第2話 マクシス将軍の願い
異世界召喚 93日目
公都ルピア陥落より、14日目
公都ルピアを出発し、3日目
都市ゼンダを後にし、急ぎスポイツアに向かう。
スポイツアには夕刻つき、急ぎ守備隊長へ報告に行く。明日から、より見廻りを強固にしてくれることだろう。
撹乱部隊隊長のギャイ他、数名を逃したが、博影の顔をしっかり見られているわけではないので、よいだろう。
守備隊長から、宿屋を紹介してもらい入る。裏の酒場で軽く食事を取り、サウナで汗を流し部屋へ戻る。
「シス、明日も早いからもう寝ようか…」
寝間着に着替え、ベッドに入る。システィナも着替え、隣のベッドに入った。
都市ゼンダから、システィナは無口になった。なにか、考えているように見える。
「シス、こっちにこないの? おいで」
傍らの毛布をめくり、シスを呼ぶ。シスは、素直に博影の毛布に入ってきた。
「シス…どうかした? なにか悩みでもあった?」
シスを引き寄せ、髪をなでる。
「うっ…うっ…」
システィナが、小さく嗚咽を漏らしだした。システィナの顔を、自分の胸へ軽く押し付け髪をなでる。
「シス。どうかした?」
「…私は、博影の役には立たないな…」
システィナは、顔を上げ…無理に博影に微笑んだ。
「片腕をなくした私は…どのように生きていけば…と、ギューラー砦では考えていた。
剣しか生きるすべを知らない私が………考えたが、私にはやはり剣しかない。博影の背中を守りたい。
左手で、それなりの剣捌きを考え、取り組んできた。
それなりに、やれる自身があったのだが、相手が、手練れのものだと…
博影の背中を守れない…それどころか、助けてもらう羽目になった…」
システィナが、左手でしっかりと博影を抱きしめ…そして、ベッドから起き上がった。
「博影、すまない。今夜は、隣のベッドで寝る…」
システィナが、ベッドから立とうとした瞬間…博影がベッドへ引き寄せる。そして、軽いキスをした。
「…博影…私に女として生きろと? それは…むごいよ…」
シスは、左手で博影を拒否する。
「シス…剣で生きてきた…君の気持ちは、違う世界で生きてきた俺にはわからない。ただ…」
強くシスティナを抱き寄せる。
「シスは、俺の仲間だ。剣を教えてくれるし、モスコーフ帝国との戦いでは、シスの傭兵時代の経験が、きっと活かされるときがあるだろう。
今の俺に、横にシスがいないなんて想像できないよ」
「…ありがとう…」
シスは…悩みが解決しているわけではないが、これ以上博影を困らせたくないと思い、そのまま眠りにつくことにした。
翌早朝…
日の出とともに、二人はスポイツアを出発する。
魔法陣で、馬の疲れを取りつつ急ぐ。
都市ハーザを昼過ぎに通過し、夕方、宿場町メートに到着した。
明日は、王都イシュへ到着できるだろう。
宿場町メートでは、口数の少なくなったシスティナに、気分転換に食事の際、お酒を勧めた。
システィナはワインが好きだが、決して強いほうではない。
すすめられるままに飲み、早々につぶれる。
疲れもたまってきているのだろう、早々に就寝とした。
翌日…
日の落ちる前に、王都イシュについた。
貴族エリアに入ると、カローイが待っており、ダペス邸に行く前にイシュ国王へ報告に行く。
イシュ国王、王妃よりねぎらいの言葉があり、ルピア戦での戦働きに対し望みをたずねられた。
元ルピアの王子、王妃と騎士二人を引き取りたい…との願いを伝え了承された。
役人への報告も含め、3時ほどかかった。貴族エリア・ダペス邸に戻る。
入り口で、沙耶、ティアナの抱擁を貰い。お風呂に入り食事となった。
カローイ、ベレッタ、ダペス家騎士10人。博影、沙耶、システィナ、ルーナ、ティアナの17人で食卓を囲む。
話は当然、ブスタ大平原の話や、公都ルピアでの戦の話になった。
博影としては、黒騎士として多くの敵を殺したのだから、あまり話したくないことではあった。
それに、今回の戦は、不義理を働き戦を仕掛けてきたルピア公国の征伐ではあったが、やはりモスコーフ帝国が裏におり、モスコーフ帝国軍との戦いでもあつた。
そして、ギュラー砦戦に続き、ブスタ平原でも公都ルピアでも、黒騎士としての博影の魔法陣の力や、策が決めてとなり、モスコーフ帝国軍を殲滅し、公都ルピアを占拠した、
ここ数年、モスコーフ帝国に辛酸を舐めさせられてきたイシュ国の人々としては、気分が高揚するのは致し方ないところだろう。
トントン
食堂の扉をノックし、侍女がカローイの元へ行く。カローイが立ち上がり…
「博影、急ぎのお客さんがこられたそうだ」
カローイ、ベレッタ、博影で応接間に向かう。
客人は、巡礼者の装いをしている。よい体格をした男性だった。
男性は、カローイ達に深々と頭を下げた。
「どうぞ、お座りください」
カローイが男性に促し、みな席に着く。
「で、私と治癒師の博影への御用とは?」
と、カローイは男へ話しつつ…どこかで、見たことがあるな…と感じていた。
「こんな夜分に、門を開けて頂きかたじけない。
私、名前は、クィントス・マクシス。
先だってギュラー砦戦では、貴公らと剣を交えさせて頂いた。その節は、世話になった」
と、再度男が一礼した。
「…なっ? マクシス将軍? 貴様…モスコーフの盾、マクシスだというのか!」
カローイは、立ち上がり剣を抜く。マクシスへ向かい構える。
「カローイ、待って、彼は一人よ。話を聞きましょう」
ベレッタも、剣に思わず手をかけながらカローイを諌める。
「カローイ殿、いつ切ってもらってもかまわん。単身、イシュ王都へ来たからには、生きて出れるとは思っていない。
ただ、騎士の寛大さに免じて、話を聞いてほしい。この通りだ…」
マクシス将軍は、深々と頭を下げ続けた。
博影が間に入る。
「マクシス将軍、頭をお上げ下さい。単身一人乗り込んでこられたということは、モスコーフ帝国に関することではなく、ご自分に関することで参られたのでしょう?」
「黒騎士殿…ありがたい、そのとおりだ」
マクシスは、頭を上げ、博影を見る。目の前で、じっくりみると…本当に少年である…この少年が、あの百人切りをやってのけたとは…誰も信じれないだろう…
黒騎士と呼ばれ、博影は苦笑する。
「なぜ、私が黒騎士だと?」
と、たずねると…
マクシス将軍は、3日前よりイシュ王都へ来たが、イシュ王都内に、黒騎士に関する情報はなかった。変わりに、かなり評判の良い治癒師がいる。
王の病を治し、重い傷病兵の治療も出来る…ダペス家の者…
「これらの情報から、特にダペス家の者…となると、ダペス家のカローイ殿や騎士が我らに囲まれたとき、助けに来た者が黒騎士だった。
特別な力を持つもの…同一人物と見て、間違いないだろう。
それに黒騎士は、よくみても剣の腕は良くなかった。治癒師が、本分なのではないかと…」
「なるほど、さすがモスコーフの盾。ますます、返すわけにはいかないな」
カローイも苦笑する。
マクシスは、話を続ける。
「私には、なくなった妻が残してくれた一人娘がいる。幼少より病弱ではあったが、私にとってかけがえのない娘だ。
その娘が、2年前よりよく疲れ、あまりで歩かなくなり、1年前からは、息切れや、動悸がするようになった。
そして、今では体がほとんど動かせなくなり、部屋から出れなくなった。
………
あの愛くるしい娘がやせ衰え…
もはや長くない…
なんとしても助けたい。黒騎士殿、どうか、どうか、私の娘を助けてほしい。どうか…」
頭を伏したまま、マクシスは頼み続けた。
「わかりました、頭をお上げください。娘さんはなんというお名前ですか?」
博影が、即答したことは、マクシスの予想外であった。半信半疑で、問われたことを答える。
「名前は…ファビ…ファビ・マクシス。12歳だ…良いのか? 敵である私の娘を助けてくれるのか?」
「あなたは敵であるかもしれませんが、娘さんのファビは敵ではないでしょう。問題ないですよ。それと私は、博影といいます。黒騎士より、博影と呼んでください」
「まて博影、罠の可能性もある。黒騎士を呼び出して、罠に嵌める策かもしれん」
カローイは、なおも疑う。だが、カローイも、マクシスの話はほぼ信用できると思っていた。
しかし、多面的に見る場合、さまざまな考えをぶつけた方が物事はうまくいく。
「罠の線もある。しかしまだ二つの戦しか出ていない黒騎士を、モスコーフ帝国が警戒するとも思えない。モスコーフの盾の命と引き換えでは、割りに合わないでしょうね」
ベレッタも意見を述べる。
「で、ファビはどこにいるのですか?」
博影は訪ねる。
「モスコーフ帝国領内、城塞都市グリナにつれてきている」
「な? 国境付近の都市ではないのか? 城塞都市グリナ…たしか、かなりモスコーフ帝国領内に入らなければならないぞ」
カローイが、思わず言葉を荒げた.
「すまないと思う.しかし…しかし,娘はもう、そこから動けないのだ」
マクシス将軍の顔がゆがむ…
「わかりました。こちらも帰ってきたばかりで準備等あります。明日1日ください。すべて終わらせ、明後日朝、出発しましょう」
「いいのか博影?…くっ、本当におまえというやつは‥長生きできんぞ!
‥マクシス将軍、そういうわけだ。今夜は、ここに泊まってくれ。
よる遅くに貴族エリアをうろつかれ、衛兵にでも見つかったら…ことだ。
それに、城塞都市グリナへの道筋や日程など確認したい」
カローイは、博影に先に休め…と応接間を追い出し、カローイ、ベレッタでマクシス将軍から出来るだけ、安全にことが進むよう、いろいろと確認した。




