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第13話 磔のマリナ 5

異世界召喚 108日目


イシュ王都を出発し、11日目




日が傾いてきた…

夕日には、まだ遠いが、それでも、森の中は徐々に暗くなりつつあった。



「さがせ~まだ遠くには行っていないはずだ!」


イガルは、声をからし叫ぶ。


「隊長、このままでは黒騎士を取り逃がすことになりかねません」


ミヒャルに付き添う3人の騎士の一人が、悔しさを滲ませる。


…たしかに、このままでは…


「先ほどの場所に戻り、やつの跡を探すしかない」


ミヒャルは、騎兵たちで踏み荒らされた草地を戻る。チェルが、先行する2騎を襲った場所まで戻る。

ここの草地は、争った為草が倒れ、大きな窪地のようになっている。


「先行した騎兵たちは、黒騎士の進んだ後を追っていたはず…周りに人の通った跡がないか、さがせ!」


ミヒャルは、3人の騎士に命じ、負傷している体で自らも痕跡を探す。


「隊長、ここに!」


一人の騎士が、声を上げた。


…あの獣…かなり頭が良い…


いや、獣として敵を、追跡者をまく常套手段か…


チェルは、手足を噛み潰した騎士を引きずっていく際に、周りを回り、草を倒し窪地を大きくし、血痕を多量に残した。

そして、その多量の血痕に追っ手が目を奪われ、引きずった跡…血痕の跡を追わせるように仕向けていた。


その為、中央の森へ続く僅かな人の通った跡は気がつきにくい。ミヒャル以下、3人の騎士は、その黒騎士が通ったと思われる跡を、踏み潰さないように、消さないように注意しながら追跡した。


森の中央から、少し左へそれた付近に跡が続いている。森の中へ、藪のなかへ入ると…僅かに木の小枝が折れている。


「ここだな」


ミヒャルは確信した。


…ピィー…ピィー…


部下に笛を吹かせ、全員を集合させる。騎士60人全員を、2m間隔で横一列に並ばせ、剣で藪をはらいながら捜索させる。


黒騎士は、チェルの方へ注意が向いている間は、静かに…森の奥へ奥へと入っていった。


しかし、ミヒャルが自分の通った跡を追跡し、全員を集め、森の中を捜索しだしてからは動けないでいた。


「くっ、行けると思ったが、あの守備隊長…だったか、やるな」


追っ手は、約60人…魔法陣で騎士とやりあい、魔法陣で川を濁流に変えた。

半数近くの追っ手を葬ったが、特に長い間、魔法陣で川を濁流に変えたことは、かなりの魔力を使い黒騎士は疲労し、魔力は底をつきかけていた。


黒騎士は、僅かに移動しながら…周りに燃える水の入った樽を置いていく。

剣で、樽を刺し黒い水を溢れ出させながら…10個ほど樽を置く。

黒騎士の周りは、黒い水があふれ、黒い水溜りが出来た。

術袋から火種を取り出した。約200m程まで、追っ手は近づいてきた。


後ろへ後ずさり、黒い水溜りから足元から離れたところで、火種を水溜りの中へ…放り投げた。


ボゥゥ~


黒騎士の眼前20m程は、瞬く間に火の海となった。そして、魔法陣を出現させ眼前に立てる。ゆっくりと回転させ、魔法陣に空気を吸い込ませ、勢いよく風を炎に向けて吐き続けた。

炎は、追っ手の騎士達へ向け広がっていく。


騎士達は、いきなり炎が立ち上がり、その炎が、自分達へ向かってきたことで一瞬パニックに陥りそうになったが…


「落ち着け、聖力を高め甲冑へ注げ。あの程度の炎を抜けることなど、造作もないはずだ」


ミヒャルの一声で我に返り、全員、炎をものともせず進んでいく。


しかし、その騎士達へ、次々と矢が放たれた。騎士は聖力を高め甲冑へ注いでいるため、矢は、騎士を射抜くことは出来ない。

しかし、甲冑に深々と刺さり騎士を絶命させ…叉は、戦闘不能に貶めた。


「黒騎士がいたぞ。恐れるな、黒騎士を打てー」


イガルが、絶叫する。

矢で数人が討ち取られたが、50人以上の騎士が炎の壁を通り抜け、剣を抜き黒騎士に襲い掛かった。

黒騎士は、魔法陣を足元へ出現させ、騎士を一人、叉一人と真っ二つにしていく。


そして、藪に身を潜め伺っていたチェルは、背中を向けている騎士を狙い、首を、肩を、噛み潰していく。


しかし、黒騎士の魔力は、底を尽きかけていた。

魔法陣の淡い光が、暗くなっていき…魔法陣も小さくなっていく。

大盾で防御し、そのまま押し進んでくる騎士に対し、大盾へ黒剣を振るっても、もはや剣を振るう力も弱くなり‥大盾を削ることしか出来なくなりつつあった。


黒騎士が、肩へ剣を打ち下ろされ、ぐらつき片膝をついた。

騎士達は、四方から大盾で黒騎士を押し付け、大盾で挟み込み体力を奪う。

そして、すっと2m程後方へ引くと、間から剣を持つ騎士が躍り出て、博影の体へ剣を振るう。何度も繰り返される。


黒騎士は…


薄く魔法陣を出現させたまま、地面に突っ伏した。


その様子を見たチェルは、黒騎士を囲む騎士の頭を飛び越え、地面にうつ伏せに倒れている黒騎士の下へ行くと、覆いかぶさり四足を踏ん張り、黒騎士を守り騎士達を威圧する。


「獣といえど良くやった! だが、貴様もここまでよ!」


四方から騎士達が、チェルの体めがけ剣を降りおろす。

チェルの体に剣は刺さらない。しかし体は衝撃でダメージを受けていく。


チェルは、目の前の騎士に飛び掛かり右肩に噛み付く。しかし、噛み潰そうとしたとき、周りの騎士がチェルの体に剣を振り下ろす。チェルの体に傷はつかないが、体は地面に叩き伏せられた。

そして、チェルが博影から少しでも離れると、騎士達は、黒騎士に止めをさそうと剣を振るう。


黒騎士の首が取れれば…この騎士達の名声は、モスコーフ帝国内外に轟くだろう。


…ガァァー…


チェルは、大きく吼えると、黒騎士の体の上に覆いかぶさる。四足で踏ん張り騎士達を威圧する。大きく振りかぶった騎士達の剣が、チェルに振り下ろされた。


…ガゥ、ガァァー…


どんなに吼えようと、もはや勝負は決した。


かろうじて光が薄く、小さい魔法陣は出現しているが、地面に伏し、意識のない黒騎士…甲冑の隙間より血があふれ、周りを血の海としつつあった。


チェルも叉、魔力が尽き掛けて来た。魔力が小さくなれば、体の防御が低下し…騎士達の剣が、チェルの黒い体を削りだす。


魔物といえど…赤い血が流れる…滴り落ちていき…血の海をさらに広げていく…



…ニンゲン…ドモメ…


…ワレガ…ケンヲ…モテタナラ…シンゾウヲ…クビヲ……キリサイテ…ヤレルノニ…


チェルは、怒りに打ち震える…この最後の時に思う。


…人間共を殺してやりたい…引き裂いてやりたい…と、この世に…生きとし生ける人間をすべて…噛み潰してやりたい…


力尽きてきた…

黒騎士に覆いかぶさり四足で踏ん張っていたが…剣を打ち下ろされるたびに、足が震え…博影の上に伏した。


しかし、騎士達の剣は、名誉と、怒りと、恐れが交じり合い…終わることなく、さらに強く、強く振り下ろされていく…



…モハヤ…ココマデカ…


チェルは、黒騎士の頭の横に自分の頭を寄せた。

赤く…赤く…怒りに、憎悪に震えていた赤い目からは、赤い血が…涙がこぼれ落ちていく…



…ヒロカゲ…タスケタイ…オマエダケハ…タスケタイ…


オマエガ…シヌト…サヤ…ハ…カナシム…ダロウ…


…ワレノ…イノチヲ…タスケタ…カリヲ…カエセヌママ…


憤怒の…復讐の気持ちから…博影(黒騎士)、沙耶への気持ちが、チェルの心をしめたとき…


チェルの首筋に、小さな魔法陣が浮かび上がった。


そして、博影の血…チェルの血…で出来た血溜まりに浸かっていた黒い術袋から…

大きな、人の頭ほどもある魔石が出てきた。

魔石は、ハラハラと血の海へ崩れて行く。血の海から黒いもやが立ち上る。

そして、博影とチェルの体を覆っていった。


魔石が、まるで博影とチェルの血を吸って黒いもやをあふれさせたように…


「なんだこれは?」


急に黒騎士の周囲から、黒いもやがあふれ出してきた。騎士達は、少し後ずさり大盾を構え黒騎士を取り囲む。


黒いもやが、徐々にうすくなってきた…すると、そこに人が立っているようだ。


「まさか、黒騎士か? もはや、立つ力さえ残っていないはず!」


大盾を構える騎士達の後陣の騎士達は、剣を構え聖力を高めた。


もやが少しづつ…消えていく…


そこには、全裸の浅黒い少女が立っていた。


少女の背中、肩甲骨の傍からは2本の触手のようなものが出ている。

臀部からは、黒い尻尾が生えている。


「あの触手…尻尾…まさか、獣が変化した…魔物…」


ミヒャルは思った…まさか、これが古の記述にある魔人か…?

あの黒い獣は、豹かなにかの類かと思っていたが、魔物だったのか…


しかし、その浅黒い少女の足元には黒騎士が微動だにせず伏している。

騎士としての名誉は、すぐ手の届くところにあるのだ。


一瞬、動揺した騎士達であったが、大盾から剣へ持ち替え、躊躇なく少女へ向かっていった。



チェルは、気を失いそうになっていた。

黒いもやに覆われ、もやがはれる。

気がしっかりしてくると、自分が二本足で立ち、両手があることが分かった。


すると、まわりから様子を見ていた騎士達が、剣を振りかざし向かってきた。

チェルは、足元の博影の黒剣を取ると…

向かってくる騎士達をひきつけ…

剣を真横に払いながら、くるっと一回転した。



ブシャァァァァッ…



向かってきていた騎士6人は、胴から真っ二つにされ血しぶきをあげながら肉となり地面に転がった。

チェルの足元に淡く光っていた魔法陣が、まるでチェルの意思と繋がっているかのように強く光だし、魔法陣が大きく広がった。


目の前で異様なことが起こっている…

その事は理解している騎士達だったが、だからといって、ここまで追い詰めた目の前の黒騎士を捨て置くことは出来ない。


すぐに浅黒い少女へ、騎士達が剣を振りかざし向かってきた。

少女は…その騎士達を、真っ二つにする。

魔法陣が、さらに大きく広がる。その直径、およそ150m…


少女は、黒剣を右手で持ち、次々と騎士へ襲い掛かった。その速さは、とても人間の速さではない。



「…魔人…悪魔…」


ミヒャルは、逃げ出した。

隊長が逃げ出した…追っ手は、総崩れとなった。

騎士達は、それぞれ逃げ出す。しかし、目の前を炎が、藪が邪魔をする。


黒い少女は、一人、一人と騎士の体を切り裂いていった。




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