第8話 ギュラー砦攻防戦 1
異世界召喚 27日
森の樹々の隙間からさす、木漏れ日に照らされながら…腰に剣を携えただけの、装備を解いた騎馬隊、歩兵隊が進んでいる。
マクシス伯爵、以下4000の兵は、僅か、1週間前に出立したアラドを目指していた、
「タタン公爵、まさかこれ程はやく来られるとは、それも、増援ではなく軍ごと交代ですからな」
マクシス伯爵の騎馬に並び、騎士がボヤく。
「いつものことだ。私は、さっさと休めて良いがな。しいて言えば、ギュラー砦の者達が、どんな戦をするのか、見れないのは少し残念ではあるな」
伯爵は、黒騎士の百人斬りを思い浮かべた。
「だが、何も起こるまい。もはやギュラー砦には、正規の騎士は、約200…野戦が出来るはずもない、又、砦に篭っても市民兵2000ではな。タタン公爵は、何もせずとも、砦は二時間持つまい」
やはり、マクシス伯爵も腹に納めている物があるようだ。
「内通者も、放っておりますから一時間も持ちますまい」
「そうだな…」
伯爵は頷きつつ、あの異様な黒騎士は、どういう者なのか、一度話してみたかった…と、考えていた。
森を抜けた。目の前に、広大な耕作地が広がっている。
「伝令兵。騎兵隊は、先にアラドへ向かう。歩兵部隊長へ、規律をしっかりと正し、アラドへ向かうように伝えよ」
伯爵は、伝令兵に指示を出すと、馬の歩みを速めた。アラドまで、騎馬なら日が落ちるまでにつくだろう。
日が傾きはじめた…
ギュラー砦、本館の一室、ベッドに博影が横たわっていた。傍では、ベレッタが治療を行っている。
「……んっ…」
「博影、目が覚めた? 体の具合はどう?」
博影は、半身を起こし手足を軽く動かした。
「大丈夫だ、体中に痛みがあるが、体は動く。ベレッタが、治療してくれたのか? ありがとう、カローイ達は?」
「皆んな大丈夫よ、二、三日で動けるようになると思う。それと…」
ベレッタは、博影の左手を両手で握り…
「博影、カローイを…皆んなを助けてくれてありがとう。でも、もしあなたになにかあったら、沙耶が悲しむわ。
あなたも…沙耶をこの世界に、1人には出来ないでしょう。もう、無茶はしないで」
ベレッタが、顔をあげ微笑んだ。
「わかってるよ。今回は、たまたま結果が良かっただけだ、無茶はしない。沙耶を1人には、出来ないからね。
自分には、沙耶と生きていくこと、沙耶を前世界にかえすことがあるから…」
博影は、笑った。
城壁で哀しみに、途方にくれたあのベレッタの姿…沙耶に、同じ思いをさせるわけにはいかない。
博影は、ベッドから立ち上がった。
「博影、まだ寝ていないと…」
ベレッタが慌てる。
「いや、大丈夫。ベレッタの治療のお陰で動くよ。それより、カローイ達に会いたい。
いや、その前に明るいうちに城壁に上がりたい。自分に何が出来るか分からないけど、現状を知り、考えたい」
ベレッタは、深いため息をつき…
…言ったそばから、無理するし…
と、ブツブツ言いながら、博影の体を再度確認をしてから連れ出した。
ギュラー砦は、渓谷を塞ぐように建てられている。
砦両側の山は、まるで壁の様に切り立ち、人や動物が近づく事を拒んでいる。
渓谷の中央には、幅20m程の川が流れており、砦は、その川も含め塞いでいる。
城壁中央下部には、口のように穴が開けられ、鉄柵がはめられ、川がゆっくりと流れ出していた。
又、正門城壁から、後門城壁まで約800m程あり、200mごとに、内部を仕切るように城壁がつくられ、まるで、枡を4つ並べたようになっている。
正門から、1つ目、2つ目の枡は、敵を迎え撃つ為に城壁以外何もなく、3つ目の枡に本館や、兵舎などが立ち並んでいる。
その為、正門を突破されても、正門から3つ目の枡に辿り着くまでに、城壁から、敵に矢を降らせる事が出来る。
このような、渓谷を利用しつくられたギュラー砦は、難攻不落の砦として、知れ渡っていた。
しかし、敵の騎士に矢は通用しない。
ギュラー砦の守備隊は…
騎士…200名
傭兵…100名
歩兵…2000名
治療中…騎士約100名
もはや、砦落城は…時間の問題となった。
博影と、ベレッタが正門城壁に上がった。
「これは…」
戦の後を見に来た2人の前には、朝とは違った光景が広がっていた。
「マクシス伯爵と、入れ替わりで来た、タタン公爵率いる約7000の軍です」
見張りの兵が、憎々しげに言う。
「やつら、森との境とはいえ、砦の目の前に野営地を作り…さらに、馬防柵も作っていない」
夕日がひしめき合うように立つ、数多くの天幕や騎馬を照らし、あちこちのカマドからゆっくりとあがる煙と、ゆっくりうごめく多くの兵を包んでいる。
博影は、しばしその光景に見入っていた。




