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第18話 グリナ城出発


異世界召喚 111日目


イシュ王都を出発し、14日目





マリナが部屋から出ていった午後…


室内でチェルの使う武器を、黒い術袋の中から試しながら選ぶ。

チェルも魔力を使えるので、どうやら黒い剣などの武具が使えるようだ。

黒の甲冑は、背中の2本の触角が出せないので背中が若干開いている黒の皮鎧を見繕う。

武器は、体格から片手剣がよいかと数種類持たせてみたが、どうやら、大きい剣がほしいらしく…重い両手剣を持たせる。

大人の腕ほどの幅のある剣で、長さはチェルの背丈以上ある。しかし、チェルがいたく気に入り部屋で振り回している。


チェルには、首から下げるペンダントほどの大きさの小さな黒い術袋を首から下げさせ、武具と、少量のお金、非常食などを分け与えた。


システィナと、ルーナも黒い武具に興味があるというので、甲冑を着させてみるが、黒い武具では、魔力でないと聖力を注いでも重さも軽くならず、効力も発揮できないようだ。

2人ともあきらめかけていたが、システィナが側近の間で再生された右腕で黒い片刃刀を握ると…どうやら、重さが軽くなるらしい。

右腕は、黒い武具を使えるようだ。

システィナが、ぜひ欲しいというのでシスティナへ渡した。


ルーナは、黒い武具が使用できず残念だったが、かわりに聖力の強くなったルーナの為に、大きめの聖石をはめ込んである甲冑や、ロングソードを渡した。

ルーナの機嫌が直ってよかった。

そして、遠慮するマクシスや、フェビアンにも、大きい聖石がはめ込んであるロングソードを渡した。


夕方、夜間外出禁止令が解除され、明日より、厳重なチェック体制の下城塞都市グリナへの出入りが解放される…とのお触れが出た。


さっそく、宿の裏の酒場にマクシス、ファビ、フェビアン、博影、システィナ、ルーナ、チェルの7人でファビの快気祝いを行う。

ぬるいビールで、軽く祝杯をあげる。

好き嫌いなく、なんでも楽しんで食べていたチェルだったが、ビールの苦さは、楽しめなかったようだった。

その後、サウナに入り汗をすっかり流し、久しぶりに力を抜いて寝ることが出来た。



翌朝…


部屋で皆で朝食を食べる。


「親父殿、先ほど確認したが、ファビの心臓は、もう大丈夫だ。後は、体力が復調すればなにも問題ないと思う」


「そうか、ありがとう」


マクシスは、顔をほころばせる。ファビは、調子に乗り…


「走るようになれるのも…もうすぐかな?」

と、早くも言っている。ファビも、マクシスも心から喜んでいる。


「そこで…すまないが、親父殿、ファビ、フェビアンの3人は今日、この城塞都市グリナを出発してほしい」


博影は、いままで何度か話し合いをしてきたが、その中に、全くないプランを持ち出した。


「えっ? 博影様達は、ここに残るの? 一緒に行こう」


ファビは、博影のいつもよりゆっくりとした口調から、博影の心を感じ、あせって声をかけた。


「博影…理由を聞かせてほしい…」


マクシスは、静かに尋ねた。


間をおき…


『グリナ城の地下牢に、イシュ王国の貴族や騎士が捉えられていると聞いては、救出もしくは、せめて確かめないといけないと思う。

ただ…どんな方法を取るにせよ、モスコーフ帝国軍と刃を交えることになる。

親父殿や、フェビアンの前で俺が行動を起こすわけにはいかない。

親父殿達に迷惑がかかるし、また、この宿は市民エリアにある。市民の暴動や戦など…もしもの場合、ファビの身が心配だ」


「博影、貴公の考えはわかった。我々の立場や、ファビの事を心配してくれて感謝する。だが…

私も、無事に博影を沙耶の元へ送ると約束している。その提案は、同意できない」


静かなマクシスの言葉に、フェビアンも同意する。


「博影…お前の気持ちもわかる。昨日、マリナと話してからのお前は無理していた。マリナたちの手助けをしたいのだろう」


システィナは、博影に厳しい目を向ける。


「手助け……か…シス、正直言って俺にもわからないんだ。ただ、助けた責任はあると思う。マリナの言葉は…正直言ってつらかった…」


博影は目を伏せた。


システィナは思う。


…こういうところなのだ…甘い…自分がもっと大切と考えることを目指していけばよいのに…こいつは、周りの事に首を突っ込みすぎる…人に優しすぎる…


「博影…マリナを、マリナたちを助けるということは、どのようにするという事か…わかっておるのか?」


昨日、マリナと博影のやり取りで…または、その後で、まったく発言しなかったマクシスは、博影にこの物事の終着点を聞いた。


「それは…マリナたちが、心からの自由を手に入れる事……チャウ伯爵に勝利し、モスコーフ帝国軍を追い払う事…だと思う」


苦し気に、博影が答えた。


マクシスは、もう言葉を被せなかった…その通りなのだから…


マリナたちに、騎兵と、騎士と戦える力はない。戦力はない。

もし、チャウ伯爵に勝てる戦力があったとしても、その後に必ず来る、モスコーフ帝国軍との戦で勝てるはずがない。


どう考えても…誰が行っても…結果は見えている…無理なのだ。


「…親父殿…わかった。当初の計画通り、明日、皆でグリナを出立しよう」


皆の意見はまとまった。それぞれ、分担して準備を行う。

システィナは、ようやく手紙を出せるようになったので、急ぎ宿場町セベリのダペス家の騎士あてに手紙を出した。

フェビアンと、博影は旅で使う幌馬車や馬を買いに出かけた。

マクシスとルーナは、食料を買いに行く。


城塞都市グリナへ入城して10日目、マリナが処刑をされようとした日から7日目の朝…


マクシス、ファビ、フェビアン、博影、システィナ、ルーナ、チェルの7人は、2頭立ての幌馬車と、3頭の馬に乗って城塞都市グリナを後にした。


城を出る際、若干時間がかかったが、マクシスが対応するとすんなり門をくぐることが出来た。

そのまま、2日ほどかかる東ドウイ川の宿場町ルセを目指す。



その日は、街道より見える小さな川のそばの丘で、天幕を二つ張り野営することになった。

博影達が、野営の準備をしていると…20人程からなる商隊もやってきて、隣に天幕を張り出した。


旅は道づれ世は情け…


結局一緒に火を囲み、食事を食べ酒を飲みだした。

どうやら、この商隊も宿場町ルセへ向かい、東ドウイ川から船に乗り、港町ガリアを目指すようだ。

商隊の長は、親父殿とフェビアンが騎士であり、同じく宿場町ルセから港町ガリアを目指すと聞き、ぜひ一緒に行動させてほしいと頼んできた。

最初こそ、断っていたマクシスだったが、酒が進むにつれ断われなくなり‥結局、明日より行動を共にすることとなった。


夜も更け、2人で2時交代で見張りをすることなどを決め、お開きとした。


最初、博影とフェビアンが、見張りをすることになった。


「商隊の人たちは、自分たちが、モスコーフの盾に護衛がてらの同行を頼んだ…と知ったら、どんな顔をするだろう…」


博影は、楽しそうに笑った。


「ふふっ、そうね。護衛代をかなりくれそうね」


フェビアンも笑う…博影が笑う元気が出てきてよかった…そう、思った。


「ところで、ファビは本気ですよ~子供だと思ってると、マクシス将軍の事、本当にお父さんと呼ぶ日が来るかも」


フェビアンは、意地の悪い笑顔で博影の顔を覗き込んだ。


「いやいや、俺、中身は40歳ですよ。12歳のファビと結婚はないから。人の事より、フェビアンの方が先なのでは? ファビのお母さんになるのかな?」


博影は、素知らぬ顔で焚火に薪をくべる。


「えっ? いや…それどういう意味!」


フェビアンは、思わず博影の方を見て、すぐに焚火へ向き直り、棒で焚火をつつく。

フェビアンの顔は、炎で照らされるよりも赤くなっていた。


「そのままの意味だけど? ファビは姉妹がいないから、さびいしいだろうなぁ」


博影は、なおもフェビアンをつつく。


「もう、私の事はいいから…あの人に言ったら、許さないからね!」


フェビアンは、顔を真っ赤にしたまま博影に抗議した。


チェルが、システィナ、ルーナの眠る天幕より出てきた。


「どうした?」


博影の問いに答えず、チェルは傍らに座り、博影にもたれかかって眠りだした。術袋より毛布を出してチェルにかぶせる。


「この子がチェルなんて、信じられないよね…」


その後は、マクシス将軍やファビの昔の事、博影の前の世界の事など、話は尽きず、交代の時間までフェビアンと語らった。


翌朝、日の出とともに商隊と宿場町ルセに向かい出発した。

昨夜の商隊の話では、ルセとグリナを結ぶ街道沿いに1週間前から盗賊の被害が出ているという、軽装備をまとい周囲を警戒しつつルセを目指す。


昼過ぎ…皆で簡単に昼食とする。馬も休めたいので、お湯を沸かしゆっくりお茶とした。

しばらくお茶を楽しんでいると…


「敵…」


一言いうと、チェルがすっと立ちあがり、左手に見える小さな丘へ走り出した。博影、システィナ、ルーナも、剣を抜き丘へゆっくりと歩いていく。

商隊の者たちは、博影達の行動を見てその場で剣を抜き、周りを見渡す。


しばらくすると…丘の上に馬に乗った盗賊と思われる集団が現れた。その数、約30人…


「盗賊だー」


商隊の者たちは、口々に叫ぶ。護衛の傭兵たちは、幌馬車の前に立ち、剣を抜き構えた。


丘の上では…盗賊の前に、チェルが一人立ちはだかった。


「お嬢ちゃん、死にたくないなら、そこどきな」


先頭の盗賊は、そう言うと…


「野郎ども、かかれー」


グチャッ…ブシュゥゥ…


先頭の盗賊へ向け、チェルは飛び掛かり、その大きな…チェルの背丈よりも大きい剣で、盗賊の胸を貫き…そのまま、頭へ向けはね上げた。

盗賊の体は、二つに裂け…血が空へ向け、噴き出した。


「この野郎!」


周りの盗賊は、チェルに向け、槍や剣を突き出す。チェルは大剣を横に薙ぎ払い、その武器ごと、盗賊の体を胴から真っ二つにした。

そして、馬に飛び移りながら盗賊の首をはねていく。


雲一つない、晴れ渡った空へ向け…


ガウガァー…


空に、裂けめが入るような激しさで吠えた。馬たちは、驚き、暴れ、主人たちを振り落とし逃げ出す。


「クソッ、なんなんだ」


盗賊の一人が、顔を上げると…目の前に、銀色の短い髪を持つ美しい女性が立っている。

思わず、現状を忘れ見入ってしまう…その目に黒い剣が突き刺さる。


約30人の盗賊たちは、剣ごと一刀両断にされていく。

その場から、逃げ出す盗賊は…博影が放つ矢の餌食となる。

20分ほどで…丘の上には静寂が訪れた。

丘の上には、おびただしい肉の破片や切り離されたからだで埋め尽くされ、草や土は…血で真っ赤に染まっていた。


商隊の者たちは…


特に先頭を切って飛び込んでいき、体に似合わない、大人でも使えそうもない、大きな黒い大刀を意のままに振り回し、盗賊を始末した浅黒い子供…チェルに見入ってしまった。


商隊の者たちには、チェルは亜人で私たちの護衛をする者…と昨夜話すと笑っていたが、その能力を見せられ驚愕した。


盗賊たちには、ギルドから懸賞金がでているとのことで、護衛の傭兵たちが首や装備を欲しがったので、すべて譲った。


日が落ちる前に、宿場町ルセについた。博影達は、宿の部屋を二部屋取る。


サウナで汗を流した後、

盗賊退治で、懐がかなり潤ったらしく…


…ぜひおごらせてくれ…


と言ってくれた、護衛の傭兵たちに酒場でごちそうになった。

酒場は、前回訪れた時にくらべ活気を取り戻していたが、やはりあちこちのテーブルで、異様な雰囲気で話している者たちもいる。

傭兵たちは、マクシスや博影を誘い、娼館に繰り出そうと誘ってきたが、フェビアンや、システィナ・ルーナの雰囲気を読み取り、2人は断念した。

宿に戻り、マクシス、フェビアン、ファビと博影、システィナ、ルーナ、チェル…で別れ部屋に入る。


博影達の部屋は大きく、ベッドが四つある。博影は、部屋着に着替え…


「シス、ルーナ、チェルお休み…」


博影はそう言うと、布団に入りすぐに目を閉じる。すると…


ルーナが、博影のベッドに腰かけ、博影に顔を近づけてきた。


「あの…お休みのキスを…」


精一杯頑張っているルーナが愛おしく思え、しっかり抱きしめて…長くキスをする。


「おやすみなさい」


ルーナは、満面の笑みを浮かべ、ベッドに戻った。システィナは、博影の方を見ず着替えて寝る準備をしている。


「シス、お休みのキスは?」


博影が、ベッドの中から声をかける。


シスは、しばらく振り向かなかったが…博影の傍にゆっくり近寄り…


「博影…私たちが来て、良かったか?」


と、目を合わせずに聞いてきた。

システィナは、今回の件に同行を許さなかった博影の気持ちが、いまだに引っかかっていた。


「私は、剣を持ち…博影の傍に…供に立てるか?」


システィナは、博影の胸元に顔を埋めた。


「シス…まだ心配な気持ちに変わりはない。でも、今回、来てくれて助かった、ありがとう」


博影は、システィナの髪をなでた。


システィナは思う。


…今はこの言葉でも嬉しい…


システィナは、博影の背中に両手を回し、しっかりと抱き着きキスをした。




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