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第9話 磔のマリナ 1


異世界召喚 108日目


イシュ王都を出発し、11日目




「マリナ様…マリナ様…どうか、イリオスの神様。マリナ様をお救い下さい。お願いします…お救い下さい」


少女は、母親の傍らで、マリナと呼ばれる女性の命が救われることを祈る。


女性が縛られた大きな長い丸太が立てられた舞台に、一人の騎士が立った。


「我はイガル・イット。マリナは私の姉である。

我が姉マリナは、聖イリオスの神を信じる余りモスコーフ帝国に反逆を企てた。

我らグリナは、モスコーフ帝国に帰属することを許され、モスコーフ帝国の一員となることを許された。

その恩を忘れ、市民を扇動し反逆を企てるなど、たとえ我が姉といえど許されることではない。

しかし、寛大なる施政者、ニラエ・チャウ伯爵は、マリナ一人の命で事を収め、市民に罪は問わないと仰せられた。

偉大なるモスコーフ帝国、寛大なるチャウ伯爵。みな、心のそこから許しを求めよ」


そう口上を述べると、イガルは剣を抜きマリナの両足を剣で払った。


「んんっ…」


その女性は、気丈にも悲鳴を上げず、小さく呻いただけだった。

マリナの両大腿は、深く切られ血が溢れ出し、白いロングスカートを真っ赤に染めていった。


…あぁ…マリナ様…あぁ…


剣を向けられている民衆のあちらこちらで、嗚咽が聞こえる。


少女は祈る…


真っ青な空に…輝く太陽に…


太陽は、教会の横に立つ、時を知らせる鐘をつるしてある鐘塔の上に差し掛かっていた。

舞台の下では、処刑人が長い処刑用の槍を構えだした。


少女は…祈る…市民は祈る…


すると、空を見上げ祈るその少女の視線の先…鐘塔から、太陽を背に黒い人?が、広場中央に向けて飛び降りた。

飛び降りた黒い人は、まっさかさまに落ちずに、黒いマントをなびかせながら、ゆっくりと広場中央へむけ降りていく。


そして、舞台中央にそびえ立つ大きな丸太に左手をつけたかと思うと、丸太をすべるように下へ降りていく。そして、右手に構えた短剣で、丸太に縛りつかられた女性の手足の縄を切った。


舞台へ着地し、丸太から崩れ落ちるように落ちてきた女性を手で抱え、右手は短剣から黒い剣へ持ち替えた。


その様子を周りの人々は、声も立てず…ただ見入っていた。


…太陽から人が…黒い人が…日食の神、スコル神が?…


太陽を背に、空から現れた黒き人…


市民の数人が…スコル神が現れた…とどよめいていた。


「まさか…黒騎士か…」


舞台を囲む騎士の一人がつぶやいた瞬間、黒騎士は、舞台上にいた3人の処刑人を次々と蹴り飛ばし舞台の下へ落とした。


舞台下で長槍を構えていた処刑人たちは、我に返った。そして、次々に黒騎士に向け槍を突き上げる。しかし、その槍を黒騎士は黒剣で無造作に切り落とされた。


舞台の周りには騎兵が囲んでいた。その外側は騎士が囲んでいた。

騎士たちは、いっせいに舞台に向け駆け出す。騎兵の横をすり抜ける。


その時…


…ガゥガァー…ガゥガァー…


市民で埋め尽くしている通りの裏より、獣の大きな咆哮が聞こえた。まるで、いらだっているかのように…腹をすかせているかのように…

その恐ろしげな咆哮に、市民の一部が崩れるように逃げ出す。


そして…


その咆哮を聞いた騎兵の乗る軍馬は、動揺し声の咆哮から逃げようと慌てて動き出した。

軍馬の横をすり抜けようとしていた騎士の数人は、軍馬に蹴られ重症を負った。

騎士たちは、暴れる軍馬をよけることで精一杯だった。


その隙に黒騎士は、眼前に魔法陣を斜めに出現させると、その魔法陣へ、女性を抱え込んだまま飛び込んだ。まるで、魔法陣から射出されるように2人は青空へ飛び込んでいく。


そして、広場に面している3階建ての屋根に着すると、さらに魔法陣を出現させ、奥の建物の屋根に乗り移っていった。


あっという間に見えなくなった黒騎士とマリナに、処刑の責任者であった城塞都市グリナ・守備隊長、騎士ミヒャル・ウーシと、マリナの弟と名乗った騎士イガル・イットは焦った。

声のあらん限り、騎兵を騎士を兵を怒鳴る。


「追えー、決して逃がすな!」


少女は、跪き、空を仰ぎ神に感謝した。


…イリオスの神様ありがとう…日食の神、スコル神をお遣わしになられたのですね…


少女はいつまでも、太陽に感謝した。



イガルは、馬に乗り黒騎士が屋根伝いに飛んでいった正門の方向へ急ぐ。市民を怒鳴り、道をあけさせ急ぐ。


「くそっ、なぜ黒騎士が…よりによって、マリナの元へ現れるとは…」


…せっかく、騎士に取り立てられたのにマリナを取り逃がしては…


城塞都市グリナの正門が見えてきた。すると、正門傍の右側の建物から…ふわっと、黒騎士が飛び降りてきた。

左脇に、黒いローブでマリナを包み抱え込んでいる。血で赤く染まったスカートが見える。


黒騎士は、正門傍に繋がれている馬を奪い取り、魔法陣を眼前に出現させ矢をつがえ、魔法陣の先に見える正門に向け矢を放った。


その矢は、魔法陣を貫き加速し…正門に向かっていく…


ドガーン…バキッバキッ…


信じられないことにたった一本の矢で、正門の扉は貫かれ、その部分から門は粉々に崩れ落ちた、

空堀を渡す橋も粉々に崩れ落ちた。


黒騎士は、その門へ馬を走らせた。叉、眼前に魔法陣を出現させ、その魔法陣に馬ごと飛び込んだ。黒騎士は、馬と共に正門外の空堀を飛び越えた。


「くっ、やつは化け物か…」


約騎兵50名をつれ追っていたイガルは、壊された正門より飛び出し、空堀を飛び越え遠ざかっていく、黒騎士の後姿に言葉を吐き捨てた。


城壁上の門番に叫ぶ。


「黒騎士の逃げる先を見届けろ」


そして、馬のきびすを返すと…


「これより、西門から外に出る。黒騎士を追撃する。相手は、100人切りの黒騎士だ…名声は思いのままだ

みな、われに続けー!」


イガルは、急ぎに西門に向かった。



…よし、うまくいったな…


このまま、港町ガリア叉はスタンツァに行くと見せかけて東ドウイ川下流に向かい、下流をさかのぼり、川沿いの宿場町ルセにてシス、ルーナをゆっくり待つ。

博影は、そのような算段をしていた…が


早くも城塞都市グリナの東側門より、騎兵数十騎の姿が見えた。


…くっ、対応が早い…


その追っ手は、守備隊長、騎士ミヒャル・ウーシ率いる騎馬30騎だった。イガルが、騎兵50騎を引きつれ正門に向かうと、守備隊長ミヒャルは、自ら50騎従え東門に、残り30期騎は西門へ向かわせた。


騎士と、歩兵は集まった民衆の鎮圧と中央広場から、黒騎士が向かった正門の方向の建物や人を、すべて調べるように指示していた。


しかし、指示もとっさのことだったので、西門へ向かった騎兵は、橋を上げたまま外に出ず西門の内側を警戒していた。


博影は、魔法陣で馬の疲労を回復させ、身体を活性化させると全速で駆けさせた。遠くに見える森を目指す。


博影の乗る馬は、門番や衛兵が都市の見回りように使用する馬で、それに、博影と鞍に横たわるマリナを乗せている。


追っ手の騎士達は軍馬に乗っている。魔法陣で疲労を取り馬の体を活性化しても、軍馬のスピードが若干上回っていた。


森へたどり着く。そのまま森の中へ入っていくと川幅20mほどの小川があった。小川中央まで馬を進めると、博影とマリナは馬を下り、川へ入った。


マリナにかけている黒いローブを取ると…中は…チェルだった。


マリナは、屋根伝いに逃げる際、両大腿を応急手当として止血し、シスとルーナに頼んだ。

大量の血がついたスカートは、脱がせ、ローブの下から見えるように小細工をしていた。


…グルル…


チェルが唸ると、博影達を乗せてきた馬は、驚き、急ぎ川を泳ぎきり森の中へ消えていった。


博影とチェルは、そのまま川の流れに身を任せて…下流へゆっくり流れていく。


100mほど下流へ流れていくと…先ほどの場所へ、ミヒャル率いる追っ手が現れた。騎馬にて川を渡る。どうやら対岸にある馬の足跡を見つけたようだ。


馬の足跡を追い、森へ消えていった。


…これで、しばらく時間を稼げるだろう…


川の流れに身を任せながら、博影は思案していた…


…このまま森に身を隠し、夜の闇に乗じて城塞都市グリナへ戻り、シス達と合流する…しかし、追っ手の対応が早かった…甘く見ると、シスやルーナの身まで危うくなる…

…叉、城の外の方が扇動すると敵の目を外へ向ける事が出来る…


…港町へ行くと見せかける…

最終的には、イシュ国へ向かうと敵が考えれば、東ドウイ川は非常に危険になる。


…かといって、北や南はモスコーフ帝国領、東は海…西に向かうしかないが…


博影とチェルは…川の流れに身をゆだね。森の奥深くへと…入っていった…




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