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宰相閣下の憂鬱  作者: エヌ
序章
4/12

カッシーニ卿の伝説、その裏側-1

 100年前、王国は未曽有の危機に晒されていた。

 突如現れた『魔王』率いる異形の軍勢が、王国に攻め込んできたのだ。

 備えのなかった王国の各都市はあっという間に攻め落とされ、人々は比較的戦力の充実していた南の都に逃れた。

 王国軍を柱とし、生き延びた面々は決死の思いで戦いを挑むも、抵抗空しく都は包囲されてゆく。

 最早これまで……人々がいよいよ滅びを覚悟した時、一人の男が現れる。

 ふらりと現れたその男は、たった一人で『魔王』と相対し、どういう手品を使ったのか全ての軍を退かせたのだそうだ。

 その功績から王国に取り立てられた男は、荒廃した国土の回復に尽力すると共に、奇抜な発想で人々の暮らしを豊かにし、最終的には宰相の地位まで上り詰めた。


 これが世間一般に伝わっている、名宰相ジャン・カッシーニ卿の伝説である。



 しかし事実は伝説とは少々異なる。

 最も重要な点……つまり、『魔王』の軍勢を一体どのような手段で退かせたのか。

 この点において、彼はある意味で全人類に対して許されざる裏切りを行った。



 答えは単純。

 彼は『魔王』とその軍勢に対して、貢物を用意したのだ。


 金銀煌く莫大な財宝を。

 いずれ人々に対して振るわれるであろう武具を。


 そして、彼らにとっての最高の珍味である食糧ニンゲンを。



 これらを以て、彼は軍の一時撤退を乞うた。




 『魔王』は撤退の要求を呑んだ。

 元々さしたる理由があって攻め込んだわけでもない。

 今ここで人間――彼女らの言葉ではオミヌムと呼ばれていた――を滅ぼす享楽より、生かしてこれから産み出され続ける富を選んだのだ。



 しかし、その後軍の中で次々といさかいが発生する。

 人間からの貢物を巡って異形の者同士で争いが始まったのだ。

 "力"を絶対とする異形の世界で、公平に分け合うなど土台無理な話であった。

 弱い者から強い者が奪う。

 ある種自然の摂理とも言えるその行為を、『魔王』もあえて止めようはとしなかった。


 これがカッシーニ卿の意図したものであったのか、今となっては不明だが、彼はそのほころびを見逃さなかった。

 身を守るために同族同士で固まりつつあった異形の者たちに密かに接触し、徹底的に対立を煽ったのである。

 情報戦という概念すら存在しなかった異形の軍勢は、たちまち混乱に陥った。



 十分に士気が下がったと見た卿は、自ら王国軍を率いて各地に攻め入る。

 勢いだけの遠征で生活基盤すら整っていなかった異形の軍は、あっさりと勢力圏を明け渡すこととなった。

 味方を信じることのできなくなった軍は互いにいがみ合い、じわりじわりと戦線を後退させてゆく。




 そんな中、カッシーニ卿から『魔王』へ謁見の申し出があった。

 自らを振り回した人間と会うことを苦々しくは思ったものの、彼女は申し出を受け入れた。

 破竹の勢いで進軍する――恐らく、このまま進めば自らを除いた軍勢すべてを滅ぼすことも可能な――彼らが、何故このタイミングで謁見を望んだのか興味が湧いたからだ。




 謁見の間に入ってきた彼女を、かつてこうべを垂れて命乞いをしていた男――カッシーニ卿が立って、同じ目線で堂々と迎える。

 そして一言、こう告げた。



「もし、私の味方になれば、世界の半分を貴女に差し上げましょう。」

歴史のお勉強その1

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