第6話 夜襲からの撤退 4
異世界召喚 26日
「カローイ、お願い生きて…」
目を開き、祈るベレッタの呟きに、博影は心を押された。
「ベレッタ、助けに行ってくる。ここで、待っててくれ」
いつの間にか黒い甲冑に身を包んだ博影は、ベレッタの頭を撫で、兵に城壁から降りるためのロープを頼んだ。
この状況で、逃げれる方法など誰も思いつかない。もちろん博影にも、案はなかった…
博影は、再び黒い矢をつがえる。魔法陣を展開し、先程より集中し、この一本に込め……放った。
黒い矢は、魔法陣で加速する。先程よりさらに、大きな黒い霧をまといながら…
今まさに闘おうとしているカローイと、傭兵の間を射抜き、地面に人が数人入れる程の穴をあけ、穴底に刺さった。
その大きな衝撃に、モスコーフ帝国軍の全兵士は呑まれ、矢が飛んで来たであろうギュラー砦を見た。
ギュラー砦の城壁の上には…奇妙なかなり大きい弓を握った、全身黒づくめの兵士がいた。
その兵士は、城壁の兵が、城壁から下まで垂らした、ロープを掴み、まるで城壁の壁を跳ねるように降りて来た。
モスコーフ帝国軍、50mまで近づき、雄叫びをあげる。
「モスコーフ帝国軍兵よ、俺と勝負しろ! 俺に勝てば、金貨1000枚だ」
背中に背負った大きな袋を、足元にドスッと降ろした。
こやつ、ただの蛮勇か…それとも…
「そやつを通せ、せっかくの客だ」
マクシス伯爵は、周りの兵に命令した。
兵は、左右に下がり…博影を通した。
その博影の歩き方、立ち振る舞いを見ると…
先程の見たこともない、弓と言っていいのかさえ、分からない矢を打ち込んできた者とは、到底思えなかった。
とても、武術を修行してきた者の動きではない。
…見誤ったか…
と、マクシス伯爵は思った。
周りの兵も侮りはじめ、野次を飛ばしはじめた。
博影は、カローイの横に並ぶ。
「よう、大変そうだな」
博影の軽口に、カローイが切れる。
「きさま、なぜ来た! 剣が使えないお前は、ただ切られる藁人形と同じだぞ」
と、顔が紅潮しているカローイに…
「怪我人は、休んでいろ。今から、俺が全員切ってやるから」
博影は、苦笑する。
「バカが…」
カローイも分かっている…もう、今更引き返せないのだ。
カローイは、見ることが最後になるであろう、雲ひとつない空を見上げた。
「博影、沙耶の事は大丈夫だ。親父が、ティアナが、必ず前世界に戻してくれる」
涙で滲みつつある空を見上げたまま、出来ないであろう事を博影に言い、博影の気持ちを楽にしようとした。
ルデン辺境伯や、騎士がみな集まり…同じく…
…博影はバカだ、アホだ…
と、本気でいいながら、最後、拳を合わせ…誓った。
生まれ変わったら、又会おうと…




