表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/301

第12話 磔のマリナ 4

異世界召喚 108日目


イシュ王都を出発し、11日目





川幅25m…ドウイ川やティザ川に比べると、小さな川である。

その川へ、騎兵が一斉に入る。

川の中ほど約15m程は、馬の足が川底につかないが、川岸から7~8m程は馬の足が川底につく。

あっという間に、先頭の騎兵が川の中ほどを過ぎたとき…


黒騎士(博影)は、川の中央付近に魔法陣を出現させた。

そして、川底で斜めに魔法陣を位置させ、ゆっくりと回転させ始める。徐々にその回転が速くなってくると…

魔法陣は、上流の川の水を勢いよく吸い込み、その勢いを何倍にも増大させ下流へ押し出した。


水面に渦が出来始めた。その渦に渡河している騎兵が徐々に引き込まれていく。


「なんだ? 川の流れが…流れが速くなってきている?」


馬が、騎士が慌て始める。


「なんだ? なにが起こっているのだ?」


イガルは、渡河していた騎兵達が進まなくなり、徐々に下流へ流されていく…その理由が理解できなかった。


黒騎士(博影)は、さらに気力を集中させ魔法陣へ魔力をそそぎ込む。直径5m程だった魔方陣を…直径20mに拡大させ、全力で魔法陣を回転させる。


すると、川の中央に出来ていた渦は、ほぼ川全体に広がり、川底の土砂を…川岸の土をえぐり飲み込んでいく。

上流から、まるで滝から落ちる水のような勢いで流れはじめ…魔法陣から下の下流では、土を含む黒い濁流となって、もの凄い勢いで川がうねりながら流れていく。

川に馬の腹あたりまで浸かっていた騎兵は、騎馬ごと渦に飲み込まれ沈んでいく。

急ぎ、岸へ上がろうとしていた騎兵は、川岸の土ごと…渦へ持っていかれた。


約40騎…悲鳴を…泣き声を上げつつ…人も馬も濁流の中へ消えていった。


「ばかな! やつは、黒騎士は川を操れるのか?」


そんな人間など聞いたこともない。魔物でも…もし、出来る者がいるとするならば、それこそ、伝説の竜ぐらいのものであろう。


ギュラー砦攻防戦での100人切りや、火計による殲滅などの噂は伝わってきていたが、

ブスタ大平原での撤退戦…ティザ川での魔法陣を使った濁流によるルピア騎兵隊、モスコーフ騎兵隊の殲滅の噂はまだ伝わっていなかった。

イガルは、対岸に立つ黒騎士を…濁流を見つめたまま、立ち尽くした。


負傷した右腕の応急処置をしていた騎士ミヒャルは、濁流に多くの騎兵が飲み込まれていく瞬間を見ていた。


…あの、魔法陣の力か…マリナのとどめに行かせた騎兵は帰ってきていない…それなのに、このまま黒騎士を取り逃がすようなことがあっては…


「イガル、上流より半数の騎兵をまわさせろ」


立ち上がり、急ぎイガルに指示を出した。

はっと、我に返ったイガルは…


「川の上流へ向かい、対岸へ渡河せよ」


30騎の騎兵は、川岸に沿って上流へ向かった。しかし、かなり上流まで行かなければ渡河出来ないであろう。


博影は、魔法陣へ魔力を注ぎ続けていた。


…今止めれば、上流へ向かった騎兵は川を早めに渡河出来る。せめて、上流へ向かった騎兵が見えなくなるくらいまでは…


約半時、魔法陣へ魔力を注ぎ濁流を維持させ、右手で構えていた剣を鞘へ収めきびすを返し、草むらへ飛び込み森へ向かう。

草むらに隠され、イガル達からはあっという間に黒騎士の姿は見えなくなった。


しかし、魔法陣を収めたとはいえ、濁流は続いている。


「くっ、まだか…まだ渡れないか!」


黒騎士の姿が見えなくなりしばらくたつ。しかし、川の流れはまだ早い、騎兵は流されてしまうだろう。


……


約半時ほど立ち、流されはするだろうが渡れるほどには落ち着いた。


「全員、渡るぞ!」


イガルが指示したその時…


「イガル殿、あの黒い獣がいます」


一人の騎士が、対岸の草むらを指した。


…あれは…草むらの隙間から、爛々とした目でイガル達を見る黒き獣…


「くっ、まさか…黒騎士は、我らが渡河するのを待ち伏せているのか…」


全軍で渡り、先ほどの濁流がまた出現すれば……我々は、全滅するだろう。

イガルは、2騎…先行させる…2騎は渡河しゆっくり草むらへ近づく…


「イガル殿、黒騎士はいません」


「くそ、時間を稼がれたか! お前らは、先に追え!」


先行した2騎に命じ、イガル達約30騎も急ぎ川へ進んだ。



草むらより敵に見つかるようにして、敵をうかがうようにチェルに命じ、博影は森へ急いでいた。

馬がない今、確実に追っ手に追いつかれる。追っ手は、約60騎。とても草原で相手は出来ない。叉、魔力をかなり使った博影では、いかに、チェルの援護があろうとも、騎兵の突撃が使えない、森の中でさえも60人の騎士を相手にすることは難しいことだった。


博影は、なんとか時間を稼ぎ、夜の闇にまぎれて、脱出するしかないと考えていた。


チェルは、博影の後方200mで草むらに潜んでいた。騎兵が2騎近づいてくる…50m程に近づいてきたとき…


草むらから、馬上の騎士に飛び掛った。騎士は、剣でチェルを払ったが、その剣をものともせず、チェルは、騎士の右の肩に噛み付いた。


「ぐうわぁぁー」


騎士の絶叫が響く。しかし、チェルは離さない。強く…強くかみ続け、右肩を潰していく。

そして、その騎士の右肩を潰すと、馬を返し逃げようとしている騎士に背後から飛び掛る。


「ひーっっ」


恐怖で慌てる騎士の首に噛み付く…強く、強く。すると、その隙に右肩を噛み潰された騎士は、味方のいる川へ向かい逃げ出していた。

チェルは追わず、馬から転げ落ち、チェルの前足に押さえられうめき声を上げている騎士の…両膝、両肘を噛み潰す。


「ぎゃぁぁー」


騎士は、たまらず悲鳴を上げる。草原に、悲鳴が響いていく‥

チェルは、気を失ったそ騎士の横腹を噛むと、ぐっと持ち上げ駆け出した。


川を渡りきったイガルは、全員が渡りきるまで待ち黒騎士を追った。

先行させた騎兵が1騎こちらへ向かってきた。真っ赤に血で染まった右肩を抑えている。


「どうした、黒騎士はどこだ?」


「イガル殿、黒騎士は森へ向かったと思われますが姿は見ていません。先に、あの黒い獣が待ち伏せしていました」


騎士の右肩は潰され、血が滴っている。


「分かった、貴公は退却せよ、よしみな森へ向かうぞ!」


手を振り上げ、正面の森へ向かう。森は、左右へ大きく広がっており、その先には山がそびえていた。


…森の奥深くへ入られると厄介だな。どうする…数隊に分け、まずは、捜索の幅を広げるか…


イガルが、正面の森へ進みながら思案していると、右側の森より…


「ぎゃぁぁ~、ひぃぃ~…助けてくれ~」


と、人の声がかすかに聞こえてきた。


…あそこか!…


「全員、右の森へ向かう!」


約30騎、急ぎ右奥の森へ向かう。


右奥の森では…先ほど捕まえた騎士を…チェルが、なぶっていた…


手首を噛み潰す…足首を噛み潰す…


その若いモスコーフ帝国の騎士は、絶望の中にいた。両膝を噛み潰され、逃げることが出来ず…両肘を噛み潰され、剣を振るうことも出来ない…


ただ…この、黒き獣に…体のあちこちを噛み潰され、なぶられる…


と、そこへ上流より渡河してきた騎兵30騎が、悲鳴を聞き駆けつけてきた。


…助かる?…若い騎士に希望が見えた…


チェルは、草むらへ隠れ静かに移動し30騎をやり過ごす。


「大丈夫か、応急処置を!」


半死半生の騎兵に、数人がかりで応急処置を施そうとしていた…時


ガゥガーー


チェルの咆哮が響き渡る。騎馬は身近に獣の咆哮を聞き慌てふためいた。

馬上の騎士は、騎馬を抑える…振り落とされないように…


馬が暴れ1騎、隊より数m外れた。その馬上の騎士を狙い、騎士の背後から首を狙いチェルは飛び掛った。騎士の首に噛み付き、前足のつめを騎士にかけ振り落とされないようにする。

騎馬は、慌てふためき駆け出した。

そして、騎士と獣を振り落とした。


チェルは、すぐに騎士の右肘、左肘を噛み砕き、腰を咥えると、森の奥へ駆け出した。


「ぎゃぁぁ~助けてくれ~」


騎士が、悲鳴をあげ助けを請う。

なんとか、10人の騎士が騎馬を落ち着かせ、悲鳴のする森の奥へ駆け出す。

しかし、木に、藪にさえぎられ剣で払いながら進まなければならなかった。


イガル達もたどり着いた。目の前には、四肢から血を流す半死半生の騎士の応急処置が行われている。

そこへ、森の奥より、悲鳴と絶叫が聞こえてくる。

イガルは、その悲鳴に気後れし指示を出せない。


「イガル殿、われわれも救援に!」


「あぁ、分かった…」


イガルが、救援の指示を出そうとしたとき…


「まて、イガル!」


右腕に大きな負傷をしている守備隊長ミヒャルが、3人の騎兵とともに現れた。


この深手で、川を渡ってきたのか…周りの騎士が、驚く…その執念に…


「イガル、奴は…あの黒い獣は頭がいい。これは、陽動だ。奴の主人、黒騎士から、われわれの眼を背けるためにやっているのだ。

そうでなければ、すぐに止めを刺すはずだ。

救援は、3人だけいかせろ。他の者は、5人1組となり森の中央から、左を探す。足跡や、痕跡に注意を払え!」


5人ずつ、10の小隊を編成し捜索に向かわせる。


「イガル、貴様も行け! 市民の目の前で、マリナを取り逃がし、黒騎士まで取り逃がせば…もはや我らの命はないぞ!」


「はっ」


イガルは慌て、3人の騎士を連れ捜索へ向かった。


…まずい…


守備隊長ミヒャルは、あせっていた。


…後二時ほどで日没だ…




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ