第3話 囚われのシスティナ 2
博影は治療所に行くというので、ベレッタが砦城壁上から、システィナに案内しながら説明した。
ベレッタに、ギュラー砦戦の結末を聞いたシスティナは、信じられなかった。
しかし、城壁上のどこを歩いても、こげた肉のにおいがする。正面眼前に兵が1人もいないことから、ベレッタの話が真実だと思うしかなかった。
今回の戦で…
6000人を焼き殺した…その重さは、勝者のはずの兵たちの口や体をも重くしていた。
博影も同様に…博影は前世界から人を助ける仕事をしていた。
博影の心が、壊れてしまうのではないかと、ベレッタは心配していた。
戦翌日から、生気なく、黙って治癒師の仕事や戦の後片付けを行っている。
その博影が、戦後2日で唯一
…自分が切ったあの傭兵は? 助けられる? 助けてほしい…
と、感情が揺れ動いた。
1人ではあるけれど、その1人を博影の傍に置くことで、博影の心が癒されるのではないかと、ベレッタは考え、事前に辺境伯と公爵に許可を貰っていた。
システィナの立ち振る舞いから、傭兵をする前は…
と思い、正門城壁上にてシスティナに生い立ちを尋ねたが、システィナは、話したくないと言った。
システィナに、どうするつもりか聞いた。
システィナは、わからない…
と答え、
少なくとも博影に、砦の者に害を及ぼすようなことは決してしない。自分の亡き、両親の名誉に誓ってしない…
と、ベレッタの目を強く見て言った。
ベレッタは、システィナにお願いした。
博影と黒騎士が、同じということは一部の者しか知らない、黙っていてほしい。今後…
この砦の戦のやり方を否定する者も表れるだろう。
100人切りの噂が広まれば…博影は、名をあげたい者達に狙われるだろう。
博影がこの策を立て、叉魔方陣を発動し帝国に打ち勝った…と言われれば、今後も、戦に利用されてしまうだろう。
だから、黒騎士のことは伏せてほしい。
異世界から来た博影を、これ以上、この世界の都合に巻き込みたくない…と…
システィナは、わかった…とだけ、ベレッタに答えた。
その日から、博影とシスティナとの不釣合いな生活が始まった。
朝、昼、夜と2人は食事をともにした。
もちろん、博影があちこち呼ばれシスティナが1人で夕食をとることもあった。
治癒師の仕事が一段落すると、博影は剣の練習や森へ行き魔法陣の練習などしていた。
システィナは、砦の中では付き添っていないが、森へ博影が行くときは、付き添った。
同じ部屋で寝食を共にしたが、2人の間にはほとんど会話はなかった。
3週間たち、ギュラー砦新守備隊が来た。
多くの兵や武器と、多くの新鮮な食料も持ってきた。
その日の夕食は、いつものパン、チーズ、干し肉ではなく、肉、野菜が多く入ったスープだった。
どんなときでも、よい食事はうれしいものだ。
博影の部屋で、2人夕食を取った。
その際、右利きのシスティナは初めて左手でスプーンを使った。
使えるが、時間がかかる。
若干、苛立ちスプーンの動きが粗雑になったとき、システィナのスープ皿が机の上で傾き、中身が少々こぼれ、左手の袖口についた。
右手のない、システィナは袖口がぬぐえない。
博影が席を立ち、布でシスティナの袖口を拭く。テーブルを拭き、席に戻り叉食事をする。
システィナは、スプーンを持てないでいた。
うつむいていた…
涙があふれてきた…
…右腕のない自分には、もはや傭兵は出来ない、戦は出来ない。家を再興することも出来ない。なぜ私は生きているのか…なぜ殺してくれなかったのか…
…なぜ、あの時…家族と死ねなかったのか…
ただ、うつむき…
声なく、涙をあふれさせるシスティナに、博影は、横に寄り添い抱きしめた。
…こんな時に優しくされるのはいやだ…いやだ、いやだ…
しかし、博影に抱きしめられたまま泣き崩れた。
泣きながら、促されるままに食事は終わらせ、ベッドで眠った。
次の日の夜から、システィナは博影のベッドにもぐりこみ、後ろから博影に抱きついて眠るようになった。
男女の関係を求めてるわけではない、ただ…
昔のように人の温もりを感じて、眠りたかったのだ。




