第2話 囚われのシスティナ 1
ギュラー砦前での傭兵対黒騎士の一騎打ち…
聖石の加護を付与された槍と、甲冑に身を包んだシスティナは、眼前の光景をただ見つめるだけだった。
歩兵として参加しているが、ギルドの上位ランクで聖石の加護を持つ武具を持ち、戦では騎馬も扱えるシスティナは、傭騎兵として参加できるレベルではあったが、騎馬を養う金がなかった。
その為、もっぱら、モスコーフ帝国の傭兵として多くの戦場で戦ってきた。
しかし、そのように多くの戦場を経験しているシスティナから見ても、黒騎士の戦いは常軌を逸していた。
無防備で、敵の剣を受け止め相手を切る。
聖石の加護を持つ甲冑を身につけ、かなり格下の相手であれば、敵の剣を受け止め切り返せよう。しかし数人が限度であろう。
だが、相手はギルドに登録する上位ランクの傭兵である。
まるで、素人のような体さばきをする黒騎士の方が、格段に格下である。
叉、いくら甲冑が硬いとはいえ、無防備に剣を受ければ、体は大きなダメージを受ける。
しかし、黒騎士は剣を受け微動だにせず、相手を切り伏せていく。
最初は、野次を飛ばし楽しんでいた傭兵たちも…徐々に押し黙っていった。
黒騎士が片膝をつき、刀を大地に着け、もはや最後…に見えても、傭兵より受けた剣でぐらつくだけで、
次の瞬間に放つ黒い剣で、傭兵は真っ二つにされていく。
…異様だ…
黒い甲冑の隙間からは、黒い霧が滲むようにあふれ出している。
切られた傭兵の体は、黒い霧に溶かされていく。
99人目、システィナは黒騎士の前に立った。
あの怪しげな魔法陣と黒い甲冑にいくらまもられていようと、もはや体力の限界であろう。
これほどの相手を、体力の尽きた時を見計らって討つことに、多少の引け目は感じる…
しかし、これは好機…ここで名声を得れば、御家再興の好機なのだ。
システィナは、槍を持ち全力で駆け出し、渾身の力で、黒騎士の喉下をついた。
貫けない…全力で打ち込んでいるからこそ一呼吸遅れる。
その間に、黒騎士に槍を掴まれ体勢を崩す。
黒騎士の剣が斜め下からまるで、時が一瞬止まったかのように繰り出される。
システィナは、死を覚悟した。
…おとうさん、おかあさん…
黒騎士の剣が一瞬引かれ…システィナは、右腕を切られた。
切られた腕は、地面に落ち黒い霧に蝕まれ溶け出す。残った腕の切り口からは、傷とは異なる激痛が走る。
システィナは、黒騎士へ倒れこみながら無意識に左手で短剣を抜き、黒騎士の首に刃を立てる。
しかし、黒騎士に殴られ、気を失い倒れた。
…ここは…
右腕の痛みで目が覚めた。
…私は、まだ生きているのか…
システィナは、舌を噛まぬように猿轡を嵌められ、牢屋内の壁から伸びる鎖に左手を繋がれていた。
そこへ、白いローブの女性が入ってきた。右腕の治療をする、痛みがすこし引く。
猿轡を外され、パンを食べるよう言われる。
「殺さないのか…今、捕虜など養っている余裕はないだろう」
ギュラー砦は、陥落目前なのだ。なぜ、貴族でもない傭兵を生かし、パンを与えるのか…システィナには理解できなかった。
「そうね、なぜかしら、私にもわからないわ。あなたが黒騎士に聞いて教えてくれない。舌を噛まないなら、猿轡や鎖は外すわよ」
女性は、急いでいるようだ、立ち上がろうとしている。
「わかった、私も黒騎士にあってみたい。死ぬのは、それからでもいいだろう」
鎖も外され、システィナは牢の中で自由となった。牢屋番もいない牢のなか、ただシスティナはパンを食べ、黒騎士を待った。
数日後、あの女に連れられ、白いローブをまとった少年が牢屋の前に立った。
二人は牢屋の中に入ってきて、少年は、システィナの右腕の治療を行った。
少年から
…右腕の調子はどうだい…
と聞かれたが、一瞥し目を閉じた。
「愛想ないわね、博影なにか証拠でも見せないとわからないし、彼女信じないわよ」
戦が終わった為であろう、前来たときに比べ余裕があるな…とシスティナは、横目で二人を見た。
…仕方ないな…
博影は、黒い術袋から、あの、100人切をした…システィナの腕を切った黒い刀を取り出し、一目システィナに見せ、術袋にしまった。
「それは…まさか、貴様が黒騎士だというのか…」
システィナは、愕然とした。
…いや、まさか、こんな子供に…こんな、子供1人に私は、我らは切られたのか…
はっと我に返ったシスティナは、
「貴様、なぜ私を助けた! 私が女だからか! 私が女だから情けをかけたのか!」
少年につめより、左手で少年の肩を掴み、少年の眼前で、大声で怒鳴った。
「だまってないで、なんとかいったらどうだ!」
システィナは、悔しかった。
…女だから、私を切らなかったのか、こんな、少年が…
システィナにとって、それは、ここ数年の生き様を踏みにじられることだった。
「すまない…」
少年は、答えずただ頭を下げた。
勝者に謝られる…システィナは、心が砕け崩れた…
システィナは、少年の前に崩れ落ち。
「殺してくれ…すまないと思うなら殺してくれ」
「戦は終わった。それは出来ない」
同じく、ひざまづいた少年にシスティナは抱きしめられた。
「うぁぁぁ~」
左手で、なくなった残りの右腕で…少年を激しく揺さぶり、システィナは叫び、泣いた。
ベレッタは、騎士として戦の経験がある。博影に抱きしめられながら、泣くシスティナに騎士として、女として同情した。
「あなた、そこまででよいかしら。博影は、今、大変消耗してるの」
ベレッタは、システィナの左肩に手を当てた。
システィナは、我に返った。暗い牢の中では気づかなかったが、少年の顔色は悪く、今にも倒れてしまいそうだった。
システィナは、少年の肩から手を離した。
「取り乱して、すまない…」
目を伏せ。
「あなた、博影の保護の下、ばかな事をしないならここから出します。どうですか?」
ベレッタが、システィナに提案した。
…自決しないこと、砦内の情報を漏らさないこと…
一瞬迷った末、システィナは同意した。
そのまま、牢から出され、博影の部屋へ案内された。




