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第14話 ギュラー砦攻防戦 後

異世界召喚 30日目


モスコーフ帝国軍は退却していった。


砦から立ち上がる黒煙は、すべて消え去るまで夕方までかかった。

火の勢いが強かった2時間ほどの間は、正門付近で博影は魔方陣を展開し、場内の黒煙をまるで魔方陣で吸いだすように引き寄せ、砦の外へ排煙した。


同時に、正面城壁上に見張りを数名残し、他の兵士は、負傷した兵士をギュラー砦最後尾にある治療所へ搬送していた。

ベレッタ以下、治癒師は休む暇もなく治療所で動き続けた。重傷者は1名もいなかった。



しかし…

あらかじめ水で濡らした布で口元をふさいでいたとはいえ、あちこちの城壁上部まで覆った黒煙で軽度の火傷と、軽度の気道熱傷を起こしている兵士が多かった。

気道熱傷に関しては、博影がすべて治療して回った。



翌朝、砦内の戦後の片づけが始まった。


炭と化した騎士から武器を鎧を剥ぎ、懐をあさり、すべて奪う。

残った炭と化している体は、砦中央を流れるアゼット川に投げ入れる。


聖石をはめ込んである武具は非常に高価で、聖力を使用できる者には役に立つ。

剣や槍は、それぞれ戦利品として聖力が使えるものは一つずつ得ることが出来たが、炭と化した肉が、内側にこびりついた鎧を受け取ろうとする者は一人もいなかった。


しばらくすると、武器商人の商隊がやってきたので、すべて買い取らせ金に換え、金は生き残った兵士と戦死した兵士の家族へとに均等に分けられる事となった。


アゼット川に投げ入れられた多くの遺体は、緩やかな流れのためそのままとどまっている。


第3門後方にある、人工的に造られた堰を開放すると、大きな濁流に押し流され柵をあげてある門をとおり、砦外に流れていった。

堰を閉め、水を貯め2時間ごとに堰を開きすべての遺体を押し流した。

砦からは、見えなくなるほどに遺体は流れていったが、2時間ごとに堰を開く作業は一晩中つづけ、森の奥深くへ遺体を流した。


そうすることで、

森の奥では川岸に流れ着いた遺体が、森の獣のえさとなる。


ここらあたりの食物連鎖の頂点は狼である。

犬とは比べ物にならないくらいの体格、顎の奥まで裂け大きく開く口…


遺体を砦外に葬らず、森の奥深くの川へ流し狼の餌とする案は博影だった。

もちろん、兵士一人ひとりを葬る時間、労働力などあるはずもない。


川へ流し獣の餌とすることで、狼は人間の味を覚え、火を持たない人間を襲うことだろう。



博影は仕事柄、戦争体験の老人の話をよく聞かされた。


満州の地では戦の後、戦死者を弔う時間がない。

野ざらしにされた遺体は狼が食べる。

人間の味を覚えた狼は、部隊の後をついてくるので嫌だった。火さえ持っていれば良いが…


その話を思い出し、敵兵士の遺体はすべて森の狼の餌となるよう森の奥深くへ流したのだ。

狼は火を持たない人間を襲い叉、付け狙うだろう。


アラドからの偵察隊や斥候も思うように行かなくなるだろう。

ギュラー砦は、一日中正門外で火をともせば何も問題はない。


戦後、翌日はこうして日が暮れた。


戦後、2日目は、いまだ油とこげた肉の異臭のする城壁階段や、正門から第3門までの間を動けるもので掃除していく。

土をまき、土ごとこびりついた肉を城壁からこそぎ落とし、その土はアゼット川へ流す。


戦後3日目は、一通り治療が終わり落ち着いた治癒師全員が砦内のあちこちに聖水を巻き、祈り浄化していった。


ルデン辺境伯から、カローイから、イング公爵から休むように言われた博影であったが、すべての作業に従事し動いた。



博影は戦後2日目に、

ベレッタの案内で、一騎打ちの時とっさに剣先を代え右腕を払い、100人切り後治癒を施した、傭兵の下へ会いに行った。


傭兵は敵軍であるので、1人牢へ入っていた。

牢へ入り、右腕の状態を確かめ、身体活性の治癒を施した。

傭兵は…最初なぜ情けをかけた…と詰め寄ってきたが、今の博影に相手に出来る気力はない。

相手の傭兵も顔色の悪い博影の様子を感じ、それ以上責めなかった。

傭兵の名は、システィナと言った。

敵軍ではあるが、傭兵であるので博影の保護の下…という条件に同意する事で牢を出した。

その後、システィナは、片腕ながら毎夜疲労困憊に死んだように眠る博影の世話をするようになった。



戦後3日目の治癒師が祈りを捧げているとき、

博影は正門城壁上にて、4日前あった、あの黒煙の惨劇のかけらも写っていない澄み切った青空を眺め…1人、なくなったすべての兵士の冥福を願った。


ギュラー砦へ来て2週間がたった。

その間、治癒師としての仕事の傍ら、カローイやベレッタに剣の手ほどきを受けたが、そう簡単に上達するものではない。


しかし、カローイからすると、


…振り下ろす剣に迷いがない。以前とは、見違える…


とのことだったが、魔法陣や魔石武具なくして戦場で役に立つわけではない。


仕事の合間には、森の入り口へ行き、魔法陣や魔石武具を試した。


魔法陣からは、火や雷を出せるわけではない。

自然現象を利用し、さまざまな現象を引き出しているように見える。

これは、自分の今の力と関係があるかどうかはわからない。


叉、黒い剣や黒い甲冑を着、森で狼等の獣を相手にしたが、歩きながら魔法陣を移動させることは出来なく、100人切りのときのように一箇所で立ち止まったままでないと、絶対防御の力は発揮できなかった。


しかし、黒い甲冑は魔法陣を使用しなくても、博影の魔力?が充足していれば、普通の武器では破壊不可能に思えた。


黒いマント風のローブは、黒い甲冑の上からはおることも出来る。

そのローブで、空中に浮くことは出来ないが、高いところから飛び降りる際は、ゆっくり滑降するように浮力を装着者に与えてくれた。


戦が終わり3週間たったころ、伯爵率いるギュラー砦・新守備隊が到着した。

騎兵1500 歩兵3000の軍勢である。


1週間かけ引継ぎを行い…


ルデン辺境伯、イング公爵以下

騎士200名

見習い騎士100名

歩兵2000名

治癒師15名

の約2300名のギュラー砦守備隊は、帰国を許されることになった。


朝早くギュラー砦を出て、歩兵の速度にあわせ昼過ぎにギュラー渓谷を抜けた。

渓谷を抜けた後、全軍で渓谷へ向きなおし剣を構え礼をとった。


前もってルデン辺境伯、イング公爵の許可を貰っていた博影は、治癒師の格好ではなく、黒騎士の格好で全軍の前に姿を現した。


ダペス家、ルデン家の騎士数名は、博影が黒騎士であることを知っていたが、他の者に話すこともしなかったのでほとんどの騎士は知らず、歩兵はまったく知らぬことだった。

戦後、初めて黒騎士が表れたことに全軍よりどよめきが起こる。



「ギュラー砦での火炎地獄は、我の策である。そのことで皆には大きな傷を負わせてしまった。

だが、振り返って向こうを見てほしい。

皆のおかげで今もイシュ王国が、民衆が…そして我々の家族が、故郷が蹂躙されずに安心して生活できている。皆、胸を張って帰ろう」


心傷ついた多くの戦友に心をよせ…沙耶に会いたい、家族に会いたい…と強く願った。


ルデン辺境伯は、黒騎士を見ながら思う、


…ことの始まりは夜襲の失敗からだ、お前が背負うことはないと…


イング伯爵は、目の前の風にそよぐ牧草地帯を見ながら思う、


…重度の火傷では助からぬ命なのだから、すべて殲滅すると…


黒騎士の案を聞いたときには悪魔の声を聞いたようだったが、たしかに、守るためには、どんなことをしてでも守り通さねばならないことがあると…


カローイは、ベレッタは黒騎士を見ながら…共に涙していた。


「敵味方問わず、戦死者へ黙祷」


ルデン辺境伯が指示し、全軍で黙祷しギュラー渓谷を後にした。




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