第5話 宿場町セベリ
異世界召喚 100日目
イシュ王都を出発し、3日目
早朝…
ドウイ川の宿場町パヤを出発した川舟は、ドウイ川を下っていく。そしてしばらくすると、そのドウイ川にティザ川が合流する。
まるで、川幅が大きな湖のようだ。しばらく進むと、今度は、南ドウイ川と東ドウイ川に分かれる。
南ドウイ川へ進めば、公都ルピアへ向かうことになる。船は、東ドウイ川へ進んだ。
20人は、ゆっくり乗れる川舟は、6人と1匹だけをのせ、緩やかに進む。
マクシス将軍、ダペス家の2人の騎士は、船の中央で寝そべりくつろいでいる。
ルーナは、膝の上にチェルの頭を乗せ、頭をなでながら、うつらうつらとしている。
システィナは、船の舳先の右に陣取り、右手を川舟の縁から水面へ伸ばし、時折跳ねる水面に手を濡らし
右手の感触を楽しんでいる。
博影は…
船の後方に寝そべり、目を閉じ…いまだに怒りが収まらないでいた。
「博影さま…博影さま…」
ルーナが、いつの間にか傍により小さな声をかけてきた。
…んっ…
寝ていない博影は、目を開ける。
「…すいません、ついてきてしまって…」
ルーナが、ずっと頭を下げ続ける。
ルーナの頭をなでながら、
「いいよ…とは言えないけど、仕方がない。次どうするか、今後どうするか、安全に事が進むためには…を考えるよ」
ルーナは、おずおずと顔を上げる。その両ほほを、両手でつまみちょっとだけ強く外側にひっぱる。
「なっ、なにゅおー」
と、舌足らずな言葉になった、ルーナの可愛さに思わず少し笑い、ルーナを開放する。
川面に夕日が映える頃、小さな宿場町セベリに着いた。
船頭に宿を紹介してもらい、宿へ向かう。
…キャー…大丈夫か…動かすな…
広場の一角に、数人の人だかりが出来ていた。
どうやら、急に子馬が暴れ、その子馬に人が蹴られたらしい。
博影達は、人だかりに近づくと、そこには、10歳ぐらいの男の子とその子に必死で呼びかける母親がいた。
「テグ、テグ…起きて…誰か…誰か助けてください」
子供を抱きかかえながら、母親が叫ぶ。
「この町には、治癒師はいねえのか、治癒師は!」
「こんな小さな町にいねえよ」
周りの人々が騒ぐ。
「ちょっと通してください、私、治癒師です」
博影は、子供を抱きかかえる母親の元へ駆け寄り
「お母さん、私に子供さんを見せていただいてよいですか?」
「あぁ、お願いします、お願いします」
母親は、子供を抱きしめていた手を緩め、博影にゆだねた。
子供は、口から少し血を流しぐったりしていた。
頭部に大きな損傷はないようだ、どうやら腹部を蹴られたらしい。
術袋から、厚手の毛布を取り出し石畳に敷き、子供を寝せる。
そして、システィナ達を近くに呼び寄せ…
「皆さん、今から子供の治療をします。光を当てます、直接みると目がつぶれますから、直接光を見ないでください」
と言うと、システィナ達に大きな毛布で、子供、母親、博影の周りを囲ませた。急を要しているとはいえ、魔法陣を見せるわけには行かない。
「お母さんは、子供さんの手を握っていてください」
というと…
魔法陣を出現させ、子供の頭から足まで魔法陣を通しスキャンする。その淡い光が、囲む毛布の端々から漏れ、暗くなり始めた周りを淡く照らす。
…内臓破裂…肝臓に損傷が、肋骨も折れているな…
骨折しずれている肋骨を整復し、大出血を起こしている肝臓周りに手を入れる。
肝臓が破裂し、大出血を起こしている。
大出血で、他の臓器へ送る血が少なくなり他の臓器の動きが悪くなっている。
肝臓・血管の修復し、出血し固まりつつある血を溶かし血管へ戻す。
そして、血液を全身へ行きわたらせる。
全身の細胞をしばらく活性化させる…約30分たった。
子供が、ゆっくりと目を覚ました。
「…お母さん…うぁ~ん…」
大声で泣き出す。
その泣き声を聞き、回りの人々の歓声が上がる。
…良かった…良かった…生き返ったぞー、奇跡だ…
博影は、子供の頭をなで
「良かったね、お母さん…これで、子供に栄養のつくものを食べさせてあげてください」
母親の腰のポケットに小金貨を10枚入れる。子供は、けっして栄養の状態が良いとは言えなかった。
母親が戸惑っている間に…毛布等を術袋に収納し、立ち去ろうとすると…
周りの数人に手を引かれ、博影、システィナ、ルーナの三人は、酒場へ連れて行かれた。
酒場で3人を話の魚に、30人ばかりで取り囲み大宴会が始まった。
大人数で目立つわけには行かない。
マクシス将軍と、ダペス家の騎士2人とチェルは、うまく、他人の振りをして立ち去れたらしい。
酒場に集まった人々は、フードを脱いだ博影の若さに驚き、システィナと、ルーナの美貌に驚嘆していた。
余りにも、システィナとルーナの周りに人だかりが出来るので、博影もちょっと嫉妬し、まだ飲み足りなさそうな二人を笑顔で追いたて、一時間ほどで酒場を後にした。
少し、大変な目にあったが、夕食も食べれたし良いだろう。
宿へ着き、サウナで汗を流し部屋へ戻る。
部屋は二部屋とってあり、マクシス将軍、ダペス家騎士2人の部屋…
博影、システィナ、ルーナ、チェルの部屋…
と、両隣で取ってあった。
マクシス将軍が、宿に残っていた。
博影達の部屋に集まる。
「2人には、町の酒場へ情報収集に行ってもらった。どんな、ささいな情報でも大切であるからな」
水を飲みながら、マクシスが今後の予定を確認する。
酒好きの将軍も、酒を飲みたいところだが、案内役・護衛役として一瞬たりとも気を抜かない所存なのだろう。
…トントン…
扉をノックする音が響く。
…夜更けに…誰が…
一瞬、みなに緊張が走る。
…トン、トン…
夜分に申し訳ない。治癒師の方に話を聞いてもらいたくて参りました…
「どうぞ」
博影が扉に向かい声をかける。
扉をあけて入ってきた者は、薄い緑色のローブを羽織った…体格ががっしりした女性だった。20歳前に見えた。
…女性は、部屋の中に、4人も人がいたことに、若干驚いた様子だった…
椅子へ座るように促し…水をすすめる。
「で、ご用件は?」
ルーナが、切り出した。
「治療を、治療をお願いしたい!」
体格の良い女性は、まるで堰を切ったように話し出した。
「兄達の、姉の治療をお願いしたい。病はおそらく…コロリ病…」
女性は、最後の言葉を苦しげに述べる。
「…コロリ…干からび病か…それは、難しいな」
マクシス将軍が、つぶやく。
「親父殿、コロリ病とは?」
博影がたずねる。
「コロリ病とは…その名の通り、コロリと死んでしまうのでつけられた病だ。干からび病とも言う。
腹痛はないのに、白い水のような激しい下痢が続き、体が干からび、死んでいくのだ。
コロリ病にかかったものは、町や村から出す。なぜなら、周りのものにも移っていき、町や村が全滅する恐れがある、怖い病気の一つだ。
ほぼ、8割から9割のものは死ぬ」
マクシス将軍は、気の毒そうな目で女性を見る。
…コロリ病…もしかして、コレラか?…
と、博影が思案していると…
女性は、博影の足元へ崩れるようにうつ伏した。
「どうか、どうか、どうかお願いします。お金は少ししかありませんが、私に出来ることは何でもします
どうか…どうか、私の命と引き換えに…お願いします」
頭を、額を博影の靴へつけ、両手で博影の足先を掴み…女性は懇願した…何度も…
「わかりました、頭を上げてください。治療できるかどうかはわかりませんが、努力してみます。それで兄・姉はどこに?」
博影が、席を立つ。
「なっ、まて博影。コロリ病だぞ、いかなお前でも無理だ。お前が、コロリ病にかかってしまう、行かせるわけにはいかない」
システィナが、博影の左腕を握って離さない。
「システィナ、大丈夫だ。おそらく、俺が知っている病気と同じ病気ではないかと思う。
それなら、口からうつる病気だと思う。アルコール消毒を行えば、いい」
博影は、自分の左腕を握る。システィナの右手に、右手を合わせ…ゆっくり、ほどいた。
「ただ、もしもの時があるので、俺一人で行ってくる」
博影は、壁にかけてあるローブや術袋を着け、身支度をした。
「わかった、私も行く。博影が、うつらないと自信があるなら、私がついていっても良いだろう。ルーナや、親父殿は待っていて下さい」
システィナも、身支度を始めた。
「わかった、二人とも気をつけるのだぞ」
マクシス将軍の一言で決まった。
「それで、ご兄弟はどこに?」
マクシス将軍が尋ねる。
「この宿場町から、北へ3キロ程の森の中にいます」
女性は、立ち上がりながら答えた。




