第27話 スタンツア・ガリア 4 <サラの贈り物>
レナトス暦 7017年
異世界召喚 353日目
城塞都市ロムニア(旧グリナ)・占領239日目
ロムニア国建国宣言より238日目
スタンツァ・ガリア占領231日目
鉄門砦陥落194日目
(鉄意騎士団と出会い194日目)
協定会議・敵討ちより172日目
(ジファ・ウフナン12歳、女。ウフス・ウフナン10歳、女と出会い172日目)
ティムリヤン国を出発し75日目
(サラ、母国を出て75日目)
アルメリア公国を出発して28日目
(アルメリア公国建国から36日目)
ロムニア国に到着して23日目
スタンツア・ガリアに到着10日目
(沙耶と別れて11日目)
ロムニア国到着23日目
ロムニア王都を馬車で出発し11日目、スタンツァ到着10日目…
一晩、シャオ宅に泊らせてもらった博影は、夜明けと同時にチェル、ルルスと共に貴族・騎士エリアの中央に位置する施政の館へ帰る。
午前9時過ぎ…
湾岸都市スタンツアの平原側の門で、元ルピア公国騎士であり、ティーフィ・ジュラ・ルピア(女・10歳)の幼少のころからの護衛騎士である、カバイ・ヤーシュ(男・22歳)、
エレン・ヤ―シュ(女・22歳)率いる、元ルピア公国・騎士350名と、その家族1300名の出立式を行った。
幸いにも、黒騎士(博影)が、1週間の間に急いで作成した聖石が付与されている馬車2~3台分の容量は収納できる術袋を100名分用意できたので、その中にそれぞれの持ち物と、旅の食料、馬の飼い葉、野営用の天幕などすべて収納出来た。
その為、馬車には家族の者達が乗るのみで大きな荷物はなく、70台の馬車に1300名全員乗車できた。
350名の騎士は、無理をしてカキアスが騎馬を揃えてくれた為、騎乗し馬車の前後を護衛しながら都市ブザエへ向かう。
そして、出立式後、カキアス・ピュセーマ(スタンツァ・ガリアの施政担当)、ボレア・プノエー(スタンツァ・ガリアの軍事担当)を中心とするダペス騎士達とヘラデス、クレイ司祭夫妻とマリナ(と護衛の女騎士:セドナ・クティ)、ティアナ(護衛にチェルとスコイ:狼♂)達の部隊がスタンツァ・ガリア周辺の村々の視察へ出発した。
マリナ達を見送っていると…入れ替わるように、ロムニア王都より10人の騎士達の護衛を伴ったサラ・アナトリー(ティムリヤン国・東の一族の姫・後継者)と護衛女騎士・シャーディ・ルクがスタンツァに到着した。
………
午前11時…
スタンツア貴族・騎士エリア中央に位置する施政の館内。
博影、チェル、ルルスに与えられている部屋(元々、沙耶が使用していた部屋)にて。
博影は、部屋の入り口で番をしているハティ(狼♀)とリスト(エリュトロンアルクダの子=中級魔物・上位)の頭を撫でながらに干し肉を与える。
そして、サラとシャーディの目の前に紅茶とお菓子を置きながら、博影はサラへ話しかける。
「サラ、ロムニア王都での用事は終わったのか?」
「領事館兼店舗を立ち上げ、王都の有力商人達との話し合いも一通り終わった。後は、文官達が進めていく」
サラは少々薄い胸を張りながら、博影が入れた紅茶に口をつける。
そのサラの様子に少しばかりため息をつきながら、護衛である女騎士シャーディ・ルクは一言小言を付け足す。
「姫様、あたかも終わったかのようにおっしゃられておりますが、まだまだ用件は山積みです。
姫様が、どうしても博影殿の見送りをしたい…と言われるから、文官達へ仕事を任せ、こちらへ慌ててきたのですからね」
「いいじゃない! 大まかな事は終わったのだから、私も少しばかりゆっくりしたいの!」
思わず口調が崩れ、サラの本音が漏れる。
その様子を笑いながら見ていた博影は…
「サラ、それなら、昼食がてらスタンツァ・ガリアを散策でもする? ロムニア王都では、サラの買い物に付き合う予定をキャンセルしてしまったしね」
「する!」
サラは、博影がせっかく入れた紅茶を一息で飲み干すと勢いよく立ち上がった。
………
治癒師の装いの博影、町娘の装いをしたサラとシャーディの3人は、市民エリアのお店で食事をしたのち、ゆっくりとあちこちのお店を覗く。
そして、博影はサラとシャーディが気に入った服をプレゼントしたのち、3人で港へ向った。
港の左側の桟橋には、数隻の大きな商船が停泊し、多くの人たちが忙しそうに行き来しており、中央の桟橋には20m級ガレー船が数隻停泊している。
(※50級ガレー船は、沿岸部を中心に巡回に出ている)
そして、左側の大きな桟橋には、魔導船スマルトとプロセインが停泊している。
「こうして、他の大型商船と比べると、スマルトとプロセインがいかに大きな船なのか実感できますね」
サラの左に立つシャーディは、ふっと一息吐きながら2隻の魔導船を見つめる。サラは頷きながら…
「ティムリヤン国の港でも、あの右側の桟橋に停泊している50m級の大きな商船など、そうは見る事が少ないというのに、あの2隻の魔導船は100m級…。
博影、明日は早朝に出発するの?」
町娘の装いをし、身分を隠しているサラは、家族へ話すような砕けた言葉と雰囲気で治癒師の装いをしている博影へ声をかけた。
「あぁ、夜明け前に出発しようと思ってるよ」
「そう、聖イリオス領…どれくらいで帰ってくる?」
「スマルトに乗って海路で行くから、普通なら3日で着くと思うけど…教皇との会談があるからね。
2週間から遅くても3週間くらいで帰ってこれると思っている」
「魔物の海を通り…そして、黒騎士の力を利用しようとしている教皇ピサロ・コンキスタと会談…いろいろなイベントがありそうですね」
シャーディは、少し意地の悪そうな笑顔で博影を見る。
博影は苦笑いしながら…なにフラグ立ててるの…と思いつつ…
「まぁ、かりにも5大聖地のひとつ、聖イリオス領だからね。シャーディが心配するようなことは起こりにくいと思うけど?
それに、イリヤ率いる鉄意騎士団第二部隊47名も共に行くからね」
「でも、同じ5大聖地のひとつ、聖ギイス領では様々な事に巻き込まれた…」
心配そうにサラは博影へ顔を向ける。
博影は、苦笑いを浮かべながら…
「たしかに。ただ、5大生聖地といっても聖イリオス領は、神殿にある魔石を武具などへ付与する遺物が、100年ほど前に壊れた事で、かなり聖地としての力を落としているようだからね。
その遺物を修復することを取り引きの材料とすれば、まぁ、それほど危険な事はないと思ってるよ。
それに、向こうが俺に会いたいと言ってきたのだしね」
「そうだといいけど…」
そういいながら、サラは胸元のペンダントを右手で柔らかく握る。そして、少し指で撫でた後…その細い首から外すと…
「博影、これ…」
「ん?」
「博影には、いろいろ助けて貰ったから…その、こっ、これをあげる…これはお守りだ」
「お守り?」
「姫様、そのペンダントはティムリヤン国を出立するにあたって、サルル様(サラの母)から頂いたものでは?」
「サラ、気持ちは嬉しいけど、そんな大切な物さすがに貰えないよ」
博影は、差しだされたサラの右手を両手で包み込むと、サラの胸元へ優しく押し返した。
しかし、サラは再び力強く押し返し、博影の目をじっと見る。
「博影、今回の聖イリオス領への旅の間だけでも身に着けて、そしてロムニア国へ無事に帰ってきたら受け取る」
サラの目が少し潤む。博影はサラの頭を撫でながら…
「わかった、ありがたく身につけさせてもらうよ。で、これは…水晶かな?」
博影は、サラの手のひらのペンダントを覗き込む。
サラは頷きながら博影のフードを取る。そして、首へ両手を回しペンダントをかけながら…
「うん、このペンダントの水晶はスモーキークォーツ(煙水晶)と言って、悪い思念から持ち主を守り、邪気を祓う石と言われている」
「サラ、ありがとう」
博影は、サラを優しく抱きしめた。
「ひゃっ、なっ、ちょっと、やっ、やめ、いや、やめなくていいけど…」
サラは、耳まで真っ赤にしながらも博影へ視線を向けると…まつ毛が触れそうな距離で博影と目が合う。そして、博影の吐息が少し聞こえる…。
博影がゆっくりと目を閉じた。サラも、慌ててしっかりと目を閉じる。
…くる…くる…くる…………くる??
「サラ、大切にするよ。そして、かならず返しに行くよ」
…えっ?…
そう言うと、博影はゆっくりとサラの背中から手を離す。そして、両眼を開けると…心なしか、サラの頬が膨らんでいるような気がする。
「ん? サラ、怒っている? 嫌だった?」
「怒ってないし! べっ、べつに嫌じゃないし!」
つーんとそっぽを向くサラの気持ちを量りかね、再び同じ言葉をかけようとすると…
「ふふっ、姫様は怒ってなどいませんよね。ちょっと期待していたのですよね?」
楽しそうにシャーディは小さく笑い出す。
「いや、でも…」
「ふふっ、博影殿は、サラ様をまるで娘の沙耶にするように抱きしめて、感謝の気持ちを伝えたかったのでしょうけど、サラ様はキスを待っていたようで…むぐっ」
「わぁぁぁ、シャーディ、何言いだすのよ!」
サラは、慌ててシャーディの口を両手で塞いだ。
「くっくっくっ、サラ、キスは大人になってからだね」
「むぅぅぅ、博影、私は17歳、この世界では結婚してもよい年齢だから! いつまでも私を子ども扱いしないで!」
サラが真っ赤な顔で怒る。
「子供扱いしているわけではないけど、大人の女性扱いにはまだ早い気がするけどね。それに、こんなに周りから見られている中でキスしたいのかな?」
いつの間にか、周りの人々は足を止めて博影とサラの様子を笑いながら見ている。
「あっ…」
サラは、慌てて博影の背中へ回り身を縮めた。
………
翌朝、4時頃…月明かりのないスタンツア・ガリアの港は、満天の星明りと篝火で照らされている。
魔導船スマルトと魔導船プロセインが停泊している桟橋には、多くの者が集まっていた。
桟橋では、家族・友人との別れを済ませたダペス家の騎士や文官達、そして商人達がアルメリア公国や聖ギイス領に向かう為、魔導船プロセイン号のタラップを上っていく。
「俺は20日後くらいには、スタンツアに帰ってくる。主は、その時いるか?」
ルルス(魔騎将の幼女)は、治癒師の装いをしている博影を見上げた。博影は、片膝をつきルルスの目線に合わせると…
「20日後には、帰ってきていると思う。もし、帰ってきていなくても少し待っていてくれれば帰ってくる」
「そうか、ならいい。主、またな」
そういうと、ルルスは後ろを振り返らずプロセインのタラップを駆けあがっていく。
タラップが、引き上げられていき、魔導船プロセインは、桟橋から徐々に離れていく。
そして、帆を広げるとアルメリア公国へ船首を向けた。
「さて、博影、俺達も出ようか?」
鉄意騎士団第二部隊隊長:イリヤ・ネアト(半魔半人の女騎士)は、博影の背中をトントンと叩く。
「みんな乗船したのか?」
「あぁ、部下たちはもちろんの事、黒騎士の装いをしたチェル(治癒師の装いをした博影に視線が集まらないようにする為)もマリナもティアナもすでに乗船している」
博影は、魔導船スマルトの甲板を見上げると、見送りに来ているカキアス達、ダペス家騎士達やヘラデス司祭夫婦へ、マリナ達は手を振っていた。
イリヤは、博影の傍らに立つサラ・アナトリーへわずかに視線を向けると…先に乗船しておく…と博影に伝え、タラップを上がっていく。
博影は、傍らに立つサラへ笑いかけながら…
「サラ、行ってくるよ」
「うん、気をつけて」
そういうとサラは、博影の背中に手を回し博影を優しく抱きしめた。
博影もサラを抱きしめながら…
「どうしたの? やけに積極的になったね?」
「マリナやティアナから助言を受けた。おまえは鈍いし、会えない事も多いから、会える時に素直に気持ちは伝えておいた方が良いと…」
…鈍い…わけじゃなくて、俺の年齢の感覚の問題なんだけどなぁ…
と、博影は心の中で思いつつ…
「帰ってきたら、皆でロムニア王都の市民街や貴族・騎士エリアのお店に食事しに行こうか?」
「必ずだぞ…それとは別に2人で、食べ歩きをしてみたい…」
サラは、博影の目をじっと見る。
博影は、サラの頭を撫でながら頷いた。
カキアス、ボレア達、ヘラデス司祭との挨拶を済ませ、博影はタラップを上る。
碇をあげ、帆船スマルトは桟橋から離れていく。
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