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宰相閣下の憂鬱  作者: エヌ
序章
2/12

邂逅-1

 薄暗い階段を一人の男が降ってゆく。

 手元の燭台では数段先までしか見通せないが、男の足取りは確かである。


 灯りが照らす男の表情は険しい。

 年齢は三十路手前といったところだろうか。黒髪を後ろに流し、鷹のように鋭い視線を巡らせている。

 体つきはお世辞にも逞しいとは言い難い。

 筋肉の薄い身体に長めのローブを纏っている。腰には短剣が差さっているが、あくまで儀礼的なものに過ぎない。

 男の頼みはむしろ右手に持つ杖なのだろう。節くれだった木でできたそれは、先端に小さな橄欖石ペリドットがはめ込まれている。

 時折それを踏面ふみづらに打ちつけながら、男は下へ下へと歩を進めていった。




 やがて男は終点にたどり着く。

 そこは円形の広間のようになっており、黒檀で造られた重厚な扉が備えつけてあった。

 胸元から懐中時計を取り出し、燭台に寄せて時刻を確認する。



「よし……。」



 小声で呟いた後、男は扉の前へ向かう。

 視線の先には角の生えた醜悪な獣を模った金色のドアノッカー。

 男の手によって三度、硬質な音を響かせた。



---



 内側に開いた扉の中から光が溢れる。

 男は一瞬眩しげに目を細めたが、奥に座る影に気づいて驚きの表情を浮かべる。

 約束の時間はまだのはずだが……ドアを開けたと思われる侍女風の女に促され部屋に入る。


 豪奢なシャンデリアに照らされた十メートル四方の部屋。中央には小さめだが上品にあつらえた机が一基と、椅子が二脚置かれている。

 男は緊張した面持ちで、そのうちの片方に座る影の前へ進み出た。



「お待たせして申し訳ございません。

 『王国宰相』ネイト、参りましてございます。」

「良い。」



 影は鷹揚に頷く。



「我が地は変化に乏しいからな。

 今宵は面白い話を聞かせてくれるのだろう?」

「もちろんでございます。

 親愛なる……『魔王』陛下。」



 高らかな笑い声と共に、翼と角の生えた異形の影が震えた。

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