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第3話 側近の間 黒いミイラ

異世界召喚 96日目


イシュ王都へ着き、2日目





朝…


ダペス邸、中庭から聞こえる剣戟の音で目が覚めた。

傍らに眠る沙耶を起こさないように、ベッドから出て中庭へ降りる。


すると、中庭では…練習用の剣を使い、カローイ達が修練を行っていた。相手は、マクシス将軍…


「おはようございます」


…おはよう…おはようございます…


みな、手を休めずに挨拶を返してくる。


「カローイ、マクシス将軍相手に修練か? 敵と修練、まずいんじゃないか?」


博影は、苦笑いしながら訪ねた。

カローイが、剣を納め、マクシス将軍へ一礼しこちらへ来る。


「それとこれとは別だ。敵の一流と修練できる機会なぞないからな。宿代と思えば、将軍も貸し借りなしで戦場では戦えるだろう?」


「カローイ、一流? 超一流と言ってほしいな」


剣を振るう手を休めず、将軍がカローイへ被せる。


「博影殿も、一つ交えるか?」


ダペス家騎士の振り下ろしてきた剣を、剣ごと下から跳ね上げ空中へ飛ばす。


「博影で結構ですよ、親父殿」


肩をすくめる博影に…


「親父殿?…そうだな、マクシス将軍と呼ぶわけにはいかないからな」


上半身裸になり、汗を拭いていたカローイが同調する。


「どう呼ばれてもかまわんよ」


将軍も、ダペス家騎士達との修練を終わりにし、上半身裸になり汗を拭き出す。


侍女から、朝食の準備が整ったと声がかかった。剣戟の音で起きてきた全員で、朝食を取りながらその日の打ち合わせを行う。


明日、早朝出発の、船の手配を行い食料品等の準備をするもの達…

カローイは、マクシス将軍と城塞都市グリナへの道程の確認、連絡方法の確認をする。


そして、イシュ国王へ面会を求める博影、ベレッタ達と別れ、それぞれ動く。


博影達は、朝食が済んだばかりのイシュ国王へ面会をお願いし通された。


そこで、博影は、城地下の側近の間への入室の許可を貰い、その後、牢に入るティーフィ達の身元引き受けを行う許可を頂いた。


地下、側近の間の扉を開け中に入る。博影、ベレッタ、沙耶、システィナ、ルーナ、チェル…


中に入ると、柱と床が所々ぼんやりと明るい…その淡くひかり、室内を僅かに照らす中を全員で進み、奥の台座の傍へ近寄る。


…側近の間…中興の祖、第6代イシュ国王の側近が使っていた物を収めているという台座がある部屋…

叉は、魂が眠る間か…


システィナは台座を指で触れながら…思う。


今は、名も伝わっていない者…異世界から召還された者…治癒師として、大きな力がありイシュ国王を助けた者…


突然、異なる世界に連れてこられ…家族もなく…一人きり…その者は、

どのような気持ちで生きたのだろう…

なにを考え、進んでいったのだろう…


生きる意味は、なんだったのだろう…


システィナは、無意識に台座に触れた指を這わせていく。



様々な人と出会い、この世界に縁を結んでしまった博影は、自分なりのめどがつくまでは、この世界にいようと考えている。

しかし、この世界の敗者のありようを見て…


沙耶だけでも前世界に帰したいと焦りが募っていた。

その為、この側近の間を再度調べたいと国王へ願い出た。


台座へ、魔力を送ってみる……何も変化はない。


台座を中心として、魔法陣を起動してみた…


すると…柱に刻まれている小さな魔法陣が、少しずつ、部屋の明かりが変わらない程度で、ほんの少し淡く光りだした。

…しばらく、魔法陣を展開させておく…


………


「何も変わらないか…」


そうつぶやいた時…台座の奥から、僅かな力を感じた…


台座の上部から、黒いもやがにじみ出てきる。台座の上部を、僅かに覆いだした。

すると、まるで水面下から浮いてきたように…何かが浮かび上がってきた。


その様子に、みなの視線が集まる。


「えっ…なに、これ…」


ベレッタが、言葉を失う…数歩後ろに下がる。


「…ミイラ?…」


沙耶は、博影の腕をしっかりと握った。


僅かに、黒いもやが引いたそこには、黒く…まるで、炭と化しているような小柄な人間のミイラがあった。


その…ミイラの目に吸い寄せられるように、システィナは目線を奪われ外せない。


システィナは、目の前が真っ暗になった…

そして、気を失いミイラの腹部へ、倒れこんだ…




…゛起きなさい…目を覚ましなさい…あなたの名前は゛…


システィナは、ぼんやりと…

まるで、頭をゆっくりゆすぶられているような感覚の中、目を覚ます。


ここは…周りは真っ暗で、なにも見えない…


…゛あなたの名前は゛…


女性の声が聞こえる…頭の中に響く…

私の名は、システィナ…システィナ・ユング…

力なく、無造作に答えた。


…゛システィナ…よい名前ね…あなたの希望はなに゛…


…希望…か…


システィナは、幼少の頃からの記憶を…

まるで、絵が頭の中を過ぎ去っていくように…

思い出していた…


…あぁ、そんな家に住んでいた…


…あぁ、周りにそのような人々がいた…


…そんなことで、泣いたことがあった…楽しかったことがあった…


…お兄様…優しい人だった…


…お父様…厳しい人だった…


…お母様…私は、怒られてばかりだった…



みんな死んでしまった…一人生き残った…


…あれは、幸せだった?……あれが、幸せだった…


…あの幸せを、もう一度感じたくて、

ユング家を再興したかった…


だが、もう家の再興はできない…

私には……なにもない


…゛あなたには、なにもない?…なにもない?゛…



…なにもない…でも…

生きてみたいと、思ったこともある…生きる理由を探そうと思ったこともある…

共に、生きてみたいと思った人もいる…


…゛生きていける?゛…


…いや……

…生きていけない…剣を握れない私では…共に生きていけない…


システィナのほほを、涙がつたう。



…゛これも…縁…ね

…王都の最後の守りとして…残していた想い…

…あなたと、結ぶことも縁…

…いえ…はじめから、決まっていた…ことだったの…かしら゛…


…イシュ王の末裔よ…ごめんなさい

…一人の女の子に添うこと…私らしいわ゛…



「シス。シス、どうした!起きろ!」


博影は、システィナをミイラから離そうと、起こそうとしたが、システィナの体は動かない。全員で動かそうとしたが…動かない。


黒い霧が、濃くなっていく。

そして、黒いミイラが…風に吹かれて落ちていく花びらのように…はらはらと、崩れていく。

その崩れた黒い花びらは、システィナの右腕に集まっていく。


そして、黒い霧が溶けるように、薄らいでいくと…


そこには、システィナの右腕には…黒い右腕が再生されていた。


「シス、シスッ」


博影は、起動したままの魔方陣の力を増大させ、システィナの体へ力を送り込んだ。


すると、再生された黒い右腕が、指先より、す~っとシスティナと同じ肌の色になっていく。


システィナを、起こす…体が動かせるようになっていた。


システィナを背負い、側近の間から急ぎ退出した。



ダペス邸…


「んんっ…っ」


システィナが、目覚めた。側近の間から、二時間経っていた。


「シス、大丈夫?」


沙耶が、声をかける。


ベッドから、半身起こし…


「沙耶、ここは…ダペス邸か…うっ…少し気分が悪い…」


システィナは、ベッドを中心として魔法陣が展開されていることに気づいた。


「良かった、目が覚めた…」


博影は、魔法陣を収めた。

約二時間。ほぼ最大力で魔法陣を出現させシスティナの身体を活性化させていたが、博影も限界だった。


システィナは、右腕に忘れていた重さ…感覚がある事に気づいた。


「これは?…」


疲れきっている博影に変わり、ベレッタが事の経緯を説明する。


「そうか…みな、心配かけてすまなかった…」


頭を下げ、周りを見渡す。沙耶やティアナは、涙ぐんでいた。


「みんな、ありがとう」


自然と、言葉が出た。


右腕を、指を動かしてみる。少し違和感はあるが、動きにズレはなく問題ない。


「シスは、台座のミイラの上に倒れこんで、しばらく気を失っていたのよ」


ベレッタが、説明する。


「そうか…夢を見ていた…昔の夢を…女性の声が聞こえた…なにか言っていた…」


「女性の声? もしかして、ミイラの声だったのかしら? シスの右腕を再生するなんて、あのミイラは、言い伝え通り…第6代イシュ国王の側近で、異世界から召喚された方だったと言う事?…」




時は、日が傾いてきていた。

博影が、全力で魔法陣を出現させ、動けない状態となった為、翌朝の出発は取りやめ、2日後早朝の出発に変更した。




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