第5話 召喚の儀式 生贄の理由1
異世界召喚 7日目
「ティアナ。話せる部分だけでいいから、聞かせて欲しい」
姉のように慕うルーナを、生贄として捧げた話を聞こうと言うのだ。
ティアナにとって、とても辛い話だろう。
しかし、自分勝手だが、この世界で生きて行く為には、国や、自分達に関わりのある人達の事は、出来るだけ理解しておかないと、生きて行くための選択肢を間違える場合がある。
「私から、話そうか…」
眠る沙耶のベッドに腰掛けているルーナが、こちらを向いた。
優しげな表情のルーナだが、ベッド横には、術袋から長剣を取り出し、いつでも握れるように、立てかけている。
護衛役としての仕事は、しっかりしている。
「ルーナありがとう。でも、私に話させて、この話は私がしないと…」
椅子の背もたれから背中を離し、ティアナがポツポツと話し出した。
現在、イシュ王国へ戦争を仕掛けているモスコーフ帝国。
そのモスコーフ帝国と、イシュ王国の境、山岳地帯側に都市国家センブルとクルコがあった。
両都市国家は、モスコーフ帝国がイシュ王国へ攻め入るまでは、両国と友好関係を築いていた。
しかし、モスコーフ帝国が、イシュ王国へ宣戦布告し、両都市国家へ…どっちへつくのか…圧力をかけてきた。
「センブルもクルコも、しっかりとした城壁など持たない都市国家でした。
山岳地帯の麓にあり、都市国家を支える周りの村もあまり持っておらず、経済が苦しくて…」
「そこで、エドワード・センブルとグザヴィ・クルコは、グロウス同盟を結び中立国を宣言しました。
その証として、モスコーフ帝国には、センブル家、クスコ家のそれぞれ長男を…イシュ王国へは、それぞれ長女を…中立の証として、人質として送りました。
そのイシュ王国へ送られた人質が
私達…
ティアナ・センブルと、ルーナ・クルコです、五年前の話です」
「両領主は、中立国を宣言し、信用の証として人質を送り、市民の生活を楽にし、都市国家を発展させようと、軍を大幅に縮小し農業、商業の分野に力を注ぎました」
いつのまにか、扉そばにいたチェルが、沙耶の眠るベッドの上で丸まり、片方の耳をこちらへ向けていた。
「その事は、成功したのですが…」
ティアナが、うつむき…止まってしまった。
「成功し、徐々に富が蓄積されて行くと、再度、モスコーフ帝国は、どちらにつくか…又、戦費を要求してきました…」
ルーナが、淡々と話し出した。
「しかし、領地の両軍隊の通行は許可していましたが、領地内での戦いや、片方に有利に働くような事はとても了承出来ません。
すると、今から半年前…突如、モスコーフ帝国は、領地を通過すると見せかけて都市へ侵攻しました。
そして、軍隊を大幅に削減していた、センブルとクスコは、市民を逃す時間も作れず…殲滅されました…平和な国だったのだけど…」
ルーナは、窓際へ移動し、まるで真上の星を眺めるように見上げた…見上げても、溢れる涙は、止められなかった。
「そして、私達2人は、このイシュ王国にとって、必要でなくなりました。今後の他国との、外交交渉の為にも…人質は、約束が違えれば、
…殺される運命ですから…
別に殺されても良かったのですが、…家族の元へ行けるので…」
続きを語れなくなったルーナに近づき、ルーナの背中へ背中を合わせティアナが引き継いだ。
「その時、人質としての五年間を、王都の屋敷で育ててくれたダペス伯爵が、元老院へ…行き、説得を試みました」
持病のある王の治療の為に、異世界の治療師の召喚を試みる。
その役割に、聖力を持つ生贄が必要で、2人はまだ形を変えイシュ王国の礎になれる。
成功の可能性の低い儀式に、貴重な聖力を持つ者を生贄にするわけにはいかない。
説得は成功し…私達は生かされダペス城に行きました。
聖力を持つ者、聖力が強い者となると…司祭や上級騎士となりますから…潜在的にですが、聖力の強い私達は、新しく役につくことになりました。




