邂逅-2
「……何かおかしなところがございましたでしょうか。」
ネイトと名乗った男は、影の主が一頻り笑った後に尋ねる。
「いや、何。
お前に『陛下』と呼ばれるとどうしてもな……クックッ。」
「……『陛下』は『陛下』でございましょう。」
「フフ、拗ねるな。」
眉間に皺が寄るのを抑えつつ、ネイトは努めて冷静に目前の人影を見据える。
整った顔立ちは男女問わず見惚れてしまうほどの美貌……だが、こめかみから左右に伸びる捩じくれた角が人ではないことを思い出させた。
艶やかな漆黒の髪が肩の上で揃えられ、身に纏う黒い礼装と相俟って、切り取られた一つの影のように揺れる。
自己主張の控えめな身体つきは中性的な――ともすればある種背徳的な――魅力を湛え、しなやかな指先が机の縁をなぞっている。
華奢な体の後ろには不釣り合いな大きさの、雨に濡れたような黒い翼が妖艶に光っていた。
知らず目を奪われていたネイトを、深い紅玉色の瞳が見つめ返す。
「惚れたか?」
「まさか。……いえ、失礼いたしました。」
「クックックッ。」
彼女こそが――あるいは彼かもしれないが――すべての異形の頂点に立つ『魔王』であり、世界の半分を治める偉大な支配者。
そして100年前から代々続く王国宰相の『同盟者』でもあった。