第10話 ギュラー砦攻防戦 3
異世界召喚 29日目
「もう、この難攻不落の要塞、ギュラー砦も終わりだな」
正門城壁上の見張りの兵の1人は、誰にも聞こえないように呟いた。
いまや、ギュラー砦の歩兵(市民兵)の間には、不平・不満が浸透しつつあった。
軍議では、イング公爵とルデン辺境伯との意見が対立しまとまらない。
イング公爵は、徹底抗戦の構えで騎士の名誉を優先し、この少ない騎兵で、全滅覚悟の野戦を主張している。
かたやルデン辺境伯は、マクシス伯爵へ夜襲をしかけ600もの騎兵を失ったにも関わらず、策を講じず
以前とは、人が変わったように威張り散らし、都市センデスへの退却を主張している。
金で人が変わったか…と、みな噂している。
ルデン辺境伯は、黒騎士より戦費にと大金貨1000の寄付を貰った…にも関わらず、傭兵を雇おうともせず退却を主張している…執務室の上には、大金貨1000枚を積んであり、眺めて楽しんでいる…という噂まででていた。
「なにも策がないなら、退却した方がましだ…」
見張りは、嫌悪感みなぎる口調で吐き捨てた。
このような状態でも、かろうじて脱走兵が出ず、ギュラー砦が存続している訳は…
騎士2人、見習い騎士1人、歩兵20人の23人で1つの小隊に編成し、100の小隊をつくり3交代制で、砦の防備についているからだ。
騎士、騎士見習いが歩兵に直属でつく事で、不平・不満が大きい歩兵を抑えている。
騎士が馬を降り、城塞守備につくことはかなりの問題となったが、それも最初だけだった。
騎士は、どんなに不満があろうとも家名を背負い又は、主命を背負っている。一度決まった事は、騎士の名誉にかけて遂行する。
しかし、正門の守備に大きく兵を割いているとはいえ、この大きな砦をわずか600名程の兵で巡回し、見張る事は、特に夜間では困難となる。
夜間は、いつもの3倍の量のかがり火が、城壁の上や下で焚かれていた。
その為、多くの燃える水の樽が城壁にあげられ、又、城壁の下に置かれていた。
ギュラー砦の傭騎兵隊・隊長ガスは、焦りを感じていた。
ギュラー砦は、落城間近…概ね、当初の作戦通りに事が進んでいた。
しかし、見誤った点は…あのルデン辺境伯と、イング公爵なら、必ず奇襲を行うと思っていた。そうすると、大きな手柄をガスが手にする事ができた。
しかし、今…
ルデン辺境伯の腰が引け、退却を主張している。もし、退却などとされたら、ガスの功績は僅かとなり
帝国から入る予定の報酬が貰えなくなる。
褒美は、領地・領主だった。騎士に任ぜられ、領主となれば、今回の仲間を率い、今後の人生を悠々自適におくれる。それなら、ギルドを裏切る価値がある。
しかし、撤退などされたら、領地の褒美は貰えないだろう。ギュラー砦前に、野営地が築かれ、はや2日たっている。
…もはや、時間はない…
この運を手に入れる。退却される前に、モスコーフ帝国軍を引き入れる事が出来れば、俺の功績だ。
ついでに、執務室の大金貨1000枚も手に入れる。
…今が好機だ!…
ガスは、決めた。竹筒に手紙を入れ、夕刻の定時連絡の時間に、竹筒をギュラーの中央を流れる川に流した。しかし、その様子をかがり火の準備をしながら見張っていた、イング公爵の騎士が見ていた。
「タタン公爵、定時連絡が来ました」
騎兵が、タタン公爵の天幕へ竹筒を持って来た。中身を取り出し、タタン公爵へ渡す。公爵は、しばらく手紙に目を移し…
「うむ、明日早朝出陣とする」
騎兵に指示した。




