第17話 ロムニア王都 14 <元老院会議 2>
レナトス暦 7017年
異世界召喚 335日目
城塞都市ロムニア(旧グリナ)・占領221日目
ロムニア国建国宣言より220日目
スタンツァ・ガリア占領213日目
鉄門砦陥落176日目
(鉄意騎士団と出会い176日目)
協定会議・敵討ちより154日目
(ジファ・ウフナン12歳、女。ウフス・ウフナン10歳、女と出会い154日目)
ティムリヤン国を出発し57日目
(サラ、母国を出て57日目)
アルメリア公国を出発して10日目
(アルメリア公国建国から18日目)
スタンツア・ガリアを王都へ向け出発して5日目
(沙耶と再会して5日目)
王都ロムニア 3日目
王都の中央にあるロムニア城2階の会議室…
「では、先日のクザ元伯爵の王都内での乱暴・狼藉、そして武力行使について取り上げる。まずは、その場を収めた治安隊のイリヤより報告してくれ」
カローイが議題を説明し、イリヤを指名した。
イリヤが立ち、見たままの状況とその場にいた市民達からの聞き取りの内容を説明し、その後、クザ元伯爵達を地下2階の牢へ幽閉し、翌日、騎士アレクのみ解放したことを報告した。
「イリヤご苦労だった。クザ元伯爵から申し開きが何かあるか?」
カローイが、クザ元伯爵へ発言を許す。
「ふむ、まず、市民への乱暴狼藉という点は誤解だな。私は、我がクザ伯爵家に対し礼を取らぬ一般市民に言い聞かせようとしただけだ」
「ほう、若い女2人だけ馬車へ無理やり連れ込もうとしていたと聞いているが?」
「伯爵たる私が、市民街の道端で女2人を教育する姿を晒せるわけがないだろう」
「晒す晒さないにかかわらず伯爵たる者が直接する事ではないな。
それこそ騎士アレク以下、騎士達で十分だし、市民達の話からだと騎士アレクは、仲裁しようとしていたと報告がある」
「ふん、元々こじれておるのは、その時の者達が、黒騎士の配下の者達だとすぐに申さなかったことだ」
「ほう、その者達が黒騎士の配下の者達であると言えば、事は大きくならなかったと?」
「そうだ」
「話にならないな、その者達が黒騎士の配下の者達と分かり、さらにその場に黒騎士がいるにもかかわらず、事を治めず、黒騎士を魔物の王と蔑み、黒騎士がロムニアを奪おうとしていると断罪した。
そして、配下の騎士達に黒騎士を殺せと命じた」
「私は、黒騎士や配下の者達と関わったことがない。それこそ、半魔半人と一般的に蔑まれている敵であった鉄意騎士団を部下にする人物と理解している。
そのような人物が、ロムニアの中枢にいる、危険視する事など当然だと思うが?」
「ほう、我らに関わったことがないと?」
黒騎士が口を挟む。
「貴公とは、今回、初めて顔を合わせたと思うが?」
「俺とは初めてであっても、俺の配下の者達とは顔を合わせているはずだ。
それこそ、エリュトロン・アルクダとの戦いでは、我が配下の治癒師博影と護衛の亜人チェルが騎士ヤディの手助けを行い、エリュトロン・アルクダを倒したと聞いている。
又、治癒師博影は、直接クザ子爵に会い、俺やイムーレ王子への伝言を頼まれ、翌朝には、騎士アレクより文も預かっていた。
その文には、貴様がロムニア国へ帰順するにあたっての要望が記されていた」
黒騎士は、黒いヘルムの僅かな隙間から、クザ元伯爵を睨む。
「そのような仲介をした者を覚えていないととでも言うのか?
又、そのような仲介を頼んだ者に対し、貴様は相手の話も聞かず剣を向けた、騎士アレクの仲裁を無視してな。
我らを危険視していたのは貴様だけだろう」
「そ、それは…」
「そして、クザ元伯爵、私は、今までの元老院会議で何度もお話してきたはずです。
モスコーフ帝国に支配されていた私達は、2等市民として虐げられていた。
だからこそ、いわれなき理不尽を受ける事のない国にしていきましょう…と」
「司祭マリナの言う通りだ。俺が…いや俺達がこの国の人々へ力添えを行ったのは、虐げられていた人々が、希望を求め立ち上がったからだ。
その希望や信念を汚す行為は…それも、施政者たる貴族が汚すとは万死に値する」
「ぐっ、なにを、私はこのロムニアで長く続く由緒ある…歴史あるクザ家の当主である。
下賤な市民達と同じにするでない」
「ここまでだな」
ロムニア国施政官・イムーレ王子は、ため息をつきながら司祭マリナを見る。
「そうですね、クザ元伯爵の本音が聞けたのです。その点だけは、有意義であったでしょう」
司祭マリナとイムーレ王子は、副施政官であるカローイへ視線を移した。
「では、元老院会議として決をとる。此度のクザ元伯爵の王都内における市民の目の前での黒騎士達への戦闘行為は、到底容認できるものではない。
サンドア・クザ元伯爵を死罪とし、領地はすべて没収する」
「なっ、死罪だと! ふざけたことを申すな!」
クザ元伯爵は、慌てて隣のアハナ男爵達をみる。
「そっ、そうですぞ。王都内で戦闘行為をしたからと言って、いきなり死罪などと!」
アハナ男爵達は、副施政官であるカローイへ向け、口々に非難する。
カローイは、一通り非難を受け止めた後…
「相手が、盗賊であったり帝国のスパイであったなら問題ないだろう。しかし、クザ元伯爵が、100人以上の配下の騎士へ剣を向けさせたのは、ロムニア国建国の英雄たる黒騎士だ。
そして、その黒騎士を断罪している。
これは、明確なロムニア国への裏切り行為とみなす。
どの国でも国に対しての裏切り行為は、最高の重罪である」
カローイは、席を立つと…
「それでは決を採る。サンドア・クザ元伯爵を死罪とし、領地はすべて没収する。同意するものは、挙手せよ」
黒騎士、ダペス家代表・カルデラ・ライ、テュルク族代表・ブレダ、ルデン辺境伯の代理・シュトラス・アウスブルグ、鉄意騎士団代表・イリヤ・ネアト、そしてグラド・ペシエ騎士爵の6人が手を挙げた。
「ペシエ…きさまぁぁ」
クザ元伯爵は、元ロムニア公国騎士であるペシエを睨むが、騎士ペシエは怯まずクザ元伯爵を睨み返す。
「決は採れたな、今回、一方的に剣を向けられたのは俺だ。俺の手で、首を刎ねてやろう」
黒騎士はそう言いながら、黒い剣に手をかける。
「カローイ殿、発言の許可を!」
「騎士アレク、発言を許可する」
騎士アレクが、クザ元伯爵の隣に進み…
「帝国がいつ攻めてくるとも分からぬ中で、クザ元伯爵を死罪にし、領地没収となればクザ家に恩のある北方の騎士達は動揺します」
「構わない、俺が直接都市ガランに出向こう」
「しかし…」
なおも食い下がろうとする騎士アレクに対しイムーレ王子が口を開く。
「騎士アレク、例え黒騎士に剣を向けた不届きものであっても、その者に対するそなたの忠義心を組んでやりたいとは思う。
しかし、そなたたちは、もう一つ大きな失態を犯しているのだ」
イムーレ王子は、扉の前に立つ騎士へ、隣の部屋で待つ者を入れるように指示する。
扉が開き現われた者は…
「はじめてお目にかかる。私は、ティムリヤン国・東の一族・アナトリー公爵家の長女サラ・アナトリー。
同じ帝国を敵とする者同士、ティムリヤン国とロムニア国の親善のためにこの国へ来させていただいた」
そういうとサラ・アナトリーは丁寧に頭を下げ黒騎士の隣に立つ。
椅子を持ってこさせると、黒騎士を詰めさせ隣に座った。
その様子を苦笑しながら見ていたイムーレ王子は、再び騎士アレクへ口を開く。
「と、いうことだ。クザ元伯爵、騎士アレク、お前たちは東の大国・ティムリヤン国の王族に乱暴を働こうとした。
いや、剣を向けたのだ。事の大きさが理解できたか?」
「私に剣を向けた事は、許してもよい。剣を向けてきた者達は、黒騎士達に一刀両断されていたからな。
いや、ロムニア国にきて早々たいそう痛快なものを見せてもらった」
サラ・アナトリーは、顔を真っ赤にし両拳を堅く握っているクザ元伯爵へ、満面の笑みを向ける。
「騎士アレク、なにか弁明はあるか? 別にそなたや配下の騎士達に罪を問う事はしない。あくまで、命令を下したのはクザ元伯爵だ。
一人、罪を償ってもらおう。そして、国への裏切り行為は、連座制を適応する」
イムーレ王子は、黒騎士へ少し視線を向け、クザ元伯爵に戻す。
「だが、黒騎士は、関与していない者への処罰をことのほか嫌がる。黒騎士の価値観を尊重し、連座制は適応せず、クザ元伯爵一人の処罰で済ませる。
どうだ、クザ元伯爵、家は取りつぶされるが、家族は一市民となり助命されるのだ。
悪くない話だと思うぞ」
「ぐぅぅぅ…」
クザ元伯爵は、打開する手が何もない、ただ呻く事しか出来ない。
「イムーレ王子、これを見ていただきたい」
騎士アレクは、胸元より書状を取り出すと下座で記録をしている文官を呼び、イムーレ王子へ書状を渡させる。
「ふむ…」
イムーレ王子は、2回読み直しカローイへ書状を渡した。
「聖イリオス領の大司教アルマ・アデランが、クザ元伯爵へしたためた書状であり、教皇ピサロ・コンキスタが内容に同意する旨のサインも記されております。
これは、クザ家が長年聖イリオス領と懇意にしてきた結果であり、特に北方からモスコーフ帝国の脅威にさらされているロムニア国にとって、非常に有意義な提案だと考えます」
騎士アレクは、イムーレ王子他、元老院会議に出席している者達全員へ視線を向けながら丁寧に説明する。
「聖イリオス領・教皇ピサロ・コンキスタは、黒騎士との会談を望む。
そして、ロムニア国との親善がなされた場合、シーラ諸国連合へ聖イリオス領・教皇ピサロ・コンキスタの望みとしてロムニア国との10年間の不可侵条約を結ぶよう促す。
モスコーフ帝国に支配されていた時の事であるとはいえ、シーラ諸国連合は、何度も侵略戦争を仕掛けられ、その先兵は元ロムニア公国の騎士達であった。
国が変わったからと言っても、その恨みや不信感は簡単には払拭できない。
しかし、黒騎士との会談後、シーラ諸国連合との不可侵条約を結べるならば…」
カローイが書状の内容を説明した後、腕を組み考え込む。
すると、ルデン辺境伯の代理として出席している長男、シュトラス・アウスブルグが口を開く。
「シーラ諸国連合と不可侵条約を結べるのなら、シュメ、ダルノに展開している我らの負担がかなり少なくなります」
シーラ諸国連合は、小規模の多くの国や都市国家の集まりであるが、連合としての国土の大きさならイシュ王国に引けを取らない面積を持つ。
そして、帝国が何度もシュメ・ダルノを中心として、侵略軍を派遣したため、国境沿いの山脈には、諸国連合の騎士が2千人から3千人、市民兵が6千人程入れ替わりながら常駐していると言われている。
「たしかに、聖イリオス領の教皇が仲立ちとなるならば、教皇を盟主と敬っている諸国連合の国々は、不可侵条約を反故にすることはないだろう。
すると…シュメ、ダルノに駐在しているバラン・テュルク族の族長ドナト率いる黒山羊騎兵150名、バルタ・テュルク族の族長カラト率いる黒山羊騎兵150名、合わせて300名の黒山羊騎兵が、北方の都市ブザエの守備にまわせる。
いや、ルデン辺境伯軍の一部も回せるかもしれないな…」
「イムーレ王子、カローイ殿、この書状の意味を理解していただけたか?」
騎士アレクは、藁にもすがる思いで2人を見る。
「ロムニア国にとって有益な書状だな、だがクザ元伯爵の死罪を取り消すほどではない。
王都内での戦闘行為、そしてそれを行った者が、伯爵…伯爵と言う立場の重さを死して理解するがいい」
イムーレ王子は、騎士アレクへ返事はせずに、冷めきった目でクザ元伯爵を見る。
クザ元伯爵は、自分が死ぬという現実を徐々に理解し始め、顔が青ざめ、口がわなわなと震えはじめる。
「黒騎士殿、伏して…伏してチャンスを、チャンスを頂きたい。
たしかに、クザ元伯爵の行為は、ロムニア国の方針に反する愚かな行為だった。
その行為で、我らは80名以上の騎士の命を失った。
これは、クザ元伯爵を止められなかった、我ら騎士の自業自得でもある」
騎士アレクは、イムーレ王子とカローイが聖イリオス領の書状では動かないとみると、片膝をつき黒騎士へ向け深々と頭を下げる。
「しかし、それでも我らにとっては…先祖代々クザ家に仕えてきた我らにとっては、クザ家は必要なのです。
ここで、クザ家お取りつぶしとなれば、帝国の傘下となりながらも必死にクザ家を立ててきた我ら父・母たちの苦渋の思いが…20年の思いが無駄になってしまう。
クザ家を残して頂けるならば、我らは帝国との戦いにおいては、先陣を駆け、鬼人となり剣を振るう覚悟!」
騎士アレクは、僅かに視線を横へ向ける。
「黒騎士殿、私も同じ覚悟です!」 「私も!」 「私も!」
アハナ・タール男爵、リブロデ・シミエント準男爵、ヴィクトル・イトネスク騎士爵の3人も片膝をつき、深々と黒騎士へ頭を下げる。
すると、クザ元伯爵も片膝をつき、黒騎士へ頭を深々と下げた。
そして、顔を上げ黒騎士へ懇願する。
「黒騎士殿、どうか私に罪を償うチャンスを与えてください、司祭マリナの理念を理解せず、部下80名をも死地へ行かせてしまった愚かな私に…どうか、罪を償うチャンスを…」
黒騎士(博影)は、沙耶を危険に晒してしまったこと…そして、このような司祭マリナの理念に従わない貴族は生かしておく必要はない、又、見せしめの意味を兼ねて死罪とした方が良いと考えている。
しかし、目の前で片膝をつき必死で…罪を償う機会を…と懇願する者達をみると、どうしても日本で暮らしていた甘い考えが沸き起こり、迷いが出る。
もし、黒騎士配下の者達が一人でも死んでいた場合、決して黒騎士はクザ元伯爵を赦しはしないのだが…
黒騎士は、腰の剣から手を外す。その様子を確認したカローイは、口を開く。
「聖イリオス領の大司教が、なぜ聖イリオス領を訪問していた司祭マリナへシーラ諸国連合との仲裁の件を話さなかったのか気になるところだが…
騎士アレク、アハナ男爵、リブロデ準男爵、ヴィクトル騎士爵、この世界の我々の価値観であれば、クザ家は取りつぶし、一族郎党全員死罪だ。
だが、このロムニア国は司祭マリナと黒騎士、2人の理念や価値観の元、建国された。
その価値観を尊重するならば、罪を償うチャンスが欲しいと跪くクザ元伯爵やアハナ男爵達の願いを無下にするわけにもいかないだろう」
カローイは、イムーレ王子を見る。
イムーレ王子は、仕方がないなと言うふうに少しため息をつくと…
「クザ元伯爵は、準男爵へ降格する。それもきたる帝国との戦で結果を残せぬならクザ家は、取りつぶしとする。
そして、都市ガランとガランに関わる領地は認めるが、都市ブザエとブザエに関わる領地は、此度迷惑を被り又、聖ギイスやティムリヤン国との交渉をまとめた黒騎士へ報償を兼ねて与えるものとする」
「イムーレ王子、しばしお待ちください。黒騎士は、ロムニア国では将軍と言う名誉職に就いていますが、聖ギイスより伯爵を受け賜わり、アルメリア公国の君主となっています。
その者に対し、名誉職ならば良いですが、ロムニア国内で領地を与えるというのは…若干問題かと…」
カローイの進言する通りなのだが、カローイは、博影(黒騎士)が、ロムニア国に縛られないようにとの考えである…しかし、司祭マリナがそこへ案を出す。
「たしかに、アルメリア公国の君主である黒騎士様にロムニア国の爵位や領地を与える事は問題かもしれませんね。
では、黒騎士様の部下に与えてはどうでしょうか?
黒騎士様の部下、治癒師博影様は、治癒師としては教皇以上ですし、剣を取ればウーヌスナイト(上級騎士)数十人に囲まれても引けを取らぬでしょう。
治癒師として、テュルク族や鉄意騎士団、ダペス家騎士の信頼も厚いと聞きますし、此度の聖ギイス領やティムリヤン国でも治癒師として多大な功績があったと聞いています。
いかがですか?」
司祭マリナは、黒騎士へ満面の笑顔を向けた。
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