか。

 赤褐色の羽根が長い前足から脇腹にかけて生えており、背中と尾も羽根を纏っている。鱗は枯れ葉のような色をしていて、むしろ一枚というよりは一個と数えたくなるような塊で、刺々しさも備えていた。それらがごつごつと固まって、全身を覆う鎧になっている。

 体長は尾まで入れれば十メートルを越えているように思われた。人間どころか、牛や馬でさえ丸呑みにできそうな顎門は恐怖そのものでしかない。

 人間が武器を片手に挑んでどうにかなるようには見えないし、実際に奴隷や兵士達が蹴散らされている。


 今また、尾で薙ぎ払われ、肉塊になりながら吹き飛ぶ人体が石壁にぶち当たって弾けた。

 反射的に嘔吐感が込み上げるが、押さえつける。


「ほんと、碌でもねえゲームだな」


 こんな非人道的なものを、ゲームと呼ぶのも(はばか)られる。

 奴隷の中には前回の参加者も交じっているのだろうか。

 すべてが人工生命体だとしても、兵士も奴隷たちも明らかに人権が発生するに足るだけの知性や感情を有している。


 人死(ひとじ)にが目の前で、平然と展開されているのだ。

 呟きを溢すまでの間だけしか見ていなくてもわかった。暴れ回る羽根大蜥蜴に対抗できる戦力が、陸にいる集団には存在していない。

 積まれた木箱の陰から奇襲を仕掛けた兵士の一撃を受けても、まともに傷すらついていない。その兵士は、羽根大蜥蜴が回転するように向きを変えて走り出した拍子に、轢き潰されてしまう始末。


「探索者たちよ」


 船尾楼甲板から、古めかしくも煌びやかな鎧姿の男が朗々と告げる。


「さっそく出番だ」


 鎧の上には白地に、赤い剣の文様を象った布地のコートを纏っている。おそらく、指揮権のある者の証であるのだろう。


「参戦者には報酬を出す」


 布地に覆われていない箇所から見える無骨な鎧の表面全体は、おそらく黄銅で造形されたアラベスク模様で覆われていて、美術品のようであった。


「さらに活躍した者には、多額の報酬を約束しよう」


 具体性のない報酬制度に相対するのは絶望的な脅威と、あまりに無茶振りではないか。

 それなのに――、


「ウオォォォォ!」


 と雄叫びを上げて、船から飛び降り向かう者や、梯子を伝って戦場へ向かう者など、後を絶たない勢いで次々に探索者は船を降りていく。

 命知らずで頭のイカれた連中がなる職業が探索者というものだ、と言わんばかりである。

 数百近くの援軍で、流れは変わるだろうか。

 日本人にしか見えない参加者であろう者も、多く見受けられる。率先して前線に向かうものはいないようだが。それなりの割合で、仕方なさそうに後を追うくらいはしている。

 補正やスキル次第では、一騎当千の猛者も存在しているかもしれない。


「やるしかないか」


 この先、こんな展開ばかりが待っているのだろう。

 腹を括るしかない。


「絶対に五百億円稼いでやる」

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